「やっとセンパイが告白してくれた…やきもちをやいてよかった、ということでしょうか」
 長く、そしてあつい、私にとってはじめてな口づけを交わしてから、しばらく余韻に浸っていたんだけど、そのあとあの子がそんなこと言い出した。
 どうも里緒菜ちゃんはずいぶん前から自分の、それに私の気持ちにも気づいてたらしい。
「センパイがデレてくれるまで待つことにしたんです」
「そ、そうなんだ…」
 う〜ん、何だか複雑な気持ち。
「灯月さんも私みたいに待ったみたいですし、あんまり気にしなくっていいですよ。もっとも、石川さんの場合は自分の気持ちへの自覚はかなりはやい段階であったみたいですけど」
「うっ…」
 つまりそれだけ私が鈍い、ってことか…事実なだけに何も言い返せない。
 まぁ、それは終わったことだからいいんだけど、今の私には新たに気になることが出てきてた。
「え〜と、ところで里緒菜ちゃん…その服装って、どういう…」
 口づけの後でお部屋の明かりをつけたから、あの子の姿がはっきり見える様になったんだけど…あの子、Yシャツ一枚着てるだけで、他は何も身につけてなかったんだ。
「えっ、部屋にいるときはいつもこうですよ?」
 普通にお返事したあの子、ふと悪戯っぽい表情になって…。
「あっ、センパイ、こういう格好が好きでしたか?」
「なっ、なな、何言ってるの…私はただ、恥ずかしくないのかなって…!」
 えっと、その、色々見えちゃうし、目のやり場に困っちゃう…。
「普段は一人ですし…それに、センパイにでしたら、見られても問題ありません」
「そ、そっか…」
 私も、里緒菜ちゃんになら…って、わーっ!
「で、でも、服装もそうだけど…お部屋も、ちょっとあれだよね」
 話をそらせる意味も込めてぐるっとお部屋を見回すけど、色んなものが散乱してる。
「しょ、しょうがないじゃないですか、センパイがくるとか思ってませんでしたし」
 それにしたって、これはちょっと散らかりすぎで…よしっ。
「じゃ、私がお掃除してあげるね」
「えっ、いえ、さすがにそれは…悪いです」
「ううん、遠慮しないで。里緒菜ちゃんだってお弁当作ってくれてるし、それに先輩として…恋人として、力になれることはなりたいから」
 恋人、って口にするとちょっとどきっとしちゃったけど、好きな子のためになりたい、って思うのは自然なことだよね。
「はぁ、センパイってやっぱりお人よし過ぎます。でも、まぁ、そこまで言うんでしたら」
「ん、ありがと」
「お礼言うのはこっちなんですけど…あ、でも、今から掃除なんてしてると帰りが遅くなりますよ?」
 そう言われるとその通りで、これは明日にするべきか…。
「えっと、センパイ…? もしよかったら、泊まっていっても…いいですよ?」
 と、少し顔を赤らめたあの子が、そんなこと言ってきた?
「わっ、そ、それは…いいの、かな?」
 寮の規則を破るとか悪いことはしちゃいけないし、少し気が引けた。
「はい、夏休みですから人なんていませんし、それに男なら問題ですけど、女の子なら大丈夫です」
 でも、あの子はああ言ってくれたし、それに…私自身、里緒菜ちゃんと離れる気にはなれない。
「うん、それじゃ、お邪魔しちゃおうかな」
「は、はい、じゃあ、私は夕食を作りますね」
 少し緊張した、でも嬉しそうでもある様子の里緒菜ちゃん…私も同じ気持ち。
 これからの私たちの関係は、今までとは違ったものになってくかもしれないけど…よりいっぱい、こうやって一緒の時間を過ごしていきたいな。
 センパイとして頼れる存在でありたいし、それに…恋人として、ずっとともに歩んでいきたい。
 だから…これからもよろしくね、里緒菜ちゃん。


    (第7章・完/終章へ)

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