もちろん、センパイが言いたかったことも解ったし、それに私の答えも決まってる。
それだけに、今日の私はアルバイトを終えて家路につくとき、足取りも軽く上機嫌。
「ただいまっ」
「あっ、お帰りなさい、センパイ。夕食、もうすぐできますよ?」
だって、アパートの自分の部屋へ帰ると、私の一番大切な人が出迎えてくれて…って!
「わっ、わーっ、り、里緒菜ちゃん…そ、その服装、何っ?」
キッチンに立ってたのはもちろん里緒菜ちゃんだったんだけど、その姿を見て私は真っ赤になっちゃう。
「何、って…このほうが楽ですし」
「そっ、そういう問題じゃないでしょ、もうっ…!」
だって、あの子、裸にエプロンつけただけ、なんて格好だったんだから…こんなの、慌てないほうがおかしい。
「…なんて、冗談です。そうやって慌てるセンパイが見たかったもので…ふふ、かわいかったですよ?」
そんなこと言って着替えに行く彼女だけど、あんな格好してる時点で冗談じゃないよ、もう…。
でも、まぁ、そんなことしてくる彼女もかわいい…なんて思っちゃう私は、のろけちゃってるのかな?
あの夏の日に結ばれた私と里緒菜ちゃん。
「今日の学校はどうだった? 何かあったら力になるから、何でも言ってね?」
「全く、センパイは心配性です…大丈夫、いつもどおりでしたよ」
あの子の作ってくれたおいしい夕食を取りながら今日のことを訊ねたりするけど、彼女は学業とお仕事を両立させてるんだから、私で力になれることがあったらなりたい。
そんなあの子、私のお部屋でお料理して、そして私のことを出迎えてくれたけど、ここに住んでるわけじゃなくって、今までどおり学生寮で暮らしてる。
でも、こうしてときどきこっちに泊まりにきてくれてるの……さすがに二学期になって、私から学生寮に行くわけにもいかないし、ね。
もちろん学校の許可はもらってて、ここの鍵も私から彼女に渡してある。
里緒菜ちゃんが今日お泊りにきてくれた理由、もちろん少しでも一緒にいたい、っていうのも大きいけど、他にもあった。
「ふぁ…」
「センパイ、眠そうですけど、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫大丈夫…サクサクサク」
眠気を誤魔化す意味も込めてチョコバーを口にする私…すぐそばにはあの子がいて、二人寄り添いあってる。
今の時間はもう零時を回って、深夜一時過ぎ…普段の私なら寝てる時間。
「センパイ、アニメは録画して観る人でしたものね…今日も別に無理しなくってもよかったのに」
「サクサク…ううん、里緒菜ちゃんと出演したアニメの第一話なんだもん。これはリアルタイムで、一緒に観たい」
「そう、ですね…私もです」
つまりはそういうわけ…今はそれがはじまるのを待ってる。
そのアニメ、放送される局はかなり少なかったんだけど、幸いなここにここは放送される地域だったの。
「…里緒菜ちゃん、緊張しない?」
何しろテレビアニメの主役で、こんな経験は二人ともはじめてだから。
「まぁ、少し…ですけど、楽しみでもあります。センパイが私のことお姉さま、なんて呼ぶんですから」
私の演じた役はツンデレだけど、そういうことになる子だったりして、収録時はどきどきしちゃったっけ…と、姉といえば、あることが思い浮かぶ。
「そういえば、夏祭りのときだっけ…里緒菜ちゃんがおねえちゃん、なんて寝言言ってたの」
「…えっ、そ、そんな寝言、言ってました?」
あ、少し赤くなっちゃった…かわいいなぁ。
「うん、あれって誰の夢を見てたのかな?」
「そ、そんなの、覚えてません。ただ…私、一人っ子でしたし、センパイみたいなお姉さんがいたら、なんて考えたことも、あったかもしれないですし、なかったかもしれません」
「そっか…今でも、そんなふうに考えること、ある?」
「…意地悪なこと聞きますね。今の私にとって、センパイは恋人に決まってるじゃないですか」
「…ん、ありがと」
やさしく抱き寄せて、なでなでしちゃう。
こうしていると、とっても幸せで…この幸せ、ずっと続けばいいな。
「里緒菜ちゃん、大好き」
「私も好きですよ、すみれ」
お互いに想いを伝え合って…ん?
「…わっ、り、里緒菜ちゃん、さりげなくいきなり名前で呼ばないでよっ」
「あれっ、嫌でしたか?」
「い、嫌じゃないけど、あまりに突然すぎたから…」
全然心の準備ができてなかったよ…。
「ふふっ、すみれったら…ほら、もうすぐアニメがはじまる時間ですよ?」
「うぅ〜っ」
一気にどきどきしちゃう私を、今度はあの子がなでてくる。
もう、やっぱり里緒菜ちゃんには敵わないな…でも、こんなのもまた心地いい。
大好きな里緒菜ちゃん、声優としても、恋人としても…これからもずっと、ともに歩んでいこうね。
-fin-
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