「ついに終わっちゃったね…里緒菜ちゃん、お疲れさま」
「はい…って、またチョコバーですか。とにかく、センパイこそお疲れさまでした」
 事務所の近くにあるスタジオでお仕事を終えて、そんな言葉を交わしながらもうすっかり真っ暗になってる外に出るんだけど…やっぱり感慨深いなぁ。
「これでついにあのアニメの収録もおしまいか…。うん、まずは無事に終わってよかった…サクサクサク」
 そう、ついさっきまで、私と里緒菜ちゃんが主役してるアニメの最終話の収録してて、それが全部終わったの。
「サクサク…ずいぶんとあの喫茶店のマスターが喜びそうな展開で終わりましたね。実は中の人もそんな関係、と知れたら…あ、でもこの間あんな同人誌送ってきた人もいましたっけ」
「は、はわわっ、あれは…!」
 思わず慌てちゃう私を見てあの子は少し笑って…とにかく、同人誌のことは置いておいて、あのアニメは相当、歴代の作品でも一、二といえるほど百合な感じで終わったの。
「それにしても、こうして全部収録が終わって、センパイはさみしいとか思ってるんじゃないですか?」
「えっ、それはもう、さみしいのは確かだけど…でも大丈夫だよ。まだラジオの収録はあるし、曲のほうもあるから…まだまだ一緒に頑張ろうねっ」
「はぁ、まぁ、ほどほどに」
「もうっ、もっと嬉しそうにすればいいのに…ぶぅぶぅ」
 怒った素振りは見せるけど、あの子も楽しみにしてるっていうのは自然に伝わってくるしお互いに軽口ってとこ。
「ね、里緒菜ちゃん、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」
 お仕事も一段落したってことで、あのことについて話すことにした。
「何です、別にそんな確認いりませんし、普通に聞いてください」
「ん、ありがと…えっと、今月の二十四日とか次の日とか、空いてる?」
「その次の日からはお仕事ありますけど、その日は今は特に何もないですね」
 学生な彼女は学校のあるときにはある程度お仕事が遠出とかにならない様に配慮してもらえてるんだけど、その分こういう長いお休みのときはそういうお仕事も多めになっちゃう。
「ん、よかった。それじゃ、その日は一緒に過ごさない? せっかくのクリスマスなんだし…」
「ん〜…どうしましょうか。クリスマスなんて興味ないですし、めんどくさいです」
「え…えぇ〜っ? そんなぁ…」
 クールな表情でかなり意外なお返事言われたものだから思わずそんな声上げちゃう。
 いや、里緒菜ちゃんならかなり意外、ってこともないのかもだし、それに恋人ができたから興味ある様になった私のほうがおかしいといえばそうなのかもだけど…。
「…なんて、冗談です。クリスマスに興味ないのは確かですけど、すみれと過ごす甘いひとときは興味津々ですよ?」
「わっ、り、里緒菜ちゃん…」
 あんなこと言われながら繋いでた手がぎゅっと腕組みにされちゃうものだからどきどきしてきちゃう。
「う、うぅ〜、もう、一緒にいてくれるなら、はじめっからそう答えてくれればいいのにっ。それをあんなふうにじらしたりして…ぶぅぶぅ!」
 どきどきを誤魔化す意味も込めて、軽い感じでそんなこと言ってみる。
「じらしたのはお互いさまじゃないですか。だから少し意地悪したくなったんです」
 悪戯っぽく微笑む彼女にまたどきってなるけど、私がじらした、って…あ。
「え〜と…もしかして、私が誘うの、待ってた?」
「もしかしなくっても、そうですよ?」
「あ、あわわ、遅くなってごめんねっ? プレゼント考えたりしてたら…あっ、う、ううん、何でもないけど、とにかくごめんっ」
 うぅ、思わずプレゼントのこと言いかけちゃったけど、とにかくさみしい思いとかさせちゃったと思うし、怒られてもしょうがない…。
「…ふふっ、やっぱりすみれはかわいいですね。私がそんなことで怒ったりするはずないのに」
「って、わっ、何言ってるのっ? 私はかわいくなんてないし…それに、怒ってないの?」
「それはもう、多少やきもきはしましたけど、すみれが私のこと大好き、ってことは解りきっていることでしたから」
「わっ、そ、そっか…」
 ああもはっきり言われると、ちょっと恥ずかしくなっちゃうかも。
「もしかして…すみれ、私のこと大好きじゃありませんでしたか?」
 ちょっと冷ややかな目を向けられちゃったけど、でも不安そうとかそんな感じはなくってあくまで軽口ってとこで、私の気持ちを信じてくれてるみたい。
「もう、そんなわけない…大好きに決まってるじゃない」
 そんな彼女を見てると恥ずかしさより嬉しさのほうがずっと大きくなってきて、私からもぎゅって腕を組み返しちゃう。
「もちろん里緒菜ちゃんも私のこと大好きだって解ってるし…一緒に過ごすクリスマス、楽しみだねっ」


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