「ティナ、私、我慢できません…もっとティナのことください」
「あ、あたしも…じゃなくって! 今日もこれから学校でしょ、離れなさいっ」
 長い口づけの後、彼女が甘い声であんなこと言ってきちゃうけど、あたしはそんな彼女の身体を引きはがす。
「ティナさんのいじわる…ぶぅ」
 ふくれたりする彼女もかわいく、あたしも衝動を抑えられなくなりそうになるけど…ダメだってば。
 そんな彼女は九条閃那といって、この学生寮でのあたしのルームメイト、そして…あんなことしちゃってたことから解る通り、その、あたしの恋人でもある。
「ほら、遅刻とかしちゃいけないし、さっさと準備しましょ」
「ティナさんは真面目ですねぇ…私としては、朝はもうちょっとのんびりいちゃいちゃできればなぁ、って思ってるんですけど」
「んなっ、何言ってんのよ、そんなのダメに決まってるでしょっ?」
 あたしたちがこういう関係になってまだ間もないんだけど、閃那は気持ちをかなりまっすぐ、素直に出してくるのよね…あたしには恥ずかしくってちょっと無理だけど、そんなとこもかわいいって感じちゃう。
「もう、ティナさんは相変わらずかわいいですねぇ」
「…は? 何でそうなるのよ、意味解んないんだけど」
「そうですか? 何も解らないことなんてないと思うんですけど…やっぱり我慢できません」
「も、もうっ、落ち着きなさいよねっ?」
 あたしなんかのどこが、って気にならないことはなかったけど、また流されちゃうわけにはいかない。
「そ、そんなに朝のんびりしたいなら、はやく起きたらいいんじゃない? 剣の練習も、閃那と一緒にできるならそれもいいし」
「えぇ〜、でもゆっくり寝てたいですし、ティナさんが早起きすぎるだけな気がするんですけど。剣の練習は…これも、朝からするのはちょっと」
 そういえば、閃那と剣を交えたりしたこと、今まで一度もないわね…その実力は、あたしたちが結ばれる大きなきっかけになったあの戦いのときに見られて、力はあたし以上だって思うし、剣の腕だって十分…。
「ふぅん、そう…ま、いいけど」
 これから先機会はあるでしょうし、あんな気持ちよさそうに眠ってるのを無理に起こすのも、ね…それに、閃那のかわいい寝顔見ることもできるしね。

 ここの学生寮は食事を自分たちで用意しなきゃいけなくって、だから部屋ごとに台所がついてる。
「そろそろちゃんとしたもの作れる様になったほうがいいかしらね」
「うーん、私は別に、パンとかで十分な気がしますけど」
 でも、そんなこと話しながら朝ごはんを食べ終えたあたしたちは、お料理しなくってもいいパンですませちゃってる。
「今はいいかもしれないけど、この先もずっとこんなのでいいのかしらね」
 お昼は学食っていう学校で食事できる場所があって、夜は神社へ戻ってねころ姉さんの料理を、で今はいいわけだけど、そもそもあたしがこうして学生寮へ入ったのはある程度のことは自分でできる様にしなきゃ、って考えたからだものね…。
「この先、ですか?」
「うん、この先ずっとねころ姉さんに甘え続けるとか、よくないでしょ。学校にだってずっといられるわけじゃないんだし、将来的に二人とも料理できないとか困らない?」
「それはそうかもですねぇ…」
 そこまで半ば聞き流してた様子もあった彼女なんだけど、そこまで口にしたところで急にはっとした表情して身を乗り出してきた。
「ティナさん、それって将来的に私たちが二人きりで一緒に暮らすから、ってことですか?」
「そりゃそうでしょ、ねころ姉さんや叡那さんに甘えすぎちゃダメってことでここにきたんだし、卒業後もお社の外で暮らすつもりよ?」
 かといって距離を取りすぎるってのもさみしいものがあるから、この町のどっかで…ってのがいいかもしれない。
「そうですか、そうですか…」
 と、あの子は何だか満足げにうなずきながら立ち上がるとゆっくりこちらへ歩み寄ってきて…
「…うふふっ、ティナさん、大好きっ」
「んなっ、ちょっ、い、いきなり何よっ?」
 そのまま抱きつかれちゃったものだからびっくりしちゃう。
「だって、私とこれからもずっと一緒に暮らしてくれるんですよね? そんなに私のことを想ってくれているなんて…」
「へっ? い、いや、それは違…わ、ないけども…!」
 恥ずかしくって否定しそうになったけど、でもまぁ、そういうことなのは確かで…さっきの言葉も、彼女とこれからもずっと一緒にいるっていうのがもう自然な感覚で大前提になってたから普通に出てきたわけだし。
「うふふっ、ティナさんと同棲、そして結婚生活…今から楽しみです」
「な、何よ、今だって一緒に暮らしてるのと同じじゃない…って、け、結婚っ? い、いきなり何言い出してるのよっ?」
「何って、愛し合っていて一緒に暮らすんですから、当たり前のことを言っただけですよ?」
 でも、結婚って…あたしの元いた時代にもあったけど、あれって同性同士でできたんだっけ…?
「…ティナは、私と結婚したくないんですか?」
 うっ、抱きつかれたままうるんだ目で見つめられちゃってる…。
「う、うっさいっ、そんなの…い、言わなくっても解るでしょっ?」
「それでも、ちゃんとティナの口から聞きたいです…ダメ、ですか?」
 も、もうっ、そんな目で見つめられながらそんなこと言われたら…誤魔化したりできなくなるじゃない。
「ダメ、じゃないわよ…。その、えっと…わ、私だって、閃那と結婚、したいわよ…!」
 朝から何言わせてるのよ、恥ずかしい…!
「嬉しいです、ティナ…んっ」
「…んっ!? ちょっ…!」
 あの子、さらにぎゅって抱きついてきたかと思ったら、そのまま口づけしてきた…!
「ティナ…ん、ちゅっ」
「せ、せん…んあっ」
 しかもかなりあつく激しい口づけで、とろけちゃいそう…。
「んんっ…ティナ、我慢できないです。いいです、よね?」
「しょ、しょうがないわね…って、だ、ダメに決まってるでしょっ?」
 うっとりした表情の彼女に見つめられて流されそうになったけど、何とか我に返った。
「えぇー、そんなぁ…どうしてですか? やっぱり、ティナさんは私のこと、好きじゃないんじゃ…」
「そ、そんなわけないでしょ、あたしだって…じゃなくって! もうすぐ学校行かなきゃいけないんだから、そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「むぅー、ティナさんは真面目ですね…」
 いやいや、せっかくこうして入学することができたんだから、そこはちゃんとしなきゃダメでしょ。
「ほら、解ったら離れて準備しなさいよね」
「はーい…しょうがないですね」
 しぶしぶって様子で身体を離すけど、しょうがないのはどっちよ…。
「うぅ、でもやっぱり我慢できません、少しくらいなら…」
「も、もうっ、ダメに決まってるでしょ、我慢しなさいよねっ」
「むぅー…じゃあ、我慢したらティナさんからご褒美とかくれませんか? それなら頑張れます」
 いや、我慢するのが当然なんだし、どうしてあたしがそんなことしなきゃいけないのか意味解んないんだけど…。
「はぁ…しょうがないわね。じゃ、夜までちゃんと我慢できたら、考えてあげる」
 期待のまなざしを向ける彼女に負けてそんな返事しちゃった。
「わぁ…はい、ありがとうございます、ティナさんっ」
 まぁ、こんなことであんな嬉しそうにしてくれるなら、それもいいか…ああして笑顔を向けてくる閃那もかわいいし。


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