迎えた翌日。
 朝、この数日同様に雪乃さんが部屋に朝ごはんを持ってきてくれたのでそれを取らせてもらって、それを取り終えると彼女は例の仕えている人を呼んでくるって食器を持って出ていった。
 この家の主人、ってことなんでしょうけど、どんな人なのかしらね…。
 そんなこと考えながら、もう立ち上がっても大丈夫だったから立ち上がって、開けられて陽の光が差し込んでた窓の外を眺めてみる。
 外は森になってて、あたしが意識を失う前にいた場所に似てる気がする…もしかして、同じ森なんじゃないかしら。
「…失礼するわ」
 そんなこと考えてると、雪乃さんとは違う女の人の声が届くとともに戸が引かれたからそっちへ目を移すと、その声の主が部屋へ入ってきてたんだけど…あたしは息をのむ。
 だって一目で、それに万全じゃなくってしっかり感じられない今でもその身にまとう気配、雰囲気で解ったから…その人がただ者じゃないってこと。
「立ち上がっているけれど、身体はもう大丈夫なのかしら」
「う、うん、まぁ…お、おかげさまで少し動くくらい、なら」
 何だか森で会った、あっちもただ者でない雰囲気を感じた人を思わせる、でもそれ以上に鋭い目を向けられ、あたしは身体をこわばらせながらも何とかうなずく。
「そう、ならばよかった」
 その声もとても澄んではいるものの、視線同様に鋭さを感じる。
 そんなその人の年齢はあたしより少し上、雪乃さんと同じくらいだと思うんだけど、あたしより長身なうえプロポーションも抜群、そしてあまりに整ってて冷たさすら感じさせる顔立ちと、かなり大人びた、完璧な人って雰囲気を感じる。
 先日雪乃さんが言っていた通り、その人の髪はあの森で会った少女を思わせるきれいな黒髪であたしより長く、そして服装はあたしが今着させてもらってるものに似てるんだけど、純白の上半身に緋色の下半身と、神秘さを感じさせる、見たことない服装してる…で、やっぱりあたしみたいな耳はない。
「では、さっそく話をしましょうか」
 ゆっくり部屋へ入ってきた彼女はそう言いながら膝を折るかたちで床に座る。
 そういえば雪乃さんもあたしの世話をしてくれたときそんな感じで座ってたけど、そんな座りかた…っていうか、床に直接座るってこと自体、ほとんどしないのよね。
「…そう、貴女には床へ座る習慣がないのね。ならば、外で話しましょうか…貴女も動けるのならば、久しぶりに外の空気を吸うのもよいでしょうし」
 と、その人はそう言いながら立ち上がり、ゆっくり部屋を後にするけど…えっ、心を読まれたの?

 戸惑い、そして圧倒されながらも、あたしは彼女についてって、ここにきてからはじめて部屋の外に出た。
 廊下とかもやっぱりあたしの国の家とは全然違う造りで、雪乃さんの言う通りここが別の国なんだってことを実感する。
 そういえばあたし、それに前を歩く人も履物を履いてなくって、玄関に四つほどそれが並べられててそこで履くことになった…その中の一つは、あたしが元々履いてたものが置いてあったし。
 玄関の先は、森に囲まれた空間…少し目を移すと家とは別の建物が見えたりしたんだけど、やっぱりはじめて見る、独特な意匠の建物ね…。
「さて、まだ名前を言っていなかったわね。私は九条叡那よ」
 玄関から少し離れたところで足を止めたその人、ゆっくりこちらを向いてそう名乗ってきた。
 そういえば、雪乃さんが「叡那さま」って呼んでたけど、そっちが名前で九条っていうのが苗字か。
「えっと、あたしはティナっていいます。苗字ってのはなくって…」
「ええ、ねころから聞いている」
「は、はい、それで、あたしを家に置いてくれて、それに介抱とかまでしてくれて、ありがとうございました」
 雪乃さんにもお礼言ったけど、見ず知らずのあたしにここまでしてくれたんだから、まずは頭を下げる。
「別に、気にしなくてもよいわ。貴女に特殊な事情があるのは、解っているから」
「…へっ?」
 いけない、間の抜けた声が出ちゃった…けど。
「え、えと、それって…」
「貴女は、自身が今どの様な状況にあるか、どのくらい把握できているかしら?」
 全てを射抜きそうな目を向けられ固まっちゃいそうになるけど、この人は…あたしの置かれた状況、理解してるの?
「いや、えっと、正直に言って、ほとんど理解できてません」
 意識が戻ってからの数日、色々考えてはみたけど、やっぱり解んなかった。
「そう…ならば、結論から言いましょう」
 全く変わらない声音、表情で言葉を続ける彼女…。
「ティナさん。貴女は今現在の世界から見て、過去からやってきた存在よ」
 その口から告げられたのは、にわかには信じられない様なことだった。


    (第1章・完/第2章へ)

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