あれから一週間くらいが過ぎて、もう四月。
 今日もとってもいいお天気で、お昼にはあたたかさを感じる…そんなお散歩日和の中、公園へ向かう私は上機嫌。
 そう、今日はあの子と約束をしたお散歩の日で、今はまさにその待ち合わせ場所へ向かってる、っていうわけ。
 昨日は美亜さんに少しからかわれちゃったけど、そんなことされるくらい、楽しみにしてる様子が伝わってきたみたい。
「わぁ、桜もずいぶん咲いてるね」
 公園へやってきてまず目についたのが、それ…すっかり満開になった桜。
 さて、そんな中、あの子はきてるかな…今日は学校はお休みなんだけど、春休みの中っていうことだし寝過ごされちゃってる、なんてことも…。
 一瞬だけそんな心配をしちゃったけど、せっかくの桜なのに人の姿がほとんどない中、ベンチに座る人影を見つけて一安心。
「…里緒菜ちゃん、こんにちはっ」
 姿をみると何だかやっぱり嬉しくなっちゃって、すぐに駆け寄って声をかけちゃう。
「…ん〜? おはよう、ございます…」
 ベンチに座るあの子、里緒菜ちゃんはゆっくり顔を上げてくれたけど、もうお昼過ぎなのに…って、ものすごく眠そうっていうか、今まで寝てたみたい?
「うん、おはよ、里緒菜ちゃん。春眠暁を覚えず、っていうやつかな」
「…そう、ですね…ふぁぁぁ」
 隣に座らせてもらうけど、あの子は大きなあくびしちゃってる。
「わっ、本当に眠そう…やっぱり今までここで寝ちゃってた?」
「…いつも、寝てるけど…?」
 やっぱり意識のはっきりしてない様なお返事だけど、それっていつも外で寝てる…ってことじゃないよね?
 まぁ、それはいつもよく寝てる、ってことなんだと思うけど…。
「う〜ん、とにかく、こうやって外で寝ちゃうのは、ちょっと心配かも」
「ふぁ…何でですか…?」
「だって、里緒菜ちゃんってこんなかわいいから…変な人に何かされちゃったりしないかな、って…」
 まだぼ〜っとした様子の彼女を思わずなでちゃうけど、それは本当に心配…。
「かわいい…言われたことないですけど…?」
 眠気のためか、なでなでしたことについては何にも言われなかったんだけど…。
「えっ、言われたことがない、って…不思議だね?」
 そりゃ、私なら言われるわけないんだけど、この子はこんなかわいいのに。
「…だから、私はかわいくないきつい女なんです」
 しかも、そんなことまで言ってきちゃう。
「もう、どうして自分でそんなこと言うの? 私はそうは思わないのに…」
「どうも…他人とのコミュニケーションが苦手でして…」
 まだ眠そうな彼女だけど、だからこそ本音が出てきてるのかな…。
「うん、でもそういうのって人それぞれだと思うよ?」
「そういう…ものですか?」
「うん、みんながみんな同じだったら、つまらなくない?」
 確かに彼女は人に対してドライな対応をする印象があるけど、それも一つの個性だよね。
「それに、コミュニケーションが苦手っていっても、お仕事に支障が出たりしてるわけじゃないんだし、そんな気にしなくっても大丈夫だよ」
「そう…ですね、そうかもしれません…」
「それに、私は嫌いじゃないよ」
 まだ知り合って間もないけど、でもそういうところも含めて里緒菜ちゃんなんだから…と、またなでなでしちゃう。
「…私は、あまり…」
 と、そんな呟くかの様な小さな声が耳に届いちゃった。
「ん…自分のことが好きじゃないの? でも、胸を張って自分が好き、なんて言える人もそういない気がするかも…」
 私だって、自分が好きかってなると難しいところだし…って、ん?
「…あ、もしかして私のことがあまり、ってことだった?」
 会話の流れからしてむしろこっちのほうが自然なのかも、なんて感じて少し胸が痛くなってきちゃった。
「貴女のことは嫌いじゃないです…自分のことは好きになれません…」
 と、お返事を聞いて、やっぱりちょっと、でもさっきとは違う理由で少し胸が痛い。
「そっか…あんまり深く考えないで、ね?」
 私で力になれることがあったらなるから、って想いを込めてまたなでなでしちゃう。
「そうする…めんどくさいし…」
 うん、今はそんな真剣に悩んだりせず、のんびり…でいいって思う。
「でも、私のことは嫌いじゃない、か…嬉しいな」
 このことはほっとしちゃった。
「…嬉しいんだ?」
「うん、もちろん。もっと仲良くなりたい、って思ってるくらいなんだもん」
 何なのかな、もちろん知り合いの人みんなと仲良くしたいな、って思うんだけど、彼女には特にそう感じるというか…。
「私なんかと…物好きですね…」
 そのあの子は少し恥ずかしそうになっちゃった。
「…物好き? そうかな?」
「でも…そういうの、嫌いじゃないです…」
 首をかしげちゃう私に、彼女はとっても小さな声でそう呟く…?
「よく解らないけど…うん、ありがと。やっぱり、何だか嬉しいな」
 少なくても、私が嫌われてる、っていうことはなさそうだし、ね。

 穏やかな日差しの下、私と里緒菜ちゃんは同じベンチに座ってのんびり。
 本当はお散歩する予定だったんだけど、彼女はとっても眠そうだし、それに桜もきれいだしこれはこれでいいよね。
「サクサク、里緒菜ちゃんも食べ…って」
 チョコバーを渡そうかな、って思って視線を向けたところであることに気づく。
「え〜と、私のこと見つめたりして、どうしたの?」
 そう、あの子がちょっと眠そうながら、じっと私のことを見つめてきてた。
「…え? 私、見つめてました…?」
 しかも、どうやら自覚はないみたい…やっぱり眠さで、かな。
「うん、今もちょっと視線を感じるけど…」
「あ〜…」
 と、あの子、視線を下げてく?
「…えっ? ど、どうしたの?」
「…やわらかそうですね…?」
「やわらかそう、って…わっ? 里緒菜ちゃん、どこ見て…」
「…足?」
 やっぱり意識がはっきりしないっぽいあの子の言葉通り、その視線は私の足…というよりはもうちょっと上に注目してきてる気がして、少し恥ずかしい。
「あ、足が…どうしたの?」
「…寝てもいいですか?」
 もものあたりを見つめられたままそうたずねられちゃう…?
「寝ても…あ、もしかして膝枕ってこと?」
 里緒菜ちゃん、やっぱり眠りたいのかな。
「…うん、いいよ」
「…わぁい」
 里緒菜ちゃん、とっても嬉しそうに私の膝へ頭を乗せて横になっちゃった。
「もう、やっぱりかわいいじゃない…」
 そんな彼女はとっても微笑ましくって、ついなでなでしてあげちゃう。
「今日は本当にあったかいよね…」
「…そうですね、気持ちいいです…」 「今日は、このままのんびりお花見でもいいかも」
 舞い散る桜の花びらを見ながらそう言うけど彼女からのお返事はなくって…見ると、もうすでに穏やかな寝息を立てちゃってた。
「…もう、しょうがないんだから」
 でも何だか幸せな気持ちに包まれて、そのまま彼女をやさしくなでなでしてあげるのだった。


    (第4章・完/第5章へ)

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