で、そんな今日は体育館っていう運動するためな広い空間のある建物に向かう。
 といっても今日はそこで運動するってわけじゃなく、年に一回の身体測定をするとのこと。
「ふぅん、そんなことするのね。でも何でわざわざそんなこと?」
 体育館へやってきて、でも他のクラスの人たちがそれを受けててあたしたちの順番はまだだったから、端のほうでそれを眺めながら隣にいるあの子に声をかけた。
「えっ、何でって言われても…年度はじめの実力テストと身体測定、それに明日の体力テストは恒例行事ってことで特に気にしたことありませんでした」
「ふぅん、そっか」
「あ、でも身体測定は毎年やって自分の成長を記録したり、あとは健康状態を確認するって意味があると思いますよ」
「そんなものか…あたしは今までそういうの、調べたことなかったわ」
 見ると背の高さや身体の重さ測ったりしてるけど、そんなことお城にいた頃にだってしたことない。
「閃那はあっちにいた頃してたの?」
 こんな会話他の人たちに聞かれたら入学前一緒にいなかったってことが知られちゃうけど、みんなあたしたちとは少し離れたとこにいるから大丈夫。
 …でも何かこっちを気にしてきてる様にも見えるんだけど、気にしないでおこう。
「それはまぁ、恒例行事ですから…はぁ」
 ずいぶん憂鬱そうにため息つかれちゃった。
「…何よ、どうしたの?」
「身体測定にはいい思い出ないんです」
「何でそんな…あ、もしかして、あっちにいた頃に他の人と何かあったりしたの?」
 どうも彼女は元いた時代の学校で他の人とうまくいっていなさそうだった、ってのを思い出してそうたずねるけど、彼女は首を横へ振る。
「そんなんじゃありません。今年だって…はぁ」
 またため息つかれちゃって、改めて声かけようとしたけど、あたしたちのクラスに測定の順番が回ってきちゃった。
「ま、ともかく測定はしなきゃいけないんだから、行くわよ」

 測定する過程にでも問題あって彼女がため息ついてるんじゃないかとも思ったんだけど、特に問題なく終わっちゃった。
 こういうのはじめてだったからやっぱり新鮮だったかも…特に視力検査とか、ああやって目のよさを調べてるのか。
 全部の測定結果の記録された紙は提出するわけだけど、見るとそれを見せ合ったりしてる人の姿もあったりする。
「閃那、結果どうだったの? 見せてくれない?」
 だから、さっきの実力テストの様なものかと、気軽な気持ちであの子へ声をかけた。
「…う、うぅ、ティナさんがいじめてきますー!」
 なのに、あの子はそんな声上げたかと思うと、泣き出してくる…!
「…は? ちょっ、何でそうなるのよ、誰もいじめてないでしょっ?」
「だってだって、結果を見せろだなんて残酷なこと言ったじゃないですか…えぐえぐ」
 大げさに涙をぬぐう動作されるけど、よく見たら…
「何よ、泣き真似じゃない、驚かせるんだから…。で、それの何が残酷だっていうのよ?」
「むぅー、女の子の体重聞くとかひどいことなんですよっ? ティナさんは見せられるんですかっ?」
「別に見せられるけど…はいこれ」
 あんな力説されてもこっちには隠す理由がないから素直に紙を差し出してあげる。
「え…い、いいんですか? 本当に見ちゃいますよ?」
「別にいいってば、さっさとしなさいよね」
 私に急かされてやっと紙を受け取り、それへ目をやる彼女…さっきのテストのときよりまじまじと見てる気がする。
「…むぅーっ! そりゃティナさんなら堂々と人に見せられますよねっ」
 かと思ったら頬を膨らませたりして、かわいい…じゃなくって。
「な、何でいきなり怒り出すのよ…さっきから意味解んなんだけど」
「意味解らないのはティナさんの身体のほうですっ。何です、こんな身長高いのに体重は軽くって…」
 彼女、そんなこと言ったかと思うと…あたしの腰に抱きついてきた?
「んなっ、ちょっ、何して…!」
「すごい、無駄な肉が全然ないです。こんな引き締まったお腹なうえ…」
 あたしの声なんか意に介さないっていった様子で、今度はあたしの胸に顔をうずめてくる…!
「なっ、せ、閃那、落ち着きなさいってば…!」
「お胸はこんなに大きいなんて、ティナさんはずる過ぎます、反則ですっ」
「は、反則って何よ…んぁっ、い、意味解んないこと言わないでっ」
 もうっ、落ち着くどころかさらにぎゅって抱きついて胸に顔をうずめてきてるし…!
「でもでも、ティナさんの身体はみんな私のものなんですっ。この大きくて気持ちいいお胸も、夜にはかわいがって…ふぎゅっ!」
 い、いけない、危ないこと言いそうだったから思わず手が出ちゃった。
「う、うぅ〜っ、ティナさんが、ティナさんがぐーで殴りました!」
「しょ、しょうがないじゃない、あんたが全然落ち着かないから…!」
 ようやくあたしから離れてくれた彼女だけど、ちょっと涙目になってるかも。
「ひ、ひどいですー!」
「ひどくないっ。全然本気じゃなかったし、それに…いや、えと、あたしもちょっとひどかったかもだけど、でも閃那が全然落ち着かないから、しょうがなく…」
 さすがに手が出ちゃったのは悪かったわね…。
「…あんたのせいでみんなこっち見てるじゃない。どうしてくれるのよ」
「え…わっ、本当ですね、ごめんなさい…」
 途端にしゅんとされちゃう。
「いや…まぁ、もういいわよ。それより、何であんなことしたのか、ちゃんと説明しなさいよね」
 みんな確かにこっちを注目してきちゃってるけど、遠巻きに眺めるばかりだからひとまず気にしないでおこう。
「だ、だってだって、ティナさんがずる過ぎるから…」
「だから、ずる過ぎるって何がよ?」
「その身体ですっ。背も高くってお腹も引き締まっててお胸も…しかも美人さんですし、完璧ですかっ」
「い、いや、意味解んないから…」
 力説されても、彼女が何を言いたいのかいまいち伝わんない。
「それに較べて私はこんなちんちくりんですし、体重だって…好きなお菓子とかも気にして食べなきゃいけないんですよっ?」
「ち、ちんちくりんって…それに、そんなの好きに食べればいいじゃない」
「そんなことしたら太るじゃないですか!」
 え〜と、何とか話の筋が見えてきた、気がする。
「…つまり、閃那は体型のこと気にしてるの? そんなのどうでもいいじゃない」
「よくないですっ。そんなの、ティナさんは叡那ま…お姉さまみたいに全部持ってるから余裕でいられるんですっ」
 そんなこと言われたって、そんなのに優劣あるとは思えないし、それに…。
「…あたしは、閃那のこと、体型も含めて好きだけどな」
「ふ…ふぇっ?」
 あ、固まっちゃった。
「さっき、閃那はあたしのこと美人だとか言ってたけどとんでもない、閃那のほうが美人だし、かわいい」
 第一印象とはずいぶん違ってきてるけど、そこもまたいいのよね。
「身長? 胸の大きさ? そんなの…そういうのも全部ひっくるめて、今の閃那のこと、好きよ」
「…ティ、ティナさーんっ!」
 感極まったって様子であの子が抱きついてきちゃった。
「本当、本当に本当ですか? それに、今のだなんて言って、もし私が成長したりしたら、嫌いになるんですか?」
「本当だし、それに…そんなわけないでしょ、閃那は閃那なんだから」
「ありがとうございます…えへへ、ティナさん、大好き」
「ふふっ、私もよ」
 甘えてくる彼女をやさしく撫でてあげる…って!
「…え、え〜と、とにかく、そんなことは気にしなくってもいいんだからねっ?」
 周囲の視線に気づいて慌てて彼女を引きはがす。
 他のみんなはやっぱり遠巻きに、でも確実にこっち注目してきてて…今のやり取り、みんな見てたのよね。
「ティナさん、もっと甘えさせてくださいよ〜」
「う、うっさいっ、そんなのダメに決まってるでしょっ? そんなことより、さっさと結果提出しに行くわよっ?」
 しかも、勢いに任せてかなり恥ずかしいこと言っちゃったし…閃那の機嫌がよくなったのはいいんだけど、参ったわね…。


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