第6.5章
「ウェディングドレスを着たすみれが見たいです。いえ、それで結婚式をしてくれますか?」
―風邪を治したら何でもお願いを聞いてあげる、っていう約束をして、そして風邪を治した里緒菜ちゃんはそんなお願いをしてきたの。
ちょっと…ううん、かなり意外なお願いで驚いちゃったけど、私たちの関係をはっきりさせたいっていう彼女の気持ちは私も似た様なこと感じてたから解ったし、そのお願いを聞いてあげることにしたの。
「う〜ん、でも、そうなると式場を借りなきゃいけないのかな? でも貸してくれるかなぁ…」
約束をしてすぐに色々問題が思い浮かんできちゃった。
「すみれは真面目ですね…そのあたりはできる範囲で適当に考えてくれればいいですよ」
と、一緒に朝ごはんを食べながら、すっかり元気になった里緒菜ちゃんがそう言ってくる。
ちなみに今日は学校はお休みだし、それに彼女も病み上がりってこともあってちょっとのんびり気味にしてる。
「うん、ありがと。じゃあちょっと考えてみるから、しばらく待ってね」
「はい、すみれなりに考えてくれれば、それで十分ですから…あ」
と、里緒菜ちゃん、何かに気づいた表情になった?
「里緒菜ちゃん、どうしたの?」
「せっかくですから、十四日にすることにしませんか?」
「…ん? 十四日って…どうして?」
「いえ、指輪の交換は用意が大変だと思いますし、ならその日にしてチョコレートを交換、というかたちにしてみるのもありかと思いまして」
うん、彼女の言うとおり指輪を用意するのは大変だけど、どうしてそこでチョコレートが出てくるんだろう。
「…何か全然意味が解んない、って様子ですね。まぁ、私も今まで別に興味なかったですし、すみれらしい、っていえばそうですけど…」
って、呆れた様子でため息つかれちゃった!
何だか悔しいし意味を考えるんだけど…う〜ん?
「…はぁ、二月十四日はバレンタインです。本当に解らなかったんですか?」
結局思い浮かばないうちに見かねた様子で彼女がそう教えてくれたの。
「あぁ、そっか、バレンタインか…あんまり縁のないイベントだから忘れちゃってたよ」
「そうなんですか? センパイのことですからたくさんチョコレートもらったり…それに、あげたりしてなかったんですか?」
「ん〜、友達にチョコバー渡したりするくらいはしてたけど、そのくらいだよ」
センパイのことですから、の意味がちょっとよく解らなかったけど、そうお返事。
「そういう里緒菜ちゃんこそどうなの?」
「私がそんなめんどくさいことするわけないじゃないですか」
う〜ん、私が聞いたのはもらってたんじゃ、ってことだったんだけど…まぁ、いっか。
「でも、すみれにでしたら話は別ですし、さっきの話…どうですか?」
「うんうん、そういうことならそれでいいかな」
実際、里緒菜ちゃんの手作りチョコレートがもらえるなんてとってもいい話だから迷わずうなずいた…んだけど。
「…あ、ちょっと待って。それって、私も用意して渡さなきゃダメ、なんだよね?」
「もちろんです。それとも、すみれは私にチョコレート、くれないんですか?」
あぅ、さみしそうな表情されちゃったけど、もちろん好きな子から受け取るだけ、なんてこと私も嫌だよ。
「で、でも、私、チョコレートなんて作ったことないから、里緒菜ちゃんに渡せる様なものを作れるかどうか…」
そこが不安でちょっと迷いが出ちゃったの。
「そんなこと気にしてたんですか…ふふっ、すみれはかわいいですね」
「はぅっ、そ、そんなことないもん!」
「そうやって顔を赤くしたりして、本当にかわいいんですから」
「だからそんなことないのに…ぶぅぶぅ!」
彼女のほうがはるかにかわいいのに、あんなこと言ってからかってきたりして…ぶぅ。
「とにかく、手作りとか上手下手とか、そんなめんどくさいことは別に考えなくていいですって。私だって、手作りのを用意する、なんて一言も言ってませんし」
「…むぅ、そんなこと言って、里緒菜ちゃんはちゃんと手作りの用意してくれる気がする」
「さぁ、それはどうでしょう? そんなめんどくさいことしないかもしれませんし…チョコバーでもいいですから用意してくれるだけでいいですよ?」
ああは言ってるけど、きっと手作りで用意するのを期待してるよね…。
「うん、解った…頑張るねっ」
私も大好きな人へはじめて渡すチョコレート、できるならやっぱり手作りにしたいし…うん、やってみよっ。
「はい、頑張ってください…ふふっ、本当、すみれはかわいいですね」
もうっ、またあんなこと言って…ぶぅぶぅ!
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