ちょっとしたことがありながらも準備も終えて登校。
「おはようございます、九条さん、雪乃さん」「昨日も仲のよろしいご様子が見られてとってもよろしゅうございましたわ」
 教室へ入るとクラスメイトが挨拶してくれるけど、昨日のあれがやっぱり注目浴びたみたい…はぁ。
 で、実力テスト、身体測定ときて、今日は体力テストってのをするとのこと。
 身体を動かしやすい体操着って服装に着替えることになったけど、今日はそれしかないんだからはじめから体操着で登校しちゃえばいい気がする…いや、登下校は制服で、って決まってるみたいなんだけどね。
 あと、教室で着替えればいい気もするんだけど、ちゃんと着替え用の更衣室があるからそこで着替えることになる。
 四月はまだ衣替えの季節じゃないとかで体操着の上に長袖のジャージってのを着るんだけど、あたしとしては今でも十分暑い気がしてる…この先が怖いわね。
「ティナさんの体操着姿、もっと堪能したかったです。ジャージ姿もこれはこれでありですけど」
 運動場っていう校舎の外にある広い平地に出るんだけど、もちろん一緒にいる閃那がそんなこと言う。
  制服とかパジャマに巫女の服、そしてあたしが元いた世界で着てた服とか、閃那はどうもあたしが色んな服装してるのを見て楽しんでるみたい。
 あたしは今まで服装とか気にしてなかった、っていうより気にする様な環境になかったわけで、そんなことで閃那が喜んでるならそれはいいんだけど…
「…あたしとしては、着替えのときにみんなが何かこっちを気にしてたみたいなのが引っかかったわ」
 ちらちら見られてた様な…あれは気のせいじゃないわ。
「そんなの当たり前です、スタイル抜群でかっこいいティナさんが黒下着つけてたんですから、みんな気にならないわけないんです」
「…は? あれってそういう…まさか、そうなるって思って今の下着渡してきたとか?」
「もちろんです、みんなに見られちゃうのに地味な下着とか、そんなの許されません」
 いや、そんなのどうだっていいでしょ…本当、こういうとこは解んないけど、今の時代だとそういうものなのかしらね。
「…でも、そんなこと言うなら閃那はどうなのよ。見た感じ地味っぽかったけど」
「私はいいんですよ、ちんちくりんですし」
 何か納得いかないわね…その言いかただと閃那の身体に魅力ないみたいじゃない。
 そんなことないでしょ、って言いたいとこだったけど、こんなとこでそういうの言うのってどうかと思ったから何とかこらえた。

 体力テスト、っていうのは一定の短い距離を走ってその速さを測ったり、ボールを投げてその飛距離を測ったりと、個人の運動・身体能力を見るためのものみたい。
 ま、実力テストの運動版よね…こっちにくるまではあんな生活してたし、こっちのほうが気楽でいい。
「…ちょっと、ティナさんティナさん」
 なのに、はじめの測定項目な短距離走を終えたところで閃那がちょっと深刻そうな表情で声をかけてきたの。
「どうしたのよ、そんな顔して」
「え〜と…ティナさん、あんまり本気出さないほうがいいですよ」
 しかも小声でとんでもないこと言ってきた。
「は? 何でよ、実力見るためのものなんだから実力出さなきゃいけないでしょ」
 そういうのは手を抜きたくないし、抜く理由もないでしょ。
「ティナさんは真面目で頑張り屋さんだからそう考えますよね…私も、そんなティナさんが大好きです」
「も、もう…う、うっさい。とにかく、なら何が問題だってのよ」
「うーん、ティナさんは自覚なさそうですけど、私たちの身体能力って普通の人とは較べものにならないくらい高いんですよ…魔法の力を使わなくっても」
「まぁ、体力には自信あるけども」
「そういうレベルじゃなくって、私とティナさん、それにままたちは、今の時代でちょっと前に流行ったはずの異世界転生してチート能力持って最強ハーレムしてる気持ち悪い設定なラノベの主人公みたいなものなんです」
「…は? 何言ってんのか全然解んないんだけど」
「あ、これはティナさんには解らない例えでした。とにかく、学力ならともかく身体能力では私たちは異常なんですから、本気出してこういうのやると目立って大変なことになるんです。現にほら…」
 あたりを見まわる彼女につられてあたしもそうしてみるけど、みんなこっちを…何かに驚いたりしたかの様に注目してきてた。
 何か納得いかない…けど、でもあたしの魔法とされる力だって、あっちじゃ強すぎるって恐れられたりもしたっけ…。
「…なら、どうすりゃいいのよ」
「それはもう、適度に力を抜くしかないです。ほら、エリスままだってそうしてますよ」
 見るとちょうどエリスさんが短距離走してたんだけど、明らかにもっとはやく走れるくせに他の子と変わらないはやさで走ってた。
「そういえば閃那もあんな感じだったわね…叡那さんもやっぱそうなのかしら」
「あ、ねころさんは元々運動神経悪いんです。そんなところもかわいくて微笑ましいところです」
 うーん、ひどいこと言ってる気がするんだけど、解らなくもないかも。
「もちろん、ティナさんがこの世界でチートしてラノベみたいに活躍したい、っていうなら話は別です。でも、そんなことすると絶対ハーレムになって邪魔者がたくさん現れるに決まってますから…私は、嫌です」
 また解んない表現されたけど、最後の一言には力がこもってた。
 でも、あたしがどうしたいか、か…確かにあたしの力があれば、今の世界で生きてる人たちとは違うことができる、その自覚はある。
「そうね、あたしも目立つ様なことはしたくないわ」
 元々この時代の人間じゃないあたしが勝手するのはよくない、って気持ちもある。
 未来からきた閃那、別の世界からきたエリスさんもそういう理由で目立たない様にしてるのかも…叡那さんはそういうわけじゃないけど、あの人はあの人でかなり特殊な事情があるものね。
 でも、あたしにとっての一番の理由はやっぱり、閃那をはじめとした大切な人と穏やかに生きてければいい、ってとこね。
「はぁ…じゃあ、ここで力を抜くのもしょうがないのか」
「ティナさんにはストレスでしょうけど我慢してください。あぁ、でもこのお話はもっと前にしておくべきでしたよね…もう短距離走しちゃいましたし」
「うっ、そ、そうよね…どうしよ」
「まぁ多分、時期が時期だけに学校内で面倒なことになるくらいで大事にはならないと思いますけど…」
 そこまで言った彼女、またちょっと深刻そうな表情になる。
「…何よ?」
「ティナさん…ティナさんがやりたいこと、興味あることあったら、私に遠慮なくやってくださいね? 私は、さみしくなんかないですから…!」
「いや、唐突にそんなこと言われても…どういうことよ?」
「それは…すぐに解るかも、ですね」
 ちょっとさみしげにも見える彼女、本当に何だというのか…。


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