ちょっと意外な出会いがあったケーキ屋さんを後にして、再び駅へ…ケーキが崩れたりしない様に気をつけながら、電車であの町へ。
「ただいま、里緒菜ちゃんっ」
 町に着いたらまっすぐ家に帰って、そこで待っててくれた子に声をかける。
「おかえりなさい、センパイ…でも、ちょっと遅すぎじゃありませんか?」
 そこで待っててくれたのは、もちろん里緒菜ちゃん…彼女にはこの部屋の合鍵を渡してあるから、自由に出入りできるの。
 ただ、その彼女はちょっと不満げな視線をこっちに向けてきちゃってる…。
「あぅ、ご、ごめんね? その代わりおいしいケーキ買ってきたから、それで許して、ね?」
 もう夕方近くになっちゃってるし、確かに待つ身としたら長すぎ、かもだよね…。
「ケーキ…本当においしいんですか?」
「うん、美亜さんがお勧めしてくれたものだから、きっとおいしいと思うよ」
 部屋に上がって、そのケーキの入った箱をテーブルの上に置く。
「え〜と、それ、わざわざ私立明翠女学園のある町にまで買いにいったんですよね…そこまでするほどおいしいものなんでしたら、まぁ許してあげます」
 里緒菜ちゃんはそんなこと言いながらベッドから立ち上がる。
 私が帰ってくるまでかなりくつろいでたみたいだけど、もちろん問題ないし、ここで待っててくれたってこと自体がとっても嬉しい。
「とにかく、お仕事お疲れさまでした。無事に戻ってきてくれて、嬉しいですよ?」
 微笑みながらそう言って、私へ歩み寄る里緒菜ちゃん…そのまま口づけしてきたの。
「わっ、里緒菜、ちゃん…」
「おかえりなさいとお仕事お疲れさまでした、のキスです」
 彼女はそう言って悪戯っぽく微笑んできて…うぅ、どきどきしてきちゃう。
「も、もう、そんなこと言って、私があっち行ってる間、里緒菜ちゃんもお仕事とか学校、あったでしょ?」
「そうですね…じゃあ、すみれからもお疲れさまのキス、してくれますか?」
 いつものクールな表情で見つめられてそんなこと言われちゃう。
「うぅ、もう、しょうがないなぁ…」
 そんな彼女のお願いを断ることなんてもちろんできなくって、軽く口づけをしてあげる。
「ん…ありがとうございます。とはいっても、仕事も微々たるもので、学校も学期末でしたから特に疲れることなんてなかったんですけどね」
「わっ、何だかだまされた気分…ぶぅぶぅ!」
 また悪戯っぽく微笑む彼女に私は怒った素振りを見せるけど、実際はもちろん全然怒ってない。
 里緒菜ちゃんがお仕事と学校を両立して大変なのは事実だし、それに…口づけすると、数日離れ離れになってたさみしさも全部埋まっちゃったもん。
「ふふっ、すみれは相変わらずかわいいですね…そんなすみれを見ていると、数日会えなかったこととかどうでもよくなってきちゃいます」
 ぶぅ、私はかわいくないのに…でも、里緒菜ちゃんも私と似たこと感じてくれたんだ、って思うと嬉しくって言葉を飲み込む。
「それで、今日はこれからどうします? ケーキは用意してもらいましたけど…」
「さすがにそれだけじゃ、だよね…どうしよ、どこか外に食べに行く?」
 クリスマスで二人一緒だし、贅沢してもいいよね…って、こういうときって年上の私がどっかいいお店を予約しておいたりするものだったのかも。
 うぅ、私ってちょっと計画性ない…自分で自分が情けなくなっちゃう。
「う〜ん、そうですね…じゃ、スーパーにでも行きましょうか」
「…へ? スーパーって…」
「ここに食材が全然ありませんから、それを買いにいきましょう、っていうことです」
 そりゃ確かに、ただでさえ自分じゃあんまり料理しない上にさっきまで数日留守にしてたから何もないのも当然なわけだけど…。
「それってもしかして、里緒菜ちゃんが夕ごはん作ってくれる、ってこと?」
「まぁ、一応…もちろん、センパイが外食のほうがいい、って言うならそれでいいですけど」
「もう、そんな、里緒菜ちゃんの手料理が食べられるならそれが一番いいよっ。私、里緒菜ちゃんの手料理大好きだもんっ」
「そ、そうですか…」
 少し赤くなっちゃう里緒菜ちゃんの気持ちはとっても嬉しいし、私の気持ちも口にした通りだからもちろん異論なくそうしたいところ…なんだけど。
「でも、今からお買い物してお料理するって結構大変だって思うんだけど、本当にいいの?」
 そう、せっかくのこういう日なのに、彼女に負担かけちゃうのは嫌だよね。
「まぁ、めんどくさいのは事実ですけど、センパイが帰ってくるまで存分にだらだらしましたからいいんですよ」
「そ、そうなんだ…」
「それに、お買い物だって、センパイが荷物持ちしてくれますからそんなに大変じゃないですし…して、くれますよね?」
 じぃ〜っと見つめてきたりして、どうやら本気で言ってくれてるみたい。
「うん、そんなのもちろんだよっ。里緒菜ちゃんがお料理作ってくれるのに私が何もしない、っていうのは嫌だし、私にできることがあったら何でも言ってねっ」
 うんうん、恋人なんだし、お互いに支えあわないと、ねっ。


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