第5.5章

「…うわっ、何だかいつもより寒いかも」
 ―一月も下旬に入ったある日、いつも通りの時間…この時期だからまだ暗いうちに目が覚めたんだけど、布団から出てまずそんな声が出ちゃった。
 真冬だから寒いのは当たり前なんだけど、いつにも増してっていうか…。
「…わぁ、そっか、そういうことか」
 カーテンを開けて外を見て納得。
「夜のうちに雪が降ってたんだ」
 窓の外はまだ暗いけど、それでも銀世界。
 このあたりはあんまり雪は降らなくって、積もったのは私がこっちにきてからはじめてかも。

 いつも通り着替えて外に出てみると、雪はやんでたけど風はちょっと強め。
 それに雪は結構降り積もってたけど、それでも私は日々の日課になってるジョギングに出かけるの。
「うぅ、やっぱりちょっと走りづらい…でも、こういうのも楽しいよね」
 街を走ってる中で見かける、大変そうにしてる車とかを見るとそんなのんきに言ってちゃいけないのかもしれないけど…でも、やっぱり雪が積もると気持ちが高鳴っちゃう。
 もう雪雲はなくって晴れてきてる中、明るくなってきた頃には海沿いにある神社にたどり着いたんだけど、雪に包まれた光景はいつにも増して神秘的。
 まだこんな時間な上こんなお天気だから、他に誰の姿もない…ってわけでもない。
「あっ、竜さん、おはようございます」
「あら、すみれさん…おはようございます。こんな日でも走っているなんて、お疲れさまです」
 一人境内にいた、寒そうな中いつも通り巫女さんな格好をした、ここにくるときにはいつもお会いしてる人に駆け寄って挨拶。
「ううん、好きでやってることだし。竜さんは…雪かきしてるの?」
「はい、せめて参道などはきちんと歩ける様にしておきたいですから」
 その言葉通り竜さんは道具を持ってて、社殿から少しの参道は雪がきれいにどかされてたんだけど、でもそれはほんのちょっとの距離でしかなくって。
「雪かきの道具って、一つしかありませんか?」
「いえ、倉庫にまだありますけど、どうしてですか?」
「うん、私もお手伝いしようかなって」
 一人でこれだけの場所をするのは大変だし、もちろんそうしたほうがいいよね。

 竜さんには遠慮されちゃったけど、他に用事とかないって伝えて解ってもらって。
 神社の雪かきが終わったら、今度は自分のアパートまわりもしておいたりしたの。
 お昼前からは喫茶店でアルバイトだけど、風は収まったものの気温は上がらずだから雪はほとんど溶けずに残ってて、お昼ごはんを食べてからそこの雪かきもすることにした。
 お客さんもこなくって時間もあるし、こんなに雪があるなら…ただ雪かきするだけっていうのも、もったいないよね。

「うんうん、こんなとこかなっ」
 ちょっと時間をかけて、なかなか満足できるものを作ることができて…。
「…センパイ、何してるんですか?」
 ちょうどそのとき、後ろからそんな声が届いて…振り向いた先にいたのは、もちろんあの子。
「あっ、里緒菜ちゃんっ。今日も学校、お疲れさま…こんなに雪が積もっちゃったけど、転んだりしてない?」
「それは大丈夫ですけど、こんな日は一歩も外に出ない出だらだらしてたいです」
 相変わらずなこと言ってくる彼女に、何事もなさそうな安心感も合わさって笑っちゃう。
「こんな日にお仕事とか、ついてないです…延期とかになんないでしょうか」
「もう、ここまできたんだから、お店で休んでから事務所行こ?」
「はぁ、しょうがないですね…で、センパイはお店のお仕事しないで遊んでたんですか?」
「ぶぅ、これは雪かきのついでだよ?」
「ついで、ねぇ…その割にはずいぶん大きな雪だるまを、しかも二つも作ってますけど」
 あの子の言葉通り、お店の入口の隣には私たちとほとんど変わらない背の高さな雪だるまが二つ。
「うん、楽しくってつい…それに、やっぱり作るってなったら二つあったほうがいいなって」
「どうしてですか?」
「うん、里緒菜ちゃんと私、って感じで…」
「そうですか…ふふっ」
 あれっ、なぜか微笑ましげにされちゃった。
「どうしたの?」
「いえ、そんな雪だるま作ったり、雪で楽しそうにしてるすみれはやっぱりかわいいって思いまして」
「うぅ〜っ、そんなことないよ、ぶぅぶぅ!」
 本当、今ああやって微笑んでる里緒菜ちゃんのほうがずっとかわいくって、どきどきしちゃうくらいなのに。
「そんなことより、里緒菜ちゃんも一緒に雪で何かしようよ」
 うんうん、そうしたら絶対楽しいって思う…んだけど。
「えぇ〜、そんなめんどくさいことするわけないじゃないですか。それよりはやくお店入ってあったまりたいです」
 うん、まぁ、そう返されるってのも解ってた。
 でも、寒い中ずっと外にいて彼女が風邪ひいちゃったりしたら大変だし、ここはしょうがないか。
「すみれちゃん、お疲れさま…あら、里緒菜ちゃんもきてたのね、こんにちは」
「あ、はい、どうも」
 と、お店から美亜さんが出てきた。
「ずいぶん立派な雪だるまができてるのね…これ、すみれちゃんと里緒菜ちゃん?」
「あっ、うん、そうだよ」
 見て解ってもらえるんだ…ちょっと嬉しいかも。
「うふふっ、そう…幸せそうに寄り添ったりして、お店の前に飾るのにふさわしいわね、ありがとう」
「…へ? え、え〜と…あ、あはは、そうかな?」
「…すみれ? 顔が赤いですよ?」
「う、うぅ〜、そ、それより、はやくお店の中に入ろ、ね?」
 あぅ、あんなこと言われたりするとさすがに恥ずかしいな…まぁ、実際の私たちもそんな感じでずっといたいな、って思ってるのは確かなんだけど、ね。


    -fin-

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