やっぱり里緒菜ちゃんのほうが大人っぽいかな、とは感じるんだけど実際にはこの通り私のほうが年上で、しかももう二十歳。
「センパイ、今日から地元に戻るんですか? 成人式は明日だっていう話なのに」
 だから里緒菜ちゃんが口にした様なイベントがある、ってわけ。
 ちなみに今は土曜日のお昼、事務所で打ち合わせを終えた後二人でごはんでも食べよう、ってとこ。
「うん、ちょっと遠いから、日帰りで行くのは無理…とまではいかないけどちょっときついかも」
 そういうわけで、お昼を食べたら一旦部屋へ戻って、それから出発することにしてる。
「里緒菜ちゃんは明後日まで学校もお休みでお仕事もないんだよね。どうやって過ごすの?」
 月曜日は成人の日でお休みだから…ちなみに私の地元の成人式は前日の日曜日、明日に行われるの。
「そんなの、だらだらして過ごすに決まってるじゃないですか」
「あ…やっぱり。もう、ほどほどにしておいてよね?」
「…あれっ、意外な反応ですね。てっきり、もっと強く止められるものかと思ってましたのに」
 うん、正直に言ったら休日とはいえちゃんと過ごしてほしいな、って気持ちはあるよ。
「まぁ、里緒菜ちゃんは普段学業とお仕事を両立させて頑張ってるんだから、そのくらいはいいかな、って」
「別に頑張ってはいませんけど、センパイがそう言ってくれるなら、心置きなく思う存分だらだらしましょうかね」
 いや、だらだらすることにそんな力を入れなくってもいいんだけどなぁ…。
 そんな彼女なんだけど、そう言ったっきり黙っちゃって、歩きながら何か考え込んだ様子になる?
「里緒菜ちゃん、どうしたの? お昼どこにしようか考えてる?」
「いえ、それはいつも通りセンパイにお任せしますから。ただ…」
「何かあった? 私でよかったら何でも言ってね」
 歩きながらもつないだ手をさらにぎゅってしてあげる。
「そうですね…センパイ、一緒にだらだらしませんか?」
「…へ? それってこれから?」
 唐突な、しかもこれからの予定を無視した提案に戸惑っちゃう。
「はい、成人式なんてほとんど無意味なイベントですし、やめておきましょうよ」
 えぇ〜、これまた突然…だけど、彼女の表情はちょっと不安げにすら見えて冗談を言ってる感じじゃなさそう。
「もしかして、私と離れ離れになるの、さみしい?」
 それであんなこと言ってきたなら、それはそれでかわいいかも。
「いえ、それはないです。今までだってお仕事とかでこういうことよくありましたし」
 でも、そこはあっさり否定されちゃった…まぁ、彼女の言うとおりではあるんだけど。
「う〜ん、じゃあどうしたの?」
「いえ、まぁ…ちょっと、嫌な予感とかして」
「…ん? まさか、私が事故とかにあっちゃうとか、そういうこと?」
「まさか、私にそんなの見える力はないですよ。ただ…」
 あ、今度はため息ついちゃった。
「…センパイ、懐かしい人に会ったりしても、あんまり流されすぎないでくださいね?」
「へ? それってどういう…」
「あっちに行っても、私のこと忘れないでくださいね、ってことです」
 う〜ん、何を伝えたいのかいまいちよく解らない…けど。
「うん、もちろん。どこにいても里緒菜ちゃんのこと一番に思ってるから、安心して」
 それは自信を持って約束できるから、力強くお返事。
「それならいいんですけど…はぁ、私ってやっぱりめんどくさい女ですね…」
 と、里緒菜ちゃん、またため息ついて何か小声でつぶやいたりして、よっぽど何か心配なのかな。
「もう…ほら、チョコバー食べて元気出して、ねっ」
 こういうときはチョコバーだって思うし、元気よく彼女に渡してあげたの。


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