「…はぁ、前々から思ってたんですけど、センパイって本当に何ていうか…」
「ん、どうしたの?」
 色々落ち着いてまた二人、手を繋いで歩きはじめたところであの子がため息をついちゃった。
「いえ、ものすごくお人よしですよね、って」
「えっ、そうかな? 私は特にそんなこと思ったことないけど」
「いいえ、絶対そうです。迷子の親を捜してあげたり、さらにはスリの犯人を捕まえたりするなんて、ここの運営や警察じゃないんですから…」
 その言葉通り、あの迷子の子の親を探してあげた後、この人ごみの中で人の財布を盗む様な悪い人がいたから、その人を捕まえて竜さんに引き渡したりもした。
「だって、困ってる人や悪いことしてる人がいたら放っておけないじゃない」
 それで勝手に身体が動いちゃうかも。
「だから、それがお人よしだって思うんですけど…私とはじめて会ったときも色々余計な世話を焼いてきましたし」
「う〜ん、でも私にとってはやっぱり普通のことかな」
「そうですか…まぁ、そこがセンパイのいいところでもあるんですけど、でも無茶なことはしないでくださいね? それでもし何かあったら…い、いえ、何でもありませんけど」
 私のいいところ、か…自覚はないんだけど、里緒菜ちゃんにああ言ってもらえると嬉しいかも。
 それに、今の言葉って私のことを心配してくれてるんだよね…やっぱりとっても嬉しい。
「うん、ありがと」
「べ、別に…って、こ、こんなとこでなでたりしないでくださいっ」
「あ、ごめんね、つい」
 顔を赤らめるあの子がとってもかわいくって、何だかどきどきしちゃった。

 それからは特に問題も起こらず、二人でお祭りを楽しむ。
「はい、里緒菜ちゃん、これあげるね」
「あ、ありがとうございます…けど、本当にいいんですか?」
「うん、里緒菜ちゃんにあげたいな、って思って当てたんだもん」
 射的でちょっと難しい場所だったながら携帯音楽プレイヤーなんてあったから、それを当ててあの子へプレゼント。
「全く、どうしてこの人はこんなに…」
 それを受け取ったあの子が何か呟いたんだけど、よく聞き取れなかった。
「ん、何か言った?」
「いえ、特に…それより、おなかすいちゃったんですけど」
 あっ、そういえばもう普通に夕ごはん食べてる時間帯だし、結構身体も動かしたものね。
「じゃ、屋台で何か買って食べよっか。何がいい?」
「ん〜…お任せします」
「もう、お金は私が出してあげるし、本当に何でもいいんだよ?」
「いえ、そうじゃなくって、こう…どれもおいしそうなので、目移りしちゃうんです」
 まわりの屋台へ目をやりつつそう言われるけど、それはよく解るかも。
 もう、こうして歩いてるとそこかしこからいいにおいが漂ってきて…うぅ、私もおなかすいてきちゃった。
「よし、そういうことなら気になるもの全部買っちゃおっか」
「…え? そんなことして大丈夫ですか?」
 あれっ、いい考えだと思ったんだけど、思いのほか驚かれちゃった。
「大丈夫だって、そのくらいのお金ならあるから、ね?」
「いえ、そうじゃなくって、そんなに食べたら…太っちゃいません?」
 …あ、なるほど、そういうことか。
「う〜ん、一日たくさん食べたくらいじゃ、そう変わらないと思うよ? それに、里緒菜ちゃんはそんなこと気にしなくってもいい体型だと思うんだけど」
「そ、そうでしょうか…でも、そういえばセンパイってよくお菓子食べてる割には全然太ってないですね…」
「ん、そうかな? とにかく、お祭りの日くらいはそんなこと気にしないでいっぱい食べちゃお」
 私が太らない、っていうのは毎日ジョギングしたりしてるからなのかも…とにかく、里緒菜ちゃんスタイルいいんだから、そんな気にしなくってもいいのにね。

「よしっ、このあたりでよさそう。シートももらえたし、ここに座って食べよっ」
 神社から再び砂浜へ戻ってきた私たち…まわりにあんまり人のいないあたりにシートを敷いて、その上へ座る。
 砂浜にはお祭りの喧騒も届くけど、それ以上に花火の打ち上げ音が響いてる…ちょっと離れた海辺で花火が打ち上げられてて、このあたりからよく見ることができる。
 だから、この砂浜には私たち以外にも花火を観てる人たちの姿が多く見られる。
「…ふぅ、疲れました。やっと座れます」
 さっそくシートの上へ腰かけるあの子…お昼からずっと立ちっぱなしだったものね。
「お疲れさま。じゃ、さっそく食べよ?」
 私もその隣に座って、そして屋台で買った色んなものを並べてく。
 それは焼きそばとかたこ焼きとか定番のものに加え、綿菓子とかりんごあめといったお菓子もあったりして、やっぱり結構買っちゃった。
 打ち上げられてく花火を眺めながら、一緒にそれを食べてく。
「…ん、おいし。里緒菜ちゃん、どう?」
「はい、何だか懐かしい味がします…」
 うん、お祭りで食べるものって、何だかそういうところがあるかも。
 それにいつも食べるものよりずっとおいしくも感じるんだけど、やっぱりそれはお祭りだから…それに、里緒菜ちゃんと一緒だからなのかな、って感じる。
 さすがにちょっと買いすぎちゃって全部食べるとおなかいっぱい…まだ花火も続いてるから、そのまま座ってのんびり。
「里緒菜ちゃん、今日はどうだった?」
「ん〜…そう、ですね…。悪くは、なかったです…」
 私が強引に連れてきちゃったところもあったけど、彼女にとっていい一日になってくれたみたい。
「たまには、こういうのも悪くないでしょ?」
「そう、ですね…ふぁ」
 …あ、里緒菜ちゃん、あくびしちゃった。
 ずいぶん歩いたし、おなかもいっぱいになったから…なんて、そんなことを考えていると、あの子が私にもたれかかってきちゃった?
「…えっ、里緒菜ちゃん?」
 何故だか一瞬どきっとしちゃったけど、目を向けるとあの子はもう静かに寝息を立てちゃってた。
「もう、里緒菜ちゃんったら…今日は、ありがとね」
 ずいぶん気持ちよさそうで起こすのもあれだし、このまま寝かせておいてあげようかな…ということでそっと横にして、そのまま膝枕をしてあげた。
「ん…おねえちゃん…」
「…えっ、里緒菜ちゃん?」
 ふと聞こえた呟きに顔を見るけど、彼女は眠ったまま。
 どうやら寝言だったみたいだけど、おねえちゃん、って…誰のことだろう。
 確か彼女って一人っ子だったはずだし…う〜ん?
「…ま、いいかな」
 私の膝の上で気持ちよさそうに眠っている彼女のことを見てたら心があったかくなって、花火を見るのも忘れて彼女を見ながらやさしくなでなでしてあげてた。


    (第5章・完/第6章へ)

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