手作りチョコのことは後で考えるとして、まずは里緒菜ちゃんからの元々のお願い…ウェディングドレスを着て結婚式、をどうやったらできるか考えることにした。
 もちろん、私がお願いを叶えてあげなきゃだから、あの子のいないときに改めて一人で考える…んだけど、やっぱりなかなか難しい。
 私たちってまだ正式に結婚してない…っていうよりできないわけで、そういうちょっと特殊かもしれない関係で式場とかどうする?
 海外に行けばありそうだけど、そんなお金はないし、そもそもそこまでしっかりしたものじゃなくっても私なりにのものでいい、ってあの子も言ってくれたよね。
 それでもまず第一にドレスの問題もあるし、ちょっと誰かに相談してみようかな、って思ったの。
 で、こういうことをまず相談できる人、っていったら…ねぇ。
「あら、私に相談? もちろんいいわよ…里緒菜ちゃんのことよね?」
 アルバイトの時間よりも少しはやくに向かったいつもの喫茶店、相談を持ちかけた私に笑顔でそう応じてくるのはもちろん美亜さん。
 元々人の悩みごととか聞くの好きな人だし、こういうことならなおさら…ってことでお願いしてみたわけ。
「う、うん、ありがと…でも、あの子のことってよく解ったね…」
「それはもう、見れば解るわよ。それに、相談っていってもつらいこととかじゃないみたいね」
 さすがというか何というか、美亜さんは相変わらずこういうことはお見通しみたい。
「それで、どうしたのかしら?」
「うん、え〜と、何て言ったらいいのかな…里緒菜ちゃんと結婚式をしたいな、ってなって…」
「まぁ、結婚式? それは素敵なことだけど、二人がもうそこまで考えていたなんて、少し意外ね」
 美亜さんはずいぶん嬉しげになっちゃったけど、これは予想通り。
「え〜と、まぁ、正式なもの、って感じじゃないんだけど…」
「あら、それってどういうこと?」
 美亜さんに先日の里緒菜ちゃんとの約束のことを話してみる。
「…なるほどね。そんなお願いをしてくるなんて、やっぱり二人はラブラブなのね」
「う、うん、それはまぁ…」
 誰かに相談しよう、って決めたのは私だけど、いざ話したら…やっぱり恥ずかしいなぁ。
「え〜と、とにかく、それでドレスとか会場とかどうしようかな、って考えてて…」
「あら、それなら私が協力するわよ?」
 私が全部を言い終わらないうちに美亜さんがそう言ってきた?
「…へ? 協力、って?」
「そうね…ドレスは私が作ってあげるわ。麻美ちゃんほどじゃないかもしれないけど、私もお裁縫はできるし」
 そういえば麻美ちゃんはクリスマスプレゼントに夏梛ちゃんへゴスいおよーふくを作ってあげてたっけ…。
「会場は…そうね、ここでいいんじゃないかしら?」
「ここ、って…この喫茶店?」
「ええ、ここならすみれちゃんと里緒菜ちゃんのお知り合い、呼べるでしょ?」
 そりゃまぁ、里緒菜ちゃんが結婚式したいって言ってきた理由を考えれば、恥ずかしいけどあの子の学校の子たちに見てもらったほうがいいのかもしれない…けど。
「でも、そんなの、本当にいいの?」
「あら、何か問題あった?」
 いや、そんな不思議そうに首を傾げられたりしたら、こっちが戸惑っちゃうんだけど…。
「ここを使う、っていっても普通にお店あるだろうし、ドレスを作るのだってとっても大変じゃない? そんなことしてもらうなんて、申し訳ないっていうか…」
「あら、そんなこと気にしていたの? お店のことなら大丈夫…結婚式だなんて、いいイベントになるくらいだもの」
 う〜ん、ここのお店ってやっぱり美亜さんのものなんじゃ…。
「それでも、ドレスまで作ってもらうっていうのは、さすがに…」
「それも私が好きですることだもの。百合な結婚式のウェディングドレスだなんて、素敵よね…」
 あぁ、何だかものすごくうっとりしちゃってる…。
 私が高校生の頃に入ってた演劇部にも衣装作るのが好き、って子がいたし、それと同じって考えればいいのかな…。
「え、え〜と、じゃあ、美亜さんがいいって言ってくれるんでしたら…お願いして、いい?」
「ええ、もちろん構わないわ。どちらも任せておいてね」
「う、うん、ありがとうございます」
 美亜さんはとっても嬉しそうだし、お言葉に甘えちゃってよかったんだよね?
「いえいえ、こちらこそ素敵なイベントをありがとう。予定日は二月十四日でいいのよね?」
「あっ、うん、でもちょっと急な話だったし、ドレスを作る期間とか大丈夫?」
「ええ、私のほうは問題ないけれど、すみれちゃんのほうこそ大丈夫?」
「えっ、何が?」
 ドレスに式場の問題まで何とかしてもらっちゃったし、美亜さんが何についてたずねてきてるのか解らなくって首をかしげちゃう。
「ほら、さっきの話だとチョコレートを交換するのでしょう? 用意できるのかしら、って」
「…あ」
 そうだった、その問題がまだあったんだっけ…。
「すみれちゃん、お料理とか苦手だそうだけれど、チョコレート作りは大丈夫?」
「いえ、まぁ…大丈夫、じゃないかな」
「あら、やっぱり…でも、やっぱり手作りなものを贈りたいわよね。二人が結ばれてはじめてのバレンタイン、しかも結婚式で交換、だからなおさらよね」
「う〜ん、そうなんだけど、今まで一度も作ったことなくって…」
 チョコレート一つ作ったことないなんて、私って本当、女の子っぽくないなぁ…自分でちょっと微妙な気持ちになっちゃった。
「そう、それなら私が作りかた、教えてあげましょうか」
 と、そんな私に美亜さんがそんな提案をしてきた?
「えっ、いや、でも、ただでさえドレス作ってもらったりするのに、さらにそこまでしてもらうなんてさすがに悪いよ」
「遠慮しなくっても大丈夫よ。他の子も集めて、チョコレート作りの教室を開くことになっているもの」
「…へ? そうなの?」
「ええ、この時期でしょう? 想いを伝えたい、って子のために、ね…もちろん、お友達同士での交換とかでもよいけれども」
 そう言って微笑む美亜さんは、本当に女の子の幸せなところを見るのが大好きなんだなぁ、って感じる。
「あの学校の子たちと十二日に開くことにしているのだけれど、どうかしら?」
 もうすでに予定にあることならありがたく受けよう…って思ったんだけど。
「うぅ、残念、その日はお仕事があるんだったよ」
「あら、そうなの? なら、別の日にしてもよいけれど…」
「ううん、すでに予定立ててるんだし、そこを私一人の都合で変えるのは悪いよ。美亜さんはその日にみんなに教えてあげて?」
「そう…すみれちゃんがそう言うのならそうするけど、すみれちゃんは大丈夫なの?」
「ん〜…まぁ、何とかしてみるよ」


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