「ティナさん、お疲れさまでした」
「ふぅ…ん、ありがと、閃那」
 一息ついたあたしのそばへ閃那が駆け寄ってきて、ハンカチで汗をぬぐってくれた。
「いえいえです…えへへっ」
 なぜか嬉しそうにしてハンカチをしまう彼女はついさっき、あたしと叡那さんとが剣を交わしてる間にお社へきたの。
 もう日も暮れかけ、ねころ姉さんが夕ごはんの準備を終えたっていうから今日はそこまでにしたっていうわけ…叡那さんは汗一つかかず涼しい顔で着替えにいっちゃった。
 あたしも一旦家にある、学生寮に入ることになったけど残してもらってる自分の部屋へ行って着替えることにした。
「ティナさんのお部屋、こっちも特に何にもないんですねぇ」
 一緒についてきた閃那がそんなこと言うけど、現状それで特に困ったりしてないものね。
「ま、学生寮のあたしたちの部屋のほうは、閃那が置きたいものとかあったら好きにしてくれていいから」
「えっ、本当ですか? じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね…あ、脱いだ装束は私が片付けますからください」
「ん、ありがと」
 学校の制服へ着替えて、流れで言葉通り受け渡す…と。
「ティナさんの汗のにおい…くんかくんか」
 あの子、あたしが渡した服に顔をうずめちゃってる…!
「…んなっ、な、何してるのよっ? 汚いでしょ、やめなさいっ」
「えぇーっ、ティナさんの汗は汚くなんかありません。とってもいいにおいです」
「い、いや、そんなわけ…まさか、さっきのハンカチでもこんなことしたりしないわよね?」
「えっ、それは…どうでしょう?」
 あからさまに目を逸らしたりして、さすがにちょっと…どうなのよ?
「…あんたたちね、仲いいのはいいけど、ほどほどにしときなさい?」
 と、あたしが何か言い返そうとした前に、部屋へ入ってきたエリスさんが声をかけてきた。
「はひっ、え、えーと、これはですね…」
「まぁ、二人きりのときのことまで止める気はないけど…今日の身体測定のときみたいなのはどうかと思うわよ、ちょっとは自重してよね」
「は、はい〜…」
 冷ややかな視線向けるエリスさんに閃那はたじたじ…立場上言い返しづらいのは解るけど、あれ見られてたのか…。
「とにかく、もう食事の準備できてるんだから、さっさときなさいよね」
 そう言い残してエリスさんは部屋から出ていった。
 ちょっと恥ずかしいとこ見られたけど、でもこれで閃那も少しは反省したかしらね。
「…ぶぅ。あんなこと言って、エリスままのほうがずっと、ずぅ〜っと人目をはばからずいちゃいちゃ甘えてるくせに」
 と思ったら、何だかものすごく不貞腐れちゃったんだけど。
「…へ? それって、つまり…閃那の時代のエリスさんが叡那さんに、ってこと?」
「そうですよ、なのに自分のこと棚に上げてあんなこと言って…」
「いや、まぁ、あのエリスさんは閃那の母親そのもの、ってわけじゃないし…」
 閃那はエリスさんと叡那さんの娘、なんだけどそれはあくまで未来のことなうえ、あたしがきたのが大きな理由っぽいけどこの世界は閃那がきた世界とは歴史が変わっちゃって、彼女の未来とは繋がらなくなっちゃってる。
 だからこそ閃那が正体を明かしてこの時代の学校へ通ったりしても問題ないってなったわけ。
 にしても、閃那の未来なエリスさんはあたしへ対する閃那以上に叡那さんへ甘えてる、って…ちょっと色々、想像できないかも。

 閃那の親はその二人ながら、この世界の二人はその未来には繋がらず、閃那は叡那さんの妹ってことにして学校へ通うっていうややこしい状態。
 この世界の叡那さんはねころ姉さんとお付き合いしてて、エリスさんは叡那さんが好きなものの二人の関係を応援してて、そんな中でそんな別の未来があった、なんて知っちゃったりして。
 こんなんだから閃那を巡るみんなの関係はぎくしゃくしちゃいそうなものだけど、毎日夕ごはんを一緒に食べたりと普通に受け入れられてる。
 このあたり、歴史が変わってるから別の人だってことで受け入れたりしてるのかしらね。
「とんでもない、やっぱりあのお二人といるときは緊張してます」
 と、食事も終えてお社から学生寮へ帰る途上、閃那がそう言ってきた。
 ちなみに昨日は歩いて帰ったんだけど今日は空を飛んでて、あの子はあたしの腕にしがみついてる。
「そうなの? あんまりそんな風には見えないけど…それに、緊張とかするなら一緒に食事したりするの、無理しなくていいわよ?」
「いえ、今みたいにしていきたいです。ここでのお二人はティナさんの家族なわけですし、ねころさんも含めて、大好きな人の家族とは仲良くしてきたいですから」
「…ふぅん、そっか」
 そう言ってくれるなら、こっちからは何も言うことはないか。
「いずれはティナさんをください、結婚しますってお伝えしないといけませんし…私の時代でもままたちに報告しないとですし、変な感じですね」
「そうね…って、け、結婚っ? も、もうっ」
 いきなりどきってする様なこと言わないでよ、全く。


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