私が作ったおかゆも何とか無事に食べてもらえて一安心。
 普段の彼女の様子が戻ってきて、もう大丈夫そうにも感じられたけど、でも油断は禁物だし、私自身が離れたくないって感じてるってこともあって、今日はこのまま彼女の部屋に泊まってくことにした。
「私が一緒にいるから、心配しないでゆっくりお休みしてね」
 部屋の明かりを消して、そして一緒のベッドへ入らせてもらってそう声をかけるの。
 一人用のベッドなんだけど、夏休みの頃もよくこうして二人でお休みしてたし、今は冬だからあの頃よりさらにぬくもりが心地いい。
「…すみれ、今日は本当にありがとうございました」
 すぐ隣にいる彼女がそんなこと言ってきた。
「ううん、いいって。風邪は誰でも引いちゃうものだし、私も好きで看病したんだもん」
「はい…でも、やっぱりちょっと残念です」
「残念って、何が?」
「マラソン大会を休むことになったこと…。お仕事に影響でなかったのはよかったですけど、そっちのこと思うと…」
 声のお仕事してる上で風邪が大変だってちゃんと解っててえらいな…なんだけど、それ以上に気になること言われちゃった。
「えっ、里緒菜ちゃん、ちゃんと走りたかったの?」
 もしかして、この数日で走るの好きになったとか…。
「まさか、そんなわけないじゃないですか」
「…そ、そうだよね」
 断言されちゃったけど、そのほうが彼女らしい。
「じゃあ、どうして…」
「すみれ、約束してくれましたよね? マラソン大会まで走ったら何でもお願い聞いてくれる、って」
「あ…う、うん」
「でも、こんなことになっちゃいましたから…あ〜あ、残念です」
 う〜ん、まさか私もこんなことになるとは思ってなかった…数日一緒に走ってくれた、それだけでいいことにしてあげとけばよかった。
 でも、今更そう言うのもどうかなって思うし、何か別のことがあれば…。
「まぁ、こればっかりはしょうがないですし、ここは潔く…」
「…待って、里緒菜ちゃん」
 諦める、って言おうとした彼女を遮る。
 彼女のお願いなら何でも聞いてあげていい、って気持ちはあるんだけど、彼女は特別なものを求めてるんだろうし、ならマラソン大会の代わりになりそうなのは…。
「今までちゃんと走って頑張ってきたのは確かなんだし、あとはこの風邪が治ったら、お願い聞いてあげる」
「えっ、でも風邪なんていつか治るに決まってるものですし、そんなのでそんなこと言われても…」
「うん、だから…明日、起きるまでに風邪が治ってたら、ってことで」
「…え、それはそれで、難しすぎるんじゃ…」
 あの子はああ言うけど、私が見る限りもうずいぶん元気になってきてるから大丈夫なんじゃないかなって感じるし、それに…。
「…里緒菜ちゃん。んっ…」
「ん…んんっ?」
 あの子のほうを向いた私、そのまま目の前の唇へ口づけする。
「…こうやって、私が里緒菜ちゃんの風邪を取っちゃうから。人に移すと治る、っていうよね」
「もう、すみれったら…そんなことしたら、すみれが風邪引いちゃいますよ?」
「いいの、里緒菜ちゃんから移されるのなら」
「ふふっ、しょうがないですね…そうなったら、今度は私が看病してあげます」
 そうしてお互いに微笑む私たち…ぎゅって抱きしめあって、あつい口づけを交わすの。

 目が覚めると、目の前には愛しい人の寝顔。
 とっても気持ちよさそうで、それにそっと額に手を当ててみても熱はなさそうで、もう大丈夫そう。
「ふふっ、お願い、何でも聞いてあげなきゃね」
 でもね、こういう機会ってこの一度きりじゃないと思うんだよ。
 だって、私と里緒菜ちゃんは、これからもずっと一緒にいるんだもん。
「…ね、そうだよね、里緒菜ちゃん」
 そっと抱きしめて、彼女がそばにいる幸せを感じるの。


    (第6章・完/終章へ)

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