去り際の竜さんが言ってたみたいに境内では甘酒が振舞われたりしてたから、それをもらって二人で飲んだりして。
「…本気でここで待つんですか?」
「うん、身体もあったまったし、それに今日は風もないから大丈夫だって思うよ」
 その後、私たちは神社を後にして海岸まで足を運んだんだけど、そこでそんなやり取り。
「はぁ、まぁ、歩き回ったりしないだけいいですか」
「ありがと、里緒菜ちゃん。じゃ、座って待ってよっか」
 神社にはたくさん人がいたのに対し、砂浜は静かなもの…そこへ二人でしゃがみ込む。
 こんなところで何をしようとしてるのかっていうと、初日の出を見るために時間がくるまで待ってようっていうわけ。
「うん、雲一つなくっていいお天気。これなら初日の出もしっかり見られるね」
 冬の星空を見上げて、その点にまずは一安心。
「別に無理して見なくってもいいと思うんですけど…私、今まで一度も見た記憶ありませんし」
「わっ、そうなんだ…じゃあなおさら、だねっ」
 はじめて見る初日の出が私と一緒に…何となく嬉しい。
「まぁ、いいんですけど…わざわざシートなんて持ってきてるあたり、はじめからこうするつもりだったみたいですし」
「あはは、まぁね」
 そう、今の私たち、私が持ってきたシートの上に座ってる。
「…さてと、じゃあちょっと横になっていいですか?」
「うん、いいけど、どうしたの? 甘酒飲んで酔ったりしちゃった?」
「まさか、あのくらいじゃさすがに酔ったりしません。ただ、日の出までまだ結構時間ありますし、それにすぐそばにちょうどいい枕がありますから…」
 そう言う彼女の視線が私の腿のあたりへ向けられてて…前にもあったなぁ、こんなこと。
「そっか、もちろんいいよ…はい、どうぞっ」
「ありがとうございます…ふぅ」
 姿勢を直して、あの子に膝枕してあげる。
「里緒菜ちゃん、寒くない?」
「いえ、大丈夫です…むしろあたたかいくらいです」
 そうお返事してくるあの子、私の腿へ頬ずりをしてきたりしちゃう。
「わっ、もう、里緒菜ちゃんったら…」
 私からもやさしくなでなでしてあげたりして、気持ちはとってもあったか。
「そういえばセンパイ、お正月は地元に帰ったりしなくってもよかったんですか?」
 しばらく幸せを味わってると、あの子が横になったままそんなことたずねてきた。
「ん、まぁ大丈夫だよ。お正月はこうして里緒菜ちゃんと一緒に過ごしたかったし…里緒菜ちゃんも、だから実家に帰ったりしなかったんだよね?」
「えっ、私はただ帰るのがめんどくさかっただけですけど? 夏休みのときもそうだったじゃないですか」
「えぇ〜、そんなぁ」
 私ががっかりした声を上げるとあの子は少し笑ったりして…少なくとも半分は冗談だよね、って感じる。
「まぁ、こうしてセンパイが一緒にいてくれるのは嬉しいですけど、地元のほうは本当によかったんですか?」
「うん、さっきも言ったけど大丈夫だよ。今年は特に、もうすぐ帰る機会あるし」
「そうなんですか?」
「うん、今年は成人式あるから」
 はやいもので今年はそういうことなの…この町の式に出てもいいんだけど、こういうのはやっぱり地元のに出たほうがいいかなって。
「…センパイ、もう二十歳だったんですか。全然見えないです」
「うぅ、どうせ私は子供っぽいよ…ぶぅぶぅ」
 ちょっと怒って見せるけど、でも私自身にもそういう自覚はあんまりなかったりするんだよね。
「いえいえ、センパイは大人っぽいと思いますよ? 黙っていれば」
「うぅ〜…ぶぅ」
 ちょっとむくれちゃうけど、こういうところが子供っぽいのかなぁ…。
「…いつかは、里緒菜ちゃんを私の地元に連れてきたいなぁ」
 と、ちょっと気持ちが落ち着いたところでそんなことをつぶやいちゃう。
「センパイの地元って遠いんですか?」
「まぁそこそこ、かな?」
「えぇ〜…めんどくさいですね。別に無理して行く必要はないと思うんですけど」
「ううん、いつかは絶対連れてきたいな。で、ちゃんと両親に紹介しないと」
「両親に、って…あぁ、そういうことですか…」
 彼女にも私が何を言いたいのか解ったみたい。
「うん、だからいずれは里緒菜ちゃんのご両親にも、ね」
 今はまだ里緒菜ちゃんも高校生だし、そこまでするのははやいよね…彼女が卒業するまで待とう。
「…えぇ〜、別にそんなことわざわざしなくってもいいと思うんですけど。このまま普通に付き合っていくだけじゃダメなんですか?」
「う〜ん、やっぱりめんどくさく感じられちゃった? それとも、いきなり親に挨拶とか重かったかな?」
 何だか私の中ではもうずいぶん長い間里緒菜ちゃんと一緒にいるみたいな感覚があるんだけど、実際にはまだ出会って一年、恋人になって半年もたってないから気がはやすぎって思われても仕方ないかも。
「それもありますけど…私たちの関係、認めてもらえるんでしょうか。めんどくさいことになりそうな気がします」
 …あぁ、そっか、それは彼女の言うとおりかもしれない。
 私たち、それに夏梛ちゃんとい麻美ちゃんっていったまわりの子も普通に付き合ったりしてるから忘れがちだけど、私たちの関係って世間から見ると特殊なものなんだよね…。
「すみれに変な虫がつかない様に周りに関係をはっきりさせておく、というのも悪くないんですけど、とにかく親類に関係を認めてもらってももらわなくっても私とすみれとの関係は変わらないんですから、そんなめんどくさいことはやめておきませんか?」
「う〜ん、ずっと黙ってるのは気が引けるけど…とりあえずは、今のままでいいのかも」
 私たちの関係は今の彼女が言ったとおりだし、両親への紹介とかは彼女がそういう気になったときでいい、かな。
「やっと解ってくれましたか…全く、すみれはめんどくさい女ですね」
「えぇ〜っ、そうかなぁ?」
 ちょっと不満げな声を上げちゃう…けど、その後すぐ笑っちゃった。
「…何がおかしいんですか?」
「ううん、何でもないよ」
 ちょっと、昔のこと思い出しちゃった…あれはまだ私たちが出会って間もない、春の日のこと。
 あの日も公園で里緒菜ちゃんのこと膝枕してあげたよね…それで、あの子は自分のことをめんどくさい女だなんて言ってて…。
 あの頃は、まさか里緒菜ちゃんとこんな関係になるなんて思いもしなかったなぁ…。
「ふふっ、お互いにめんどくさい女なのかもね…里緒菜ちゃんと同じなら、それでも別にいいかも」
「意味が解らないんですけど…ふぁぁ」
 あの子はすっかりうとうとしてて、あくびをすると目を閉じちゃう。
 そういえば、夏祭りの日もこうやってこの砂浜で里緒菜ちゃんが眠っちゃったっけ。
 何だか色々懐かしくなってきたけど、でも今もこうしてこの子と一緒にいられて、そしてきっと…。
「…今年も、それにこれからもずっとよろしくね、里緒菜ちゃん」
 穏やかな寝息をたてはじめた彼女のことをやさしくなでながら、そんな声をかけるの。


    (第4章・完/第5章へ)

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