きた道を社殿からちょっと戻ってきた私たち、おみくじを引いてみたりして。
「わぁ、里緒菜ちゃんは大吉かぁ…うんうん、よかったねっ」
「いえ、センパイがそんな嬉しそうにしても…まぁ、いいんですけど」
 ちなみに、私は吉だったから、彼女ほどじゃないにしてもいい感じ。
 じゃあ、これを近くにある木の枝にくくりつけて…と。
「あっ、すみれさん、あけましておめでとうございます。いらしてくださったのですね…ありがとうございます」
 ちょうどそのタイミングで声がかかってきたものだからそっちへ目を向けてみると、そこには見知った人の姿。
「うん、あけましておめでとっ、竜さん。お仕事もお疲れさま」
「いえ、このくらいのお務め、当然のことですし苦ではありません」
 そう言って微笑むのは西條竜さん…服装から解るとおり、この神社で巫女さんしてる。
「ほらほら、里緒菜ちゃんも挨拶して」
「はぁ…その、あけましておめでとうございます」
「ええ、あけましておめでとうございます…やっぱりお正月もお二人はご一緒なのですね。幸せそうなお二人の姿を見ることができて嬉しいです」
 竜さんとはこの町へきてすぐに知り合ったくらいだから、付き合いは里緒菜ちゃんより長くなる…そんな彼女にももちろん里緒菜ちゃんのことは紹介してある。
「もう、そんな二人って私たちだけじゃないって思うけど…そだ、例えば私たちの事務所にいる他の人には会いませんでした?」
 この神社、夏休みの際に事務所に所属する歌い手さんでミニライブをさせてもらったりと、こことうちの事務所とは結構繋がりがあって、だから竜さんも他のみんなのこと結構知ってる。
「そうですね…まだどなたも見かけていませんけれど、夏梛さんと麻美さんは多分こちらへはこないかと思います」
「…へ、どうして?」
 あの二人も年末年始は特にお仕事入ってなかったはずだし、そう言い切ることはできない気がするんだけど。
「ええ、きっと麻美さんの地元にある神社へ初詣されると思いますから。あのお二人でしたらなおさらです」
 そっか、地元に帰ってるならそうなって当然…なんだけど。
「なおさらって、どうして?」
「ええ、麻美さんの地元にある神社は、いわゆる百合な関係のかたにとっても御利益がありますから」
「…え?」
 とっても意外な言葉に私と里緒菜ちゃん、一緒にそんな声あげちゃった。
 いや、竜さんの口から百合って単語が出てきたことも驚きなんだけど、その内容はもっと…。
「え、え〜と、そんな御利益があるなんて…間違いないの?」「…まぁ、ちょっと信じられませんよね」
「もちろんです。それに、その神社は私のもっとも尊敬するかたが奉職されていらっしゃいますし、私も時間があればぜひ訪れたいです」
 う〜ん、真面目な竜さんがこうも断言するっていうことは間違いないんだろうなぁ。
 竜さんのもっとも尊敬する人、っていうのも気になるけど…。
「あっ、ごめんなさい。そろそろ仕事に戻らないと」
「あ、ううん、そんな、こっちこそ、忙しいのに話し込んだりしてごめんね」
 その話はまたいずれ聞けたらいいかな。
「それでは失礼します。あちらに甘酒などもありますし、身体をあたためていってください」
 竜さんは一礼してお仕事へ戻っていった。
 こんな時間からしっかりお仕事しててえらいよね…うんうん、今年の私ももっと頑張らなきゃ、って気持ちにさせられる。
 それはそれでいいんだけど…さっきの竜さんの話、やっぱり気になるよね。
「ねっ、里緒菜ちゃん、これから…」
「…言っておきますけど、さっきの話に出てきた神社になんて行きませんよ?」
 私が全部を言い終えないうちに彼女はちょっと冷ややかな視線を向けてそう返してきた。
「わっ、よく私の言いたいこと解ったね…」
「やっぱりそうだったんですか…こう見えてもすみれとは付き合っていますし、残念ですけど解ってしまいます。それに、すみれも私と付き合っているのならどういう返事がくるのか解ってるんじゃないですか?」
 まぁ、私も断られるって解ってて言ってみたし、お互いの気持ちを解り合えてるっていうのはいいことかな。
「でもでも、夏梛ちゃんと麻美ちゃんは行ってるっぽいよ?」
「それは麻美さんの地元だから、じゃないですか…私やすみれにとっては関係ありません」
「うぅ〜、でも、あの町にある私立明翠女学園であった学園祭には一緒に行ってくれたのに〜」
「あれはたまたま気が向いたからで…今は絶対気が向きません」
「う〜ん、そっか…」
 さっき里緒菜ちゃんにあんまり無理させちゃいけない、って思ったばかりだものね…こんな深夜に初詣へきて、さらに遠出させるわけにはいかないか。
 私がその神社に行きたい、って言おうとしたのもあの子があんな反応してくるよね、って解った上での冗談みたいなものだったし…。
「それに、私たちの関係はそんな神頼みしなくっても大丈夫ですし。そうですよね?」
「…うん、うんうん、そうだね、里緒菜ちゃんっ」
 それに、彼女が私たちの関係についてそうやって強く言ってくれるのがやっぱりとっても嬉しくって、笑顔でうなずき返すの。


次のページへ…

ページ→1/2/3/4/5

物語topへ戻る