それから看病のためにお泊りしたい、って許可ももちろん取ってきたけど、その際に寮母さんから聞いた話だと里緒菜ちゃんはやっぱり風邪とのこと。
 今日はお薬を飲ませて安静にしてもらおうってことにしたんだけど、私がいてくれるなら安心、って言われたりして…これはますますしっかりしなきゃ。
 再び彼女の部屋へ戻って改めて彼女の様子見るけど、朝からずっと熱を出して横になってたってことでずいぶん汗をかいちゃってた。
「里緒菜ちゃん、ちょっと身体起こせる? 私が支えてあげるから」
「はい、そのくらいでしたら…でも、何をするんですか?」
「うん、ちょっと身体を拭いてあげようかな、って。ずいぶん汗かいちゃってるし」
「え…そんなことしてもらっていいんですか?」
「うん、もちろん。今日は思う存分甘えてくれていいし、遠慮しないでね」
「…ありがとうございます、すみれ」
 熱っぽい表情で微笑まれるとどきってしちゃうけど、とにかくタオルを借りて身体を拭いてあげる。
「里緒菜ちゃん、えっと、寒かったりしない?」
「いえ、大丈夫…気持ち、いいです」
「う、うん、よかった」
 身体を拭いてあげる、ってことはあの子の素肌をさらしちゃうってわけで、現に今は上半身をはだいた状態になってて、背中向いてるとはいえどきどきしちゃう。
 里緒菜ちゃん、相変わらず素肌も髪もとってもきれいだよね…って、もう、ちゃんと拭いてあげないと。
「え〜と、それじゃ、次は前だけど…」
「…お願いします、すみれ」
 私が何か続きを言う前に、あの子がこっち向いてきちゃう…!
「わっ、う、うん…!」
 いや、今までも見てるっていったらそうなんだけど、でもやっぱり彼女の一糸まとわぬ姿、それをこんな間近で見ちゃうと…!
「…すみれ? 拭くなら、はやくして…」
「あっ、う、うん、ごめんねっ? じゃあ…」
 布越しにそっと胸とかに触れることになってどきどきが収まらないけど…うぅ、集中集中っ。
 普段の里緒菜ちゃんならこういうとき私をからかう様なこと言ってきそうなものなんだけど、でも静かに私に身を任せるばかりで、やっぱり体調悪いんだよね…。
 そんな彼女をあまり長い間あんな格好にさせちゃってもいけないし、どきどきを抑えつつ何とか身体を拭き終える。
「ふぅ…ありがとうございます」
 新しく用意した服を着て再び横になるあの子は心なしか満足そうに見えて、まずはよかった。
 じゃあ、次はどうしよう…掃除、は窓とか開けられないし、今は無理か。
 お見舞い終わったらまたここにはきづらくなるし、この散らかった状態、できれば何とかしたかったんだけど、彼女の体調が最優先だし、しょうがないよね。
 じゃあ…と、カーテンが閉まってるからちょっと気づかなかったけど、時計に目をやるともう結構な時間。
「里緒菜ちゃんって今日は何か食べた?」
「いえ、今日は薬を飲んだくらいです」
「そっか、じゃあ食欲はある?」
「一応、朝方に較べたら気分もましになってますし、そこそこ…ですけど、この流れって…」
 あれっ、気分もましに、って言ってる割には彼女の表情が曇ってきてる様な…。
「里緒菜ちゃん、どうかした?」
「い、いえ…私の食欲をたずねて、すみれはどうするんですか?」
「うん、夕ごはんを作ろうかな、って思って」
「うっ、やっぱりそうでしたか…すみれ、お料理ダメじゃないですか…」
 あ、それで嫌な予感した、ってこと?
「もう、私だって独り暮らししてるんだし、苦手なのは確かだけど簡単なものくらい作れるよ?」
「…本当ですか?」
 うぅ、ものすごく怪しいって目を向けられちゃった。
 でも、よく考えたら今まで一度も私が里緒菜ちゃんへお料理作ったりしたことないし、ああ思われてもしょうがない、のかも。
「まあまあ、ここは私に任せて。里緒菜ちゃんはゆっくり休んでて、ね?」
「すみれがそこまで言うんでしたら、お願いしますけど…」
 まだ不安げな様子な彼女を残して、私はキッチンへ向かったの。

「里緒菜ちゃん、お待たせっ。ごはん作ってきたけど、起きられる?」
「は、はい、一応…でも、大丈夫なんですか…?」
 キッチンから戻ってきた私に対し、あの子は上半身を起こしながらも心配げ。
「大丈夫、ってそれは私の台詞だと思うんだけど。体調はどう?」
「今のところは、そう悪くは…でも、これから次第では悪化するかもしれません」
「ん、どうして?」
「…すみれがごはん作ってきたんですよね? それによっては…」
「むぅ〜、そういうことか…ぶぅ」
 あの子の言いたいことが解って頬をふくらませちゃう。
「大丈夫だよ、自分でもちゃんと味見したし」
「…その味見の結果はどうだったんですか?」
「もう、心配しないで? ちゃんと食べられるものだったから」
 いつも彼女の料理を食べてるとさすがに自分の作ったものがおいしいとは言えないけど、でも上出来のつもり。
「…すみれの味覚がおかしくなければいいんですけど」
「そこは自分で言うのも何だけど大丈夫だって思うんだけどな。とにかく、食べてくれる?」
「…まぁ、せっかく作ってくれたんですし、いただいてみます」
「ん、よかった」
 まずは一口食べてもらって、それでダメならしょうがない。
 ごはんの乗ったお盆を持ちつつ、彼女のベッドの横にある椅子へ腰掛ける。
「…おかゆですか。お約束ですね」
 私の作ったものを見て彼女がそう口にするけど、つまりはそういうこと。
「具がなくってちょっとさみしい感じかもだけど…」
「いえいえ、余計なものが入ったりしていないほうが安心できます」
 うん、私も変な欲目とか出すと失敗するかな、ってことでシンプルにいってみたの。
「…見た目はごく普通のおかゆっぽいですね。においも…普通です」
「心配性なんだから、もう…とにかくまず一口食べてみて?」
「…もちろん、あのお約束もしてくれますよね?」
 一瞬何のことか解らなかったけど、すぐに思い当たる。
「じゃ、食べさせてあげるね…っと、その前にちょっと冷まさないと」
 あの子が火傷したりしない様に、一すくいしたおかゆへ息を吹きかけて…と。
「…はい、じゃあ里緒菜ちゃん。あ〜ん?」
「では、いただきます…あ〜ん」
 一口口にする彼女は少し緊張した面持ちに見えたけど、それはきっとこのシチュエーションに対してじゃなくって味がどうか心配して、ってことだよね…。
「…里緒菜ちゃん、どう?」
 ちゃんと味わってから飲み込む彼女を見て声をかけるけど、こっちも緊張してきちゃう。
「そうですね…すみれの言うとおり、普通に食べられます」
「わぁ、うん、よかったっ」
 さすがにおいしいとまでは言ってもらえなかったけど、それでも十分。
「…すみれって、こうやって誰かに料理を作ったこと、あるんですか?」
「ううん、これがはじめてかな」
 調理実習とかを除けば、そうなるよね…元々苦手だし。
「そうですか…じゃあ、私はすみれのはじめて、ですね」
 里緒菜ちゃん、そう言って悪戯っぽく微笑んでくるものだからどきっとしちゃう。
「じゃ、じゃあ、里緒菜ちゃんは手料理を他の人に作ってあげたこと、あるの?」
「そんなめんどくさいこと、するわけないじゃないですか」
「じゃあ、私も里緒菜ちゃんにとってのはじめてだねっ」
「そうですね、料理だけじゃなくって、色々なことの」
「…はぅっ」
 うまく言い返したつもりだったんだけど、結局はこっちが言葉を詰まらせることになっちゃった…本当、敵わないなぁ。
 でも、ああして悪戯っぽい微笑みが出てきたりして、いつもの調子が戻ってきたのかな、ってそのあたりは安心できてきちゃう。
「…もう、すみれ? 一口しか食べさせてくれないんですか?」
「あ…ごめんね? じゃあ、もう一口…」
 おかゆをまた一すくいして、軽く冷ましてから彼女の口元へ運んであげる。
「…ふぅ、これでしたらすみれも普通にお料理できる様になれるんじゃないですか? てっきりもっと、壊滅的に下手なのかと思ってましたけど、そういうわけじゃないみたいですし」
 もう一口食べたところで彼女がそんなこと言ってきたけど、それってつまりフィクションとかでよく見かける、普通に作っても毒々しいものができたり爆発したりとか、そんな感じのものをイメージしてた、ってこと?
「う〜ん、でも、私は別にお料理上手になろうとは思わないかな」
「すみれらしくない後ろ向きな言葉ですね…どうしてですか?」
「だって、私は里緒菜ちゃんの作るおいしいお料理を食べてたいんだもん。ダメかな?」
「…しょうがないですね。めんどくさいですけど、すみれが私の料理でいいっていうなら、いいですよ?」
「うん、ありがとっ」
 いいも何も、里緒菜ちゃんの手料理が一番なんだから。


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