偶然公園で会うことができた里緒菜ちゃんと一緒にお散歩。
全然会えない日が続いてたから会えただけで嬉しいのに、さらにそんなことになったりして、自然と笑顔になってきちゃう。
「何ですか、にやにやしたりして…怪しいですね」
そんな私の隣を歩くあの子、冷ややかな目を向けてきちゃう。
「わっ、そんな、ひどいよ。何も怪しいことなんてないのに」
「はぁ、まぁいいんですけど、それより私たちってどこに向かってるんですか? ただの散歩にしては、あらぬ方向に進んでるんですけど」
彼女の言葉どおり、私たちはあの公園から結構離れたところにまでやってきてた。
「ん、ごめんごめん、でももう着くから」
そんな私たちの耳に次第に届く様になってくるのは波の音。
「海とか…こんな時期にきても寒いだけなんですけど」
「大丈夫だよ、別に海にこようとしたわけじゃないから」
そう、最終的な目的地は砂浜のすぐそばにある、木々に囲まれた空間。
「こんなところに神社なんてあったんですか…全然知りませんでした」
鳥居をくぐり、静かな、そしてきれいにされた境内を歩きながら彼女がそんなことを言う。
「えっ、そうなの? この町に住んでるのに…」
「ほとんど部屋から出ませんから…お店とかならまだ解りますけど」
う〜ん、何だかさみしい…やっぱり、こうしてお散歩できてよかった。
「とにかく、わざわざこんなところにきて、どうするつもりですか?」
「どうするも何も、素敵な場所だから一緒にきておまいりしたいな、って思っただけだよ?」
「…は」
あれっ、里緒菜ちゃん、言葉をなくしちゃった…何かおかしかったかな。
「ほらっ、だからおまいりしよっ。お賽銭がなかったら出してあげるから」
「は、はぁ、小銭くらいありますけど…って、わっ、引っ張らないでくださいっ」
とにかく、ここにきたならそうしなきゃ、ってことで思わず彼女の手を引いちゃう。
彼女も戸惑った様子はあるけど、嫌がってはない…よね?
毎朝ジョギングで立ち寄っておまいりしてるけど、また改めておまいり。
里緒菜ちゃんが健康でいますように、ってお願いしたけどどうかな…あの子も何かお願いしてたみたいで、叶うといいな。
それから、境内のほうにたいやきの屋台が出てたからたいやきを買って、休憩できる場所がそばにあったからそこへ二人で腰かけた。
「はい、それじゃ、里緒菜ちゃんもどうぞ」
「えと、私の分まで買ってくださって、ありがとうございます…」
たいやきの入った袋を差し出す私にあの子は少し顔をそらしながらそう言うけど、やっぱり照れてるのかな。
「ううん、そんなの気にしなくっていいから…ほら、食べよ?」
「は、はい…じゃあ、いただきます」
「うん、いただきます」
一緒にたいやきを食べるけど…うん、おいしい。
この白たいやきの屋台はときどきここにいるそうだけど、またきてもいいかも…早朝じゃさすがにこういうのはないし、たまにはこうしてお昼とかにきてみるのもいいね。
「どう、里緒菜ちゃん? たまにはこうやって外で過すのも悪くないんじゃない?」
「はぁ、どうでしょうか…」
たいやきを食べる手を止めるあの子は曖昧なお返事…だけど、嫌だとは言わなかったし、大丈夫そう?
「じゃあ、これからときどきこうやって一緒にお散歩しない?」
「…って、は? ど、どうしてそうなるんですか?」
「だって、里緒菜ちゃんとお散歩してて楽しかったし、それに里緒菜ちゃんも悪くないって感じてくれたんでしょ? だから、ねっ?」
「私と散歩して楽しかったとか、何の冗談…」
「もう、冗談なんかじゃないよ?」
うん、それは間違いない…一人でお散歩するよりずっと楽しかったもん。
それに、彼女にときどきでもいいから外に出て身体を動かしてもらいたいなっていうことや、もっと色んなところを見知ってもらいたいかもっていう意味も込めて、こんなお願いをしてみたの。
「里緒菜ちゃん、ダメ?」
「…ほ、本当にときどきでいいんでしたら、しょうがないですね」
じぃ〜っと見つめちゃいながらたずねると、彼女は目をそらしながらそう答えてくれた…?
「…わぁ、本当っ? 嬉しい…ありがとっ」
「で、ですから、そんな喜ぶことじゃないと思うんですけど…」
「ううん、やっぱりとっても嬉しいよ」
「は、はぁ、そうですか…」
何だろ、どうしてこんなに嬉しいのか、自分でもちょっとよく解らない…う〜ん、でも嬉しいのは確かなんだから、深く考えなくてもいいか。
「あ、ところで山城さん…」
「もう、私のことはセンパイ、って呼んでもらいたいな」
「はぁ、とにかく、山城さんって事務所に行く途中だったんじゃないんですか?」
うぅ、完全に無視されちゃって残念…って、ん?
「…わっ、そ、そうだった、すっかり忘れちゃってたよっ」
はっと思い出して立ち上がるけど、あたりはもう薄暗くなってきてて、完全に間に合いそうにない…。
「え、えと、私は行かなきゃいけないけど、里緒菜ちゃんは一人で帰れる?」
「まぁ、大丈夫ですけど」
本当は送ってあげたいところなんだけど、今日のところは仕方ない…。
「じゃあ、残りのたいやきは全部あげるから、気をつけて帰ってねっ。じゃ…またねっ」
まだいくつかたいやきの残ってる袋を渡してあげて、その場から駆けてくのだった。
結局、その日はお仕事をはじめてからはじめての遅刻になっちゃった。
如月さんは気にしなくていい、って言ってくれたけどやっぱり申し訳ないし、もうこんなことはない様に気をつけないと。
あ、でも、遅刻はしちゃったけど、それでも里緒菜ちゃんとお散歩できたことはよかったって思ってる…あんな約束もできたし、ね。
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