終章

 ―色んなこと、本当に色んなことがあった八月、あの子の夏休みももう過ぎ去って、今では大切な想い出の中。
「今日も一日無事に、そして元気に里緒菜ちゃんが過ごせますように」
 朝、いつもの様にジョギングでやってきた神社でおまいり…大切な人のことを願う。
 もう十月に入って、お昼はまだ暑さを感じることもあるけど、この時間だとちょうどいい感じで、天気もいいし走ってて気持ちいい。
「すみれさん、おはようございます」
「あっ、おはよ、竜さん。今日もこんなはやくからお疲れさま」
 境内のお掃除にやってきた巫女さんの竜さんと挨拶を交わす。
「すみれさんこそ、毎日こんな朝はやくから元気そうで何よりです…先輩にも見習ってもらいたいものです」
「あはは、それは私からは何とも…じゃ、またねっ」
 ため息をつく竜さんと別れて神社を後にするけど、竜さんは相変わらずちょっと苦労してるみたい。
 彼女の先輩さんとは夏祭りのときに会ったけど、確かに自由な人だったというか…でも、あんなこと言いながらもちゃんと尊敬はしてるみたいなんだよね。
 私も、事務所の後輩さんたちにとって少しでもそんな存在になれてったらいいな。

 朝ごはんを食べて一息ついたら、今日は事務所へ行く。
「あっ、山城さ…センパイ、おはようございます」「おはようございます」
「ん、おはよ、夏梛ちゃん、麻美ちゃん」
 事務所にあるダンスルームでは後輩さん二人が練習中。
「もうすぐもうすぐ学園祭ライブですから、そのための練習をしていたんです」「わ、私の学校でのライブですから、緊張しちゃいます…」
「うんうん、そっか、頑張ってるね」
 二人はアイドルユニットとしての活動も順調そう…そして、恋人としても。
「あっ、あの、山城センパイ、藤枝さん…美亜さんには、ライブのこと、言わないでくださいね…?」
「うん、大丈夫、解ってるよ。それじゃ、このチョコバーあげるから、二人とも無理しないでね…サクサク」
 麻美ちゃんの母校でするっていう学園祭ライブ、彼女たちがくるってことは直前まで隠しておくそうだから、同じ学校出身でさらに妹さんが在校生だっていう美亜さんに言うわけにはいかないよね。
 それにしても、お仕事でも一緒に活動できるって、ちょっと羨ましいかも…あっ、でも、今の私たちは…。

 お昼過ぎからは、その美亜さんの喫茶店でアルバイト。
「あの、山城さん、ちょっとお聞きしたいことがあるのですけれど…」
 三時をまわって、あの子の学校の生徒さんもお客さんとしてやってきたけど、その中の一人の子が声をかけてきた。
「実は、今日からはじまる深夜アニメのキャストに山城さんのお名前がありましたけど、これって山城さん…なのですか?」
「ん〜、どうかな?」
 私がはっきり答えないものだから、その子は結局引き下がっちゃう。
「あら、全く…あんな意地悪しないで、素直に教えてあげたらいいのに」
 お客さんが一段落ついたところで、カウンタ越しの美亜さんがそんなこと言ってくる。
「ん〜、でも、私はやっぱり自分からそういうこと言う気にはなれないから」
 できるだけ顔とか出さずに活動していきたい、っていう気持ちは今でも変わってないから。
 まぁ、とはいえ、アニメは私と里緒菜ちゃんの名前が並んでるから解る人には解りそうなんだけど、でも今のところ彼女の学校の生徒も気づいてないみたいなんだよね…う〜ん。
「うふふっ、そのアニメ、今日からなのね…百合的に期待できそうな内容だし、それに声優さんまで百合な、しかも私のお知り合いなお二人なんだから、これは観ないわけにはいかないわね」
「あ、あはは、そうかな…」
「主役の声優お二人もそんな関係だって知っていて観る人って、ほとんどいないでしょうね…ほら、すみれちゃんと里緒菜ちゃんは運命で結ばれていたでしょう?」
 当初散々そういうことを否定してきたし何も言い返せない…しかも何だか恥ずかしいし。
 と、ちょうどそのとき入口の扉が開いて新しいお客さんがきたものだから、話をそらせるためにもそちらを迎え入れる…って。
「すみれちゃん、それに美亜さんも、こんにちは」「あら、まぁ、こんにちは〜」
「わっ、センパイ、それに睦月さんも、いらっしゃいませ…!」
 やってきたのは梓センパイと睦月さん…遠くまでお仕事だったんだけど、それから帰ってきて、その足でここに立ち寄ったそう。
「今日からすみれちゃんと里緒菜ちゃんのアニメだね…ん、楽しみ」「あら、まぁ、一緒に観ましょうね」
 カウンタ席についたお二人はとっても仲睦まじい様子…しかも、一緒に観るんだ。
「すみれちゃんたちも…僕たちに、負けてない?」
「…へ? な、何がです?」
「何が、って…決まってるよ」
 と、センパイと睦月さん、それに美亜さんが何やら微笑ましげな視線を向けてきてて…うぅ、恥ずかしい…!


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