「うん、食器の準備はこんなとこかな?」
 食材のお買い物を終えて帰ってきて。
 里緒菜ちゃんがさっそくお料理をはじめる一方で、私はそれ以外のことってことでまずはテーブルに食器を並べた。
 一人暮らしだから食器ももちろん一人分しかなかったんだけど、あの子がお泊りとかきてくれる様になってからは、ちゃんとあの子の分の食器、それに歯ブラシとかも用意したの。
 彼女は歯みがきも面倒だなんて言っちゃうけど、歯もとってもきれいだからこれから先も維持してもらいたいよね。
「里緒菜ちゃん、こっちは終わったから何かお手伝いしよっか?」
「いえ、別にいいです」
 キッチンでお料理してるあの子のところへ行くけど、あっさりそう言われちゃった。
「えぇ〜、そんなぁ…どうして? 私もお料理全然できないってわけじゃないし、お手伝いくらいなら…」
「どうしても何も、このキッチンで二人でお料理するのは、かえってめんどくさいことになりそうですから」
「あぅ…そ、それはそうかも」
 うちのキッチンは狭いもんね…二人いると動きが取りづらかったり、スペースがなくって結局何もできなかったりしそう。
「解ってくださったのなら、センパイはのんびりだらだらしてくれていていいですよ?」
「…あぅ、里緒菜ちゃんが頑張ってるのに私がそんなふうにしてるなんて、申し訳ないよ」
「別に気にしなくっても大丈夫ですよ? 私の手料理を楽しみに待っててくれる、っていうのもなかなかいいシチュエーションですし」
「もう、里緒菜ちゃんったら…」
 あの子があそこまで言ってくれてるんだから、無理にお手伝いすることはないかな。
 だから、この場はお言葉に甘えさせてもらうことにした…けど。
「…センパイ、そんなところで何してるんですか?」
「うん、お料理してる里緒菜ちゃんのこと見守ってるの」
 そう、私、キッチンの端に椅子を持ってきて、そこに座って彼女のこと見てることにしたの。
 あの子がお料理してるとこ、実はあんまり見たことなかったんだよね…作ってくれるときも、私がアルバイト行ったりしてる間に、っていうのがほとんどだったから。
 うんうん、だからこれって結構いい機会だよねっ。
「そうですか、エプロン姿の私を堪能したいだなんて、センパイって意外と変態ですね」
「…って、わっ、もう、何言ってるのっ?」
 確かにそういう面もないことないけど…ぶぅ!
「全く…そんなことしたりしているから、夏梛さんみたいなバカップルにバカップルだなんて言われるんです」
「あぅ、そうなのかな…じゃあ、見てちゃダメ?」
「…まぁ、センパイが他に何もすることなくってどうしても、っていうんでしたら、止めはしませんよ?」
「そっか、よかった…じゃ、このまま見学させてもらうねっ」
「…ふふっ、やっぱりすみれはかわいいんですから」
 わっ、もう、今のやり取りのどこをどう取ったらそんな風に感じちゃうんだろ…ぶぅぶぅ!

 バカップルがするみたいなこと、って言われても、やっぱり里緒菜ちゃんがお料理を作ってるとこをはじめてじっくりと見られたのはとっても嬉しくって。
 できあがったお料理もとってもおいしそうで、思わずおなかが鳴っちゃった。
「しょうがないですね、センパイは…じゃあ、私が食べさせてあげましょうか」
 お料理をテーブルの上へ並べ終えて、あの子はそんなこと言いながら私のすぐ隣へ腰掛ける。
「わっ、うん、ありがと。じゃあ、いただきます」
 いつかこういうことしたいな、って考えてたのは確かだから、お言葉に甘えさせてもらっちゃう。
「いただきます…と、ではどうぞ。あ〜ん?」
「あ〜ん…んっ、もぐもぐ…」
 あの子が差し出してくれたお料理を一口…。
「…ん〜、やっぱりとってもおいしいっ。里緒菜ちゃん、ありがとっ」
「一口食べただけなのに、気がはやいですね…ほら、もっと食べていいんですよ?」
「うん、ありがと…って、待って待って。里緒菜ちゃんも食べなきゃだし、今度は私が食べさせてあげるねっ」
「まぁ、センパイがそう言うのなら…」
「うん、じゃあはいっ、里緒菜ちゃん…あ〜ん?」
 今度は私からお料理を差し出して、彼女がそれを一口。
「…里緒菜ちゃん、どう?」
「どう、って…まぁ、自分で言うのも何ですけど、おいしくできてますね」
「うんうん、そうだよねっ」
 いつもとってもおいしいんだけど、今日はあの子もさらに力を入れてる感じしたし、それにこうして食べさせあってるからよりそう感じられる。
「では、次はセンパイがどうぞ…あ〜ん?」
「あ〜ん…ぱくっ、もぐもぐ」
 う〜ん、とっても幸せを感じちゃう。
「…やっぱり自分で食べましょうか」
 なのに、しばらく食べさせあってたら、あの子はそう言ってテーブルの向かい側に移動しちゃった。
「わっ、どうして? やっぱりバカップルっぽいって感じちゃった?」
「まぁ、それもありますけど…それ以前に、普通にめんどくさいです」
「…あぁ〜、それは否定しないかも」
 一口ずつ食べさせあってるんだから、当然時間もそれなりにかかっちゃう。
「世の中のバカップルって、本当にこんなめんどくさいことしているんですかね…とにかく、そういうことですから普通に食べましょう」
「まぁ、そうだね…あんまりゆっくりしすぎてもお料理冷めちゃうし、そうしよっか」
 ちょっと残念…だけど、せっかく里緒菜ちゃんが作ってくれたお料理、あったかいうちに食べておきたい。
 ああやって食べさせたりするのは…あんまりそういう機会はないほうがいいわけだけど、看病のときとか、にかな。


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