「里緒菜ちゃんは何をお願いしたの?」
 お参りを終えて、列から抜けて手を繋ぎなおしながらそんなことをたずねてみる。
「さぁ、何でしょう? 当ててみたらどうですか?」
 と、ちょっと意地悪っぽくそんなこと言われちゃった。
「う〜ん、何だろ…お仕事がうまくいきますようにとか、そんなこと?」
「それは実力で何とかしないといけないことですね」
 わっ、里緒菜ちゃん、そう考えるんだ…えらいなぁ。
「じゃあ、学校のこととか?」
「そんなどうでもいいことお願いするために何時間も並ぶとか、あり得ません」
 どうでもいい、って…う〜ん、里緒菜ちゃんにはもう少し学校生活を楽しんでもらいたいんだけど。
「じゃあ…う〜ん、何だろ」
「センパイ、本当に解らないんですか? じゃあ、センパイは何をお願いしたんです?」
「うん、私は…」
 答えかけて、彼女も私と同じ様に私のこと想ってくれてるよね、って今更なことに気づく。
「…あっ、もしかして、私のこと?」
「もちろんそういうことです」
 そっか、私のことお願いしてくれたんだ…とっても嬉しいっ。
「でも、センパイとずっと一緒にいられますようにとか、幸せでいられますようにとか、そんなありきたりなことは願ってませんよ? そんなの、願わなくっても当たり前にできることですし」
 しかも、そんなことまで言ってくれて…。
「うんうん、そうだねっ」
 嬉しいって気持ちが抑えきれなくなって、あの子の腕にぎゅってしがみつく。
「もう、すみれったら、しょうがないんですから…」
 一方のあの子もちょっと嬉しそうに微笑んでくれた。
「でも、それ以外で私のこと、っていうとどんなことお願いしたの?」
「それは、秘密です」
 と、今度は悪戯っぽく微笑まれちゃう。
「えぇ〜っ、教えてくれたっていいのに…ぶぅぶぅ」
「まぁ、こういうのは口にすると叶わなくなる、ともいいますしご想像にお任せします」
「う〜ん、それならしょうがないかな」
 あんなこと言って微笑むあの子がかわいすぎ、ってこともあってそれ以上聞くのはやめておくことにする。
 私のことをあの子が願ってくれた、それだけで十分すぎるよね。
「じゃ、お参りも終わりましたし、帰りましょうか」
「もう、そんな急いで帰ろうとしなくっても…おみくじ引いたりしてこうよ」
「めんどくさいですね…でも、まぁいいですよ」
「わっ、ほんとに?」
 あの子にしてはあっさり納得してくれたものだから、ついそう聞き返しちゃった。
「まぁ、帰るにもそこそこ歩かないといけませんし、疲れますからね…少し休んでいきましょう」
 私は全然疲れてないんだけど、私と里緒菜ちゃんとじゃ体力が全然違うものね…。
 そういえば、はじめて出会った頃はよく彼女が疲れちゃってて、私がおぶってあげたりしたこともあったっけ。
「うん、そうだね…でも、大丈夫? 歩くのもしんどかったりしたら、遠慮なく言ってね?」
 最近、私のペースで彼女を動き回らせちゃってたかも…うぅ、反省するのが遅いけど、とにかく気をつけなきゃ。
「まぁ、さっきちょっと寝ましたし、大丈夫ですよ?」
「うん、ならいいんだけど…」
 でも、こうして私が一緒にいる以上、私がしっかりと気をつけてあげなきゃだけど、もっとちゃんと力になってあげられないかな…。
「…う〜ん、車か何かの免許でも取ったほうがいいのかな」
「…ずいぶん唐突ですね。どうしたんですか?」
 ふと思ったことをそのまま口にしちゃって、首を傾げられちゃった。
「いや、私が車とか運転できたら里緒菜ちゃんに楽させてあげられるのにな、って」
「私に楽を…ふふっ」
「…って、何でそこで笑っちゃうの?」
 意外な反応されて今度はこっちが首をかしげちゃう。
「いえ、私を散歩に誘ったりしてどっちかっていうと身体を動かさせようとしていたセンパイが逆のことを言ってきたりして、それが何だかおかしく感じられちゃって」
「あぁ、そういうこと…確かに私は里緒菜ちゃんにもうちょっと外に出てもらいたいとか、身体を動かしたほうがいいんじゃないかな、って思ったりもしてるけど、でも無理はしてもらいたくないから」
 うん、それで里緒菜ちゃんが身体を壊したりしちゃったら、元も子もないものね。
「だから、車とかあったほうがいいのかな〜、って」
「私のこと想ってそんなこと考えてくれるなんて嬉しいですし、ありがとうございます。でも…」
 と、そこまで言った里緒菜ちゃん、私へ身を寄せてくる?
「この今のすみれとの距離感とか、あんまり急かさないならこうして一緒に歩くのとか好きですし、別にそんなことしなくってもいいですよ?」
「ほんとに?」
 車とかってお金かかるし、そのあたりのこと気遣ってあんなこと言ってくれてるんじゃ、って思っちゃう。
「はい…こんなことで嘘つくとか思ってるんですか?」
「う〜ん…ううん、そんなことないよ。じゃ、とりあえずは考えないでおくことにするね…ありがと、里緒菜ちゃん」
 そうだよね、あの子のこと、ちゃんと信じてあげなきゃ…さっきの言葉通りでも気遣ってくれているにしても、嬉しいことは間違いないし。
「いえいえ、車なんてあったら無駄に遠出に連れて行かれそうでめんどくさいですし。歩いていける範囲くらいでちょうどいいですよね」
 あれっ、もしかしてそれが本音だったり…う〜ん、まぁいいか。


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