その後の体力テストは手を抜いてやってくことになったわけだけど、これがなかなか難しい。
 あんまりあからさまにってのも不自然だし、自然と力がこもっちゃいそうになるし…結局、他の子よりちょっと運動能力高いかも、って見えるくらいの結果で収まったはず。
 もやもやはするけど、しょうがないか…とにかく制服へ着替えて、今日はそれでもう放課後。
 昨日と同じ様に、お昼は購買で何か買って食べようってことで閃那とそこへ向かう。
「あの、雪乃さん? 先ほどの走り、素晴らしかったです…もしもまだ部活を決めてらっしゃらなければ、陸上部へ入りませんか?」
 と、教室を出たところで一人の生徒に声をかけられた。
「えっ、何? それってどういう…」
「あっ、それでしたらソフトボール部へ」「雪乃さんの運動神経でしたら体操部がいいと思います」「いえいえ…」
 で、一気にあたしの周りに人だかりができちゃったけど、何これ。
「あの、私たちこれからお昼なんで、そういうのは後にしてくださいませんか?」
「あっ、ごめんなさい」「そうですわ、九条さんもよろしければ…」
「あー、いえ、私はいいです」
 閃那が他の人たちと話をつけてくれたから、ひとまずあたしも彼女についてその場を後にしたのだった。

「さっきのあれ、どういうことなの?」
「あれは部活動の勧誘です。体力テストのことからああなると予想はしてました」
 購買でパンを買って、昨日と同じ場所でお昼を取るんだけど、そこで話題にしたのはさっきのこと。
 で、食事しながら部活動ってものについての説明を聞けたんだけど、何て言えばいいのかしらね…つまり生徒主体で何か特定のことをする集まりのことみたいで大雑把に分けると運動系と文化系ってのに分けられるらしく、前者は運動神経がよくってまだどこにも属してない人がいると積極的に勧誘されるらしい。
「特に今は新一年生の勧誘の盛んな時期ですから。体力テストでのティナさんを見たら、まぁあんなアニメみたいなことになって当たり前なんです」
「そ、そうなの…」
 初日のホームルームで説明があった気もしたけど、理解できなくて頭から抜けてたのね…。
「どこに入るもティナさんの自由ですし、どんなものがあるか見学してきたらどうですか?」
 そう、ね…気にならないってわけじゃないけど、それより気になることがある。
「閃那はどうするのよ?」
「私はどこにも入る予定ないです、部活は強制じゃないですし」
「ふぅん、そうなの? ならあたしも…」
「ダメですって、私がそうするからじゃなくって、ティナさん自身の意志で決めてください」
 彼女ならむしろ同じにしてほしい、って言うかと思ったんだけど、ずいぶんな正論言われちゃった。
「ということで、ティナさんは部活見学でもしてきてください。私は用事がありますので」
「…へ? あ、う、うん…」
 食事を終えた彼女、そそくさと立ち上がって去っちゃった。
 同じ用事があるにしても昨日とはずいぶん態度が違って、あたしは戸惑っちゃってしばらくその場から動けなかったの。

 今の時期、新一年生勧誘のためな部活見学は盛んに行われたけど、どうにもそういうのをする気にはなれなくって。
 ならもうお社に行けばいいんだけど、それもできずにいた。
「閃那の用事って、何なのかしらね…」
 昨日はそこまで気にならなかったんだけど、今日は彼女の様子がちょっとおかしかったってこともあって気になった。
「…ちょっと、探してみるか」
 内容も言わずに行っちゃったってのも気になって、そうすることにした。
  幸い、閃那くらい強い力を持った人ならちょっと離れてても集中して感じ取れば気配である程度の居場所は解る…ってことで誰もいない林の中、あたしは目を閉じて集中、あたりの気配を感じ取る。
「…いた、これか」
 あの子の気配だもの、すぐ解った…学園の敷地内にいるみたい。


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