「それじゃ、お邪魔しま〜す」
「は、はい、その…どうぞ」
翌日、私は麻美ちゃんの暮らすマンションにお邪魔してた。
その理由はもちろん昨日のお願いを聞いてもらえたからで、お互いに予定がなくってまた里緒菜ちゃんは学校、夏梛ちゃんはお仕事でいない今日、ここで教えてもらえることになったわけ。
「今日はほんとにありがと」
「えっ、いえ、そんな、お気になさらないで…」
そうは言われても…う〜ん、ちょっと気になっちゃう。
「でも、やっぱりちょっと迷惑だったかも、って思うし…ごめんね?」
「い、いえ、そんなことはありませんから…」
「そう? でも麻美ちゃん、ずいぶんおどおどしちゃってるから、ちょっと心配で…何かあったら遠慮なく言って、ね?」
先輩からのお願いで断りきれずに無理に、とかだなんてよくないもん。
「あっ、い、いえ、ただ、その、ここに夏梛ちゃん以外の人をお呼びしたのがはじめてで、それで緊張してしまっただけですから…」
「…って、へ? そ、そうなの?」
ちょっとびっくりしちゃったけど、麻美ちゃんは夏梛ちゃんと一緒にいられればそれだけで、って感じの子だものね…なんて、そういう私もこっちにきてから里緒菜ちゃん以外の人を部屋に呼んだことないかも。
学生の頃よりそういう誰かを呼んで、って機会は確かにちょっと少なくなってるのかも…。
「はい…あの、ではさっそく作ってみますか? 私も、夏梛ちゃんがいない間に作っておきたかったですし」
「あっ、うん、それじゃお願いしよっかな」
彼女の言葉にうなずいて、部屋に上がらせてもらったの。
麻美ちゃんも自分のチョコレートを作る、っていうことでお台所に行って一緒に作ってみる。
もちろん私は全然ダメだったりするんだけど、そんな私に麻美ちゃんは遠慮がちながらも丁寧に教えてくれた。
「ふぅ…形はちょっと歪だけど何とか作れたよ。ありがとっ」
「いえ、そんな、お礼なんて…少しでもお力になれましたら、よかったです」
そう言って微笑む彼女だけど、少しどころじゃないんだけどなぁ…そんな慎ましいところも彼女のいいところ、なのかも。
「麻美ちゃんのほうはさすがだねっ。それなら夏梛ちゃんも絶対喜んでくれるって思うよ」
「そ、そうでしょうか…ありがとうございます」
照れちゃう彼女だけど、その腕前はやっぱりさすが。
それに、夏梛ちゃんのこと想って作ってる、っていうのもとっても伝わってきたし…。
「う〜ん…よしっ、今日私が作ったのは、お礼ってことで麻美ちゃんにあげちゃうっ。形は悪いけど味は大丈夫なはずだし、受け取って?」
「えっ、山城センパイ? どうしたんですか?」
突然の私の申し出に彼女は戸惑っちゃった。
「うん、今日教えてもらったことを元にしてお家でもう一回自分で作ってみようかな、って思って。それに麻美ちゃんにはとっても感謝してるからお礼もしたいし…って、これじゃお礼になんないかもだけど」
「いえ、そんなことはありませんけれど…、お礼なんてお気になさらなくっても…でも、山城センパイがそうおっしゃられるのでしたら、受け取らせていただきます」
「うん、ありがとっ」
「そんな、こちらこそありがとうござます」
お互いに微笑みながら私のチョコレートを受け取ってもらう。
「それに…山城センパイ、やっぱり里緒菜さんのこと、とっても強く想っていらっしゃるんですね」
「…へ? ど、どうして?」
微笑ましげにそう続けられて…確かにそのとおりではあるんだけど、ちょっと唐突だったから少し戸惑っちゃった。
「あっ、その、チョコレートを改めて作るのも、里緒菜さんのためにもっといいものを作りたい、と思われたから、ですよね…?」
「まぁ…うん、そうだね。はじめてのバレンタイン、しかも結婚式で渡す、ってなるとやっぱり色々考えちゃって」
もっと上手にできるんじゃ、とかもっと想いを込められるんじゃ、とか…きりがなくなっちゃうかもだけど、後悔はしたくないもんね。
「…えっ? あ、あの、結婚式、って…?」
と、麻美ちゃんが戸惑っちゃったけど、そういえば美亜さん以外の人にはまだこのこと話してなかったっけ。
もう場所とかも何とかなったし、呼ぼうって考えてる人には話してもいいよね。
「うん、実は…」
ということで、正式にってわけじゃないけど里緒菜ちゃんと結婚式を挙げることになって、ってことを麻美ちゃんに話してみる。
「…っていうことなんだけど、麻美ちゃんも夏梛ちゃんと一緒にきてくれるかな?」
「はい、それはもちろん、山城センパイがそうおっしゃってくださるのでしたら是非そうさせてください」
そして最後にああたずねてみるとそうお返事をしてもらえたから一安心。
「でも、結婚式だなんて素敵です…私も、夏梛ちゃんとできたら…」
何だかうっとりした表情になっちゃった麻美ちゃんだけど、やっぱり大好きな人といつかは…って想っちゃうよね。
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