そんなあたしたち、校舎へ入って教室へ向かおうとする…と。
「あら、ティナ、それに…せ、閃那じゃない。えと、おはよ」
廊下でかかってきたそんな声に顔を向けると、そこには見知った人の姿。
この学校…いや、もっと言えばこの今の世界で見知った人なんて閃那以外には三人しかいないんだけど、あたしたちに声かけて歩み寄ってきたのはそのうちの一人。
「あぁ、エリスさん…うん、おはよ」「え、えと、おはようございます」
黒い髪の多いこの国の人たちの中にあって鮮やかな金色の髪だったりと目立つ印象を受ける彼女は冴草エリスさん。
彼女と閃那が互いにちょっとぎこちない様子になってるけど、この二人の関係を思えばしょうがないといえる…このあたりのことはややこしくってちょっと一言じゃ説明できない。
「学校で会うのってはじめてね…ふーん、仲よさそうね」
彼女とは昨日もお社のほうで会ってるけど、言われてみると…って、あたしたちの繋いだ手に視線が向けられてる?
「あっ、いや、これは…」
「もう、ティナさん、どうして手を離そうとするんですか…別に隠すことじゃないですよ」
「そうよ、私も別に悪いとか言ってないし、ただ微笑ましいわねって」
そう言われたりするのが恥ずかしいんだけど…閃那が離してくれないからそのままでいるけれども。
「二人とも同じクラスになったんだっけ、学生寮の部屋も同じってことだし、よかったわね」
「はい、本当によかったです」
閃那は満面の笑顔を浮かべたりして、ぎこちなかったのははじめだけね。
「エリスさんは別のクラスか…お昼ごはん一緒に食べたりする?」
「そんな気を遣わなくってもいいわよ、二人の邪魔できないしね」
かえって気を遣われちゃったけど、夕ごはんは一緒に食べるんだしまぁいっか。
「あっ、九条さん、雪乃さん、おはようございます」「おはようございます、お二人とも」
「えっと、うん、おはよ」「おはようございます」
エリスさんと別れあたしたちのクラスな教室に入るとすでに結構な人数の子たちがきてて挨拶してくるから、あたしたちも返事してく。
何気ないことなんだろうけど、でもこういうのってあたしの今までの生活にはなかったことだからやっぱりちょっと新鮮よね。
「お二人とも、今日も仲がよろしくって何よりですわ」「もう、このクラスのベストカップルといってもいいですね」
で、さっきのエリスさんみたいなこと言われちゃうんだけど、あたしたちって先日クラスのみんなの前で恋人同士だって言っちゃったものね…それ以来クラスの子たちの視線が何というか、生暖かい気がする。
「えへへ、ありがとうございます」
あたしは恥ずかしくなるんだけど、閃那は嬉しそうで…まぁ、そんな彼女もかわいいんだけども。
「九条先輩と雪乃先輩もお似合いすぎるカップルですし、姉妹揃ってだなんて素敵です」「ええ、まさかあのお二人に妹がいらして、しかもお二人ともこのクラスに入っていらして、さらにはお付き合いされているだなんて色々驚かされましたわ」
「そ、そうですね、あはは…」
でも、そんな話題になると閃那はちょっと気まずい様子に…まぁしょうがないわよね、あたしだって同じ気持ちだし。
「クラス一同、お二人のこと応援いたしますわ」
「ありがとうございます…えへへっ」
まぁ、そんなこと言われてまた照れた様な笑顔になるのだけども。
「ティナさん、よかったですね、皆さん私たちのこと応援してくれるそうですよ」
「う、うっさい、そんなの知らないわよっ」
で、あたしにも微笑みかけてきたのだけれども、周囲の目といい色々恥ずかしくって思わず目を逸らしちゃう。
「えぇ〜っ、ティナさんは嬉しくないんですか? それに、皆さん応援してくれるっていうことは、ティナさんのこと誰かに取られたりする心配がないってことで安心できますよね」
「だ、だから知らないわよ、そんなの…!」
誰かに取られるとか、そんなのあたしより閃那さんが、だと思うし…!
「これは…ツンデレというものですね」「ええ、そうですわね…雪乃さんはかっこいいですけれど、これは微笑ましいですわ」
「そうですよねっ。ティナさんかわいいです」
「んなっ、何をよく解んないことを…うっさいっ!」
「まぁまぁ、ティナさん、落ち着いてください」
「あんたたちが変なこと言うからでしょ、もう…」
本当、何なのよ一体。
「お二人とも、お姉さまがたとは性格が全然違いますね」「でも、そんなお二人もいいですわ」
と、私がちょっと戸惑ってる間に、クラスの人たちのほとんどがあたしたちのまわりに集まってきてたうえ、何か改めてって感じでまじまじと見てきてた。
変なこと言われるよりはまだいいけど、でもやっぱ落ち着かないわね…。
「…あの〜、どうしました?」
たまらず閃那が声を上げる。
「あっ、ごめんなさい、お二人ともやっぱりおきれいですよね」「思わず見とれてしまいましたわ」
「は、はぁ、確かにティナさんは本当きれいですけど…ありがとうございます」
戸惑う彼女だけど目を惹くのは確か…って、あれっ、今のって私も含まれてた?
「でも、先ほど性格は違うと言いましたけれど、九条さんには九条先輩の面影を感じます」「体型は違いますけど…こほん、やっぱりどことなく似た雰囲気を感じますわ」
まぁ、閃那は叡那さんの妹どころか娘、だものね…そういうの感じて当たり前か。
って、この話の流れ、嫌な予感がする。
「雪乃さんは…雪乃先輩とは全然違うかも、ですね」「言われないと姉妹だなんて気づきませんわ」
やっぱりあたしのことになったけど、あたしとねころ姉さんは実の姉妹じゃないものね…。
「雪乃先輩っていったら、やっぱりあのかわいらしい猫耳ですね」「雪乃さんは…」
「…何よ、そろそろチャイムが鳴る時間だし、席へ戻ったら?」
「あっ、こ、これは失礼しましたわ…!」「そ、そうですね、では私たちは…」
あたしが遮るかの様に、少し視線を鋭くして声を上げたら、みんな少し慌てながら席に戻っていった。
少し怖い、とか思われたかしらね…ま、別にいいけど。
「…ティナさん、あのお耳のこと、他の子たちには隠しておくんですか?」
あたしも自分の席につくんだけど、閃那はそんなあたしについてきて小声でそんなことたずねてきたの。
「ティナさんのあのお耳、かわいくって私は好きなんですけど…ずっと撫でていたいくらいです」
「う…うっさいわね」
思わず大きな声あげそうになっちゃったけど、何とか小声で言い返すにとどめる。
その彼女の言う耳っていうのは、あたしの頭にある、猫って動物に似たかたちした耳のこと。
過去にいたあたしの種族の特徴がこれだったんだけど、今の時代にはこの耳をした種族はもう存在しなくなってる。
ねころ姉さんも似た耳してるんだけど、あれはあたしと同じ種族だからってわけじゃなくって、それとは別のかなり特殊な理由から。
「まぁ、とにかく…そうね。隠しておくつもり」
で、他にそんな耳した人がいないってことから、今のあたしは長めの髪をツーテールにして、耳のあたりにリボンをして隠してるってわけ。
「う〜ん、残念です…でも、ティナさんのツインテールもかわいいですしお揃いでもありますから、いいんですけど」
「んなっ…うっさいっ。ほら、あんたもそろそろ席につきなさいよね」
あたしに促されて渋々といった様子で席につく彼女…全く。
耳については、そういうことで隠してるわけだけど、ねころ姉さんは普通に見せてるのよね…妹になってるあたしも隠さなくってもいいんじゃ、って少しだけ思わないこともない。
ま、それもあるけど、他にもあたしには周囲に隠しておくことがたくさんある…もちろん気をつけてくけど、大丈夫かしらね。
(第1章・完/第2章へ)
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