里緒菜ちゃんの態度は気になったけど、一応納得してもらえたみたいだし週末は地元へ帰って。
去年のお正月も帰らなかったから、何気に高校卒業以来久しぶりになる帰省になったけど、実家の両親も元気そうでよかった。
私が出てる作品は何も見たりしてなかったけど、ゲームはしないしアニメも…あの子と出たやつなんかはこっちじゃ放送されてないししょうがないかな。
土曜の夜は実家でのんびりして、翌日は成人式…みんな着てくるものだっていうことで振袖を用意されて着ることになったけど、似合わないなぁ。
落ちつかない気分で会場へ行くと、懐かしい面々の姿…もちろん高校の友達になると市外からきてる子も多かったしみんないるってわけじゃないけど、それでも十分。
さすがに一、二年じゃそこまでみんな変わらないってとこなんだけど…。
「あ〜っ、スミスミじゃん! よかった、きてたんだっ」
「…ふぁっ!?」
会場の入口で何人かと声を交わしてるといきなり背後から飛びつかれてびっくりしちゃったけど、この声って…。
「…もう、誰かと思ったらミーミーじゃない。びっくりさせないでよ、もう」
「えへへ、ごめんね。にしても久しぶり〜…髪の毛切っちゃったんだねぇ」
笑いながら身体を離してそんなこと言ってくるのは私のよく見知った子。
「ポニーテールなスミスミもよかったけど、今のも悪くないかも…とにかく元気そうだね」
「うん、ミーミーも相変わらずっぽくってよかった」
そう声を交わして笑いあうその子は三葉湊っていって苗字も名前も「み」ではじまるからあんなあだ名で読んでる、今も昔も今の私とあんまり変わらない髪の長さした明るい女の子。
知り合ったのは高校入ってからってとこで比較的遅かったんだけど、その高校時代で一番仲良かったかもっていえるくらいかも。
…ちなみに私のことスミスミ、なんて呼ぶのも彼女だけ。
「スミスミは式が終わった後、何か予定あったりするの?」
「う〜ん、まだ特に決めてないかな。みんなでごはん、とかは考えてるけど」
「そかそか、じゃあその後のスミスミの予定、私が予約するよ〜? いいよねっ?」
「うん、ミーミーならもちろんいいけど、何するの?」
「それは、お楽しみってことで」
成人式は特に何事もなく終わって…まぁ、これだけならあの子も言ってたみたいに無理して参加するほどのものでもない、って感じてもおかしくないかも。
それから中学や高校時代の友人たちとお昼ごはん食べて。
「ごめんね〜、スミスミの時間予約しちゃって」
午後は約束どおりミーミーに付き合ってあげる…と。
「ううん、こっちこそ。一回着替えに帰りたい、なんてわがまま言ったりして」
振袖のままじゃどうも落ち着かない、ってことでごはんの後で一回別れて、改めて待ち合わせたってわけ。
「あ〜、いいよいいよ、あのまんまだと落ち着かない、ってのは私だって同じだったからさ」
そう言う彼女ももちろん着替えてきてて、お互いに笑いあっちゃう。
「それで、こんなとこで待ち合わせて、これからどうするの?」
私の視線の先にあるのは…数年前に私たちが通ってた高校。
「いや〜、せっかくだからちょ〜っと、一緒に懐かしの母校を見てかないかな〜、なんて思っちゃったわけ。どう?」
「そういうことか…うん、いいよ」
せっかくの機会だし、もうちょっと懐かしさに浸るのもいいかも。
そういうわけで私とミーミーは数年前に卒業した母校へ久しぶりにやってきた。
もちろん入る前に見学の許可をもらって、それから色々見て回ってみるの。
日曜日、さらに三学期入って早々だし三連休の中日ってこともあって部活もほとんどしてないみたいで、外はもちろん校舎の中もとっても静か。
「ん〜、やっぱり懐かしくなってくるなぁ」
「だね、つい昨日のことみたいな、でもずっと遠い昔のことみたいな…どっちだよ、って感じだけどさ」
私たちの通ってたこの高校は、里緒菜ちゃんが通ってる、あるいは麻美ちゃんが通ってたとこなんかに較べたら全然普通の学校なんだけど、でも三年間で色々あった場所だし改めて見てくと感慨深くなってくる。
「おおっと、部室空いてる、入っちゃおっと」
「あぁもう、無用心なんだから…」
ミーミーが入ってって私もその後について入ったのは、演劇部の部室。
「私たちがいた頃とあんまり変わってないなぁ…おっ、この台本は新作っぽいぞ」
「そうだね、懐かしいなぁ…」
ミーミーが「私たち」って表現した様に、私たちは二人とも演劇部員だった…しかも彼女は部長だったし。
「いやいや〜、部長だなんてもう遠い昔だよ〜。今の大学のサークルには私より上手な人たくさんいるしね」
「あ、でも大学行っても演劇はやってるんだ」
「まぁね、でも将来それを目指してるってわけでもないけどさ…にしてもスミスミはすごいよね。しっかり声優になるって夢を叶えたし」
「いやいや、私なんてまだまだだよ」
「どうしてそこで謙遜するかなぁ? アニメに主役で出てるなんて十分すぎるほどすごいって…友人として鼻が高いよ」
「そ、そうかな…ありがと」
友達がああ言ってくれるのって、ちょっと恥ずかしいけど嬉しい。
「そうだってば。ゲームでも主役クラスの役してたし、それにどっかの学園祭ライブまでしてたんだから、スミスミが同期で一番有名人になってるってのは間違いないとこだね」
「いや、そんなの、ほとんどの子がまだ大学生なだけのことだし…」
十年、いや五年後にはどうなってるか解んないよね。
それに、私のことだって、そういうふうに言ってくれたのはミーミーだけ…。
「…ん? ミーミー、私がゲームの役やってるとかライブしたとか、よく知ってたね」
一応地上波でも放送したアニメはともかく、ゲームは女の子はあんまりプレイしないものだし…。
「い、いや〜、まぁそのくらいは自然に耳に入ってくるっていうかさ…」
「でも学園祭ライブは事前告知もない、しかも別に声優としての活動ってわけでもなかったのに、そこまで知ってるなんてちょっとびっくりしたよ」
「いや〜、それはそのさ…気になる?」
「う〜ん、ちょっと?」
椅子に座った彼女、手にした台本をぺらぺらしたりして妙に落ち着きなくしてるとこを含めて気になるかも。
「はぁ…よ、よしっ、覚悟を決めるか、私っ。今日スミスミに会えたなら言ってみる、って決めてたしっ」
と、そんなこと言った彼女、ちょっと勢いつけて立ち上がる。
「ふぅ…ね、スミスミ、ちょっと聞いてもらいたいことあるんだけど、いい?」
で、大きく深呼吸した彼女、私の前まで歩み寄ってきてそうたずねてきた。
「うん、もちろんいいけど、そんな改まってどうしたの?」
「いや、え〜と、何て言えばいいのか…私がスミスミのことそんなに知ってんの、わけがあってさ」
ミーミー、何だかずいぶん緊張した様子で彼女らしくないっていえばそうなんだけど、このシチュエーションって…。
「私さ、ここで演劇部してた頃からスミスミのこと見てたんだ。だって…」
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