そういうわけで、マラソン大会がはじまるまでの一週間、私たちは一緒にジョギングすることになったの。
「いやいや、さすがに朝とかあり得ませんし。そんなことされたら、学校ではずっと寝ちゃうかもしれませんよ?」
 本当は早朝のジョギングを一緒にしようと思ったんだけど、そんなこと言われちゃったからあえなく断念…私のアルバイト後、つまり日が沈んでから走ることにしたの。
「うぅ、身体が痛い…センパイはよくこんなこと毎日やってられますね」
 そんなことはじめて数日、今日もアルバイト後に一旦私の部屋に戻って着替えた後にジョギングをはじめたけど、隣を走る彼女が走りはじめとともにそんなこと言ってきちゃう。
「う〜ん、毎日やってるから慣れてくるんだって。里緒菜ちゃんももうちょっと続けたら筋肉痛もなくなるって思うよ」
「いえ、それは遠慮しておきます。走らなければ筋肉痛になることもないんですし」
 う〜ん、そのあたりの気持ちは変わらないか…ま、無理強いはできないし、こうやって今走ってくれてるだけで十分すぎるかな。
「里緒菜ちゃん、このくらいのペースなら大丈夫そう?」
「まぁ、そうですね…何とか。これ以上はやくされるとついていけなくなりますけど」
「うん、よかった。じゃあ今日はこのくらいのペースで、神社に行って帰ってこよっか」
 無理させちゃいけないし、それにマラソン大会だって上位を狙ってもらうってわけでもないから、ここは彼女のペースで大丈夫。
 ちなみに走ってるルートは基本的には私が早朝に走ってるのと同じなんだけど、今は日没後とはいえまだまだ人通りとか多いからそういうとこはよけて走ってる。
「ここから先はちょっと暗くなってきちゃうけど、怖かったりしない?」
 だから、時には街灯とかのほとんどない場所を走らなくっちゃいけなくって、そういう場所になるときは彼女へ声をかける。
「大丈夫ですよ、変な人が出たりしてもすみれが守ってくれますよね?」
「うん、任せてっ」
 う〜ん、暗いとこが怖かったりしないのかな、って意味で聞いたんだけど、どっちにしても私がしっかりしなきゃ。
 で、ちゃんと気をつけたこともあって、道中何事もなく無事にいつもの神社に到着。
「じゃ、ちょっとここで休んでこっか」
 さすがにこの時間になると竜さんたちもいないけど明かりはついてるし、境内の一角にある休憩用のベンチに二人並んで腰掛ける。
「ふぅ、疲れました…まだ半分しかきてないなんて、やっぱりしんどいですね」
 息を整えながら手にしたタオルで汗を拭う彼女の姿もまた素敵…。
「…何です、すみれったらじぃ〜っとこっち見たりして。もしかして、私に見とれてましたか?」
「わっ、うん、それもあるけど、そういえば里緒菜ちゃんって学校のジャージ着てるな、って」
 素直に全部を認めるのはちょっと恥ずかしくって、別の気になったことも混ぜてみちゃう。
「はぁ、確かに学校のジャージ着てますけど、何か問題でしたか? 身体動かすんですからこれがちょうどいいと思うんですけど」
「あっ、うん、もちろん何の問題もないよ? ただ、走ってるときに同じ学校の子に見られたりするかもしれないし恥ずかしくないのかな、って」
「そんなの気にするだけめんどくさいです。ただでさえ走ってるだけでめんどくさいのに、そんなことまで気にしてたらやってられません」
 う〜ん、彼女は実害がない限りまわりのこと気にしないんだっけ。
「それに、このジャージはちょっと特別ですし」
「…へ、そうなの? それってどういう…」
「このジャージ、すみれがはじめて私の部屋にお泊りしたときに着たやつなんですよ? すみれが着てたのを着て、とかちょっとどきどきしますよね」
 そう言って悪戯っぽく微笑む彼女なんだけど、それって私が告白してその後貸してもらったもののこと言ってる?
「も、もう、あれから何度も洗ったりしてるって思うし、そんなの特別にしなくっても…」
「そうでしょうか…ふふっ」
 あの表情は完全に私のことからかってるよね…ぶぅ。
「もうもう、じゃあ…そうだ、マラソン大会、私も見に行こうかな? 里緒菜ちゃんの応援、ってことで」
「…それはやめてください。恥ずかしいです」
 ちょっとお返しって感じで言い返してみると、即座にそう言われちゃう。
「大丈夫だって、さすがに冗談だから」
「いえ、センパイなら本当にしかねませんし…やめてくださいね?」
 真剣な表情で念押しされちゃったからうなずき返すけど、やっぱりそれは恥ずかしいんだ…私が同じことされても恥ずかしいけど。
 それに、こんなしっかり頑張って走ってるんだから、大会のほうも特に心配ないって思うし…あとは無理しないで無事に走りきってくれれば、それで十分。


次のページへ…

ページ→1/2/3/4/5

物語topへ戻る