里緒菜ちゃんにちゃんと約束取ったってことで、まずは一安心。
あとはプレゼントを用意するだけなんだけど、毎日どうしようか考えてたらいつの間にかあと数日で当日、って状態になっちゃってた。
やっぱり私に手作りは難しいから何か買おう、ってことで今日は絶対に用意しようと少なからぬお金も持ってお出かけ。
お昼前、ってことであの子は学校あるからうっかり会っちゃう心配もないし、のんびり商店街を歩いて考える。
「あの子の好きなものっていったら…」
まず思い浮かぶものは…と考えると、ちょうど通りかかったペットショップへ目が向く。
そこのお店ではときどき梓センパイが猫のこと見てる、っていう微笑ましい光景が見られるんだけど、さすがに今はいないか。
「…あれあれっ、そこにいるのってすみれセンパイです？ こんにちは」
と、梓センパイはいなかったけど、同じ事務所の子の声が届いたものだからそっち見てみる。
「あっ、夏梛ちゃん…うん、こんにちはっ。これあげるねっ」
「えとえと、チョコバーですか…ありがとうございます」
私の差し出すチョコバーを受け取るのは、今日もゴシック・ロリータな服がよく似合ってる夏梛ちゃん。
「すみれセンパイ、こんなところで何して何して…あ、ペットを飼うんです？」
夏梛ちゃんも私の見てたほうへ目を向けてそうたずねてくる。
「あっ、ううん、そういうわけじゃないよ。私の住んでるアパートはペット禁止だし、それに飼うとしてもペットショップで買って、っていうのは気が進まないなぁ」
「そうなんです？ それならどうしたんです？」
「うん、里緒菜ちゃんへのプレゼント考えてて」
「あぁ、ですからですからお一人だったんですね。でもでも、里緒菜さんへのプレゼントをペットショップ見ながら見ながら考えていた、ってことは…」
あれっ、夏梛ちゃんの表情が険しくなってきちゃった。
「夏梛ちゃん、どうしたの？」
「…すみれセンパイはやっぱりやっぱり里緒菜さんの肩を持つんです？」
えっと、どういうことだろ…って首をかしげそうになるけど、すぐに思い当たった。
「もう、犬も猫もどっちもかわいいんだから、そんなことで対立しなくってもいいのに」
「もうもう、そんなことで、じゃありません。とってもとっても大事なことですっ」
強めの口調でそんなこと言う夏梛ちゃんは大の猫好き、そして里緒菜ちゃんは犬好き。
そんな二人はその好みを巡って言い合いになっちゃうこともある…あの里緒菜ちゃんがちょっと熱くなったりして微笑ましくもあるんだけどね。
「それでそれで、すみれセンパイは猫派なんです？ それとも、やっぱりやっぱりもう里緒菜さんに篭絡篭絡されて…」
「まぁまぁ、夏梛ちゃん、落ち着いて？ どっちにしても里緒菜ちゃんは学生寮に住んでるから、動物をプレゼントすることはできないし」
「そうなんです？」
私は夏梛ちゃんと言い合う気はないからうんうんとうなずいて誤魔化しておくけど、これ、麻美ちゃんはどうなってるんだろ…この間はどちら派でもなかったけど、今はもう夏梛ちゃんと同じになってるのかも。
「ではでは、もしかして里緒菜さんへのプレゼント、まだ決まって決まってないんです？」
「まぁ、そうなるかな…と、そういう夏梛ちゃんは今日はどうしたの？ 一人みたいだけど」
「はい、私は麻美へのプレゼントを用意用意してきたところです」
そういえば、この間はプレゼントについて一人で考えてた麻美ちゃんに会ったっけ…夏梛ちゃんはもう用意した後みたいだけど。
「そうなんだ、何を用意したの？」
「はい、麻美が手作りでおよーふく用意してくれてますから私も何か何か手作りにしようとも思ったんですけど、それはちょっとちょっと難しかったですから…これにしました」
あっ、麻美ちゃん、内緒で作ってたはずなのにばれちゃったんだ…。
それはともかく、夏梛ちゃんが取り出したのは、きれいにラッピングされた小さな箱…さすがに中を見ることはできないね。
「それって？」
「えとえと、指輪です…麻美とのペアリングで…」
「なるほど、お揃いの指輪か…いいね、そういうのって」
ちょっと恥ずかしそうに答えてくれる彼女に私はうんうんとうなずく。
お揃いのものを身につけてると、今みたいに離れ離れになってるときもよりお互いを近くに感じられたりしていいかも…って、ん？
「それって…もしかして結婚指輪、ってこと？」
お揃いの指輪、ってことでそんなものが頭に浮かんだ。
「はわはわっ、そんなそんな、それはまだまだはやいはやいです…！」
「まだ、ってことはいずれはそうするつもり、ってことだよね？」
「そ、それはそれは…そのその、すみれセンパイはおかしいおかしいとか思わないんです？」
「…へ？ どうして…」
そう言いかけるけど…そうだよね、女の子同士での結婚だなんて一般常識じゃないことだろうし、夏梛ちゃんが不安になるのもしょうがないのかも。
このあたりのことは、かえって麻美ちゃんのほうが気にしたりしない様な感じがするかもだけど…とにかく。
「おかしいなんて、そんなことないよっ。私だって、里緒菜ちゃんと結婚したい、って思ってるし」
「そう、ですか…そう、そうですよね」
「うんうん、そうだよっ」
安心してもらおうと笑顔でうなずくと、夏梛ちゃんも笑顔になってくれた。
確かに色々難しかったり厳しいこともあるとは思うけど、夏梛ちゃんと麻美ちゃんなら乗り越えていけるはず…もちろん、私と里緒菜ちゃんだって。
「じゃあ、その指輪は婚約指輪ってとこだねっ」
「えとえと…そ、そうですね」
うんっ、夏梛ちゃんたちも、そして私たちも、こんなに強く想いあってるんだから、大丈夫…二人でいれば何だって乗り越えていけるね。
(第２章・完/第３章へ)
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