終章

「…ふぅ、こんなところかな?」
 ―二月も半ばに入った中、私は一人自分の部屋のキッチンに立ってお料理…というよりもお菓子作りをしてた。
 あまりに慣れないことだったから何度か失敗もしちゃったけど、それでも最後には何とかかたちにすることはできた。
「でも…里緒菜ちゃん、本気なのかな」
 完成したものを丁寧にラッピングしながら、ふとそんなことつぶやいちゃう。
 それはこの間、彼女が風邪引いちゃった翌日に交わした約束を思い出して、なんだけど…何でもお願いを聞いてあげることにしたのに対して、あの子はかなり意外なことお願いしてきたの。
 ううん、私も心の奥底では望んでることだし、彼女のお願いだからもとより断る理由はなかったんだけど、それにしても…。

「あっ、いらっしゃいませっ」
「うふふっ、今日のすみれちゃんは店員さんじゃないのだから、そんな挨拶しなくってもいいのよ」
「あ、そうだった、いつもの癖で、つい…」
 よく晴れた日の午後、いつもの喫茶店にきてくれた子を迎え入れるけど、美亜さんに笑われちゃった。
 そう、今日の私はここで別のことするから、アルバイトはひとまずお休みってことにしてる。
「でも美亜さん、本当にこんなことさせてもらってよかったの?」
 いつもと全然違う様子に改装されちゃった店内をながめて、昨日までにもたずねたことをまたたずねちゃう。
「ええ、むしろ私としては大歓迎。これはいいアイディアよね、今後もお店でやっていきたいわ」
「そ、そっか、美亜さんがそう言うなら、いいんだけど…」
 だいぶ大掛かりなことになってきてるんだけど、美亜さんならそう言うか…。

「ごめんね、麻美ちゃん。こんなこと手伝ってもらっちゃったりして」
「いえ、そんな…むしろ、私が恐縮しちゃいます」
 しばらくしたところで私は美亜さんに用意してもらった個室へ行って、そこで麻美ちゃんに手伝ってもらって着替えをする。
 いや、もちろん普通の服ならお手伝いなんていらないんだけど、今回はかなり特殊っていうか…。
「…ね、ねぇ、これってやっぱりおかしくない? 私には似合わないっていうか…」
「いえ、そんなこと…とっても素敵です。やっぱり、女の子の夢ですよね…」
 着替え終えて鏡で自分の姿見るんだけど…そりゃ、麻美ちゃんみたいな子が着ればとっても似合うだろうけど…。
「山城センパイも女の子なんですから、もっと自信持ってください」
「あ、あはは、そうだね…」
 …いや、私のことは気にしないでおこう。
 今頃は里緒菜ちゃんも夏梛ちゃんに手伝ってもらって同じ服装になってるはずで…うぅ、この先に待ってることといい、想像したらどきどきしてきちゃった。

「わ…里緒菜ちゃん、すごい…」
「すみれ…とっても、よく似合ってますよ」
 着替えを終え、店内へ戻る扉の前で里緒菜ちゃんに会ったんだけど…その姿がまぶしすぎて言葉を失っちゃった。
 ちなみに、ここまで一緒にきてくれた麻美ちゃん、それに里緒菜ちゃんについてた夏梛ちゃんは一足先に店内へ戻ったんだけど、そんなことは意識に入らない状況。
「うぅ、そんな、私なんて全然…里緒菜ちゃんこそ、本当にとってもよく似合ってる…」
「ありがとうございます…すみれのそんなかわいい姿見られただけでも、このお願いしてよかった、って思えます」
 うん、私も…里緒菜ちゃんの今の姿を見られただけで、もう十分かも…。
「では行きましょうか、すみれ」
「う、うん」
 夢心地なままに彼女に手を取られ、そして扉の向こうへ一緒に歩み出すの。

 お店の中にはたくさんの子たちの姿があって、拍手をしてくれたり歓声を上げたりしてた。
 そこにいるのは里緒菜ちゃんの通う学校の子がほとんどなんだけど、とにかくその子たちは扉からまっすぐに道をあけてくれてて、私とあの子は手を繋いでそこをゆっくり歩いてく。
「あら、まぁ、お二人とも、とってもお似合いです〜」「うん…素敵な花嫁さん」
 睦月さんと梓センパイもきてくれてたんだけど、梓センパイがあんなこと言う様に今の私たち二人は美亜さんが作ってくれた純白のドレス…ウェディングドレスを着てるの。
「夏梛ちゃん、私たちもこうやって…式を挙げさせてもらおっか」「麻美、それは、そのその…」
 あの二人も見守ってくれてるけど、今の店内の雰囲気はまさに結婚式の会場のそれになっているの。


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