そうそう、麻美ちゃんに言われるまですっかり忘れてたけど、もうすぐクリスマスだった。
 今までは特に意識してこなかったけど、今年は違う…里緒菜ちゃんと迎える、はじめてのクリスマス。
 その日は大好きな人と過ごす、っていうお約束みたいなものがあるし、もちろん里緒菜ちゃんもそう思ってるはず。
 で、その日を迎えるに当たって、私も麻美ちゃんと同じ悩み事を持たなきゃいけないみたい…そう、里緒菜ちゃんへのクリスマスプレゼントはどうしよう、ってこと。
 試験勉強へのご褒美ならチョコバーでよかったんだけど、さすがに何というかもっとしっかりしたものを用意しなきゃいけないよね。
 本人に何がほしいのか直接聞く、っていう手ももちろんあるんだけど、こういうのって当日に渡されるまで何がプレゼントされるか解らないっていうほうがいいと思うからそれはできない。
 きっと、麻美ちゃんもそれができなかったからあんなに悩んでたんだよね。
 その麻美ちゃんはどうやら何か手作りな、しかも結構大掛かりなものをプレゼントするみたいで夏梛ちゃんのいないときに事務所で作ってるの見たけど、私は手先が器用じゃないからなぁ…。
「あら、すみれちゃんは何を悩んでいるのかしら?」
 と、お客さんのいない状態な喫茶店内で考えてたら、美亜さんに声かけられちゃった。
「あっ、ううん、別に何でも…」
「あら、隠さなくってもいいのよ? 大好きな子へのクリスマスプレゼントはどうしよう、ってところでしょう?」
「…うっ、よ、よく解ったね」
「それはもう、この時期だもの…うふふっ」
 美亜さんはさすがというか、こういうことはとっても鋭いなぁ。
「この時期はとってもいいわね…すみれちゃんやアサミーナちゃんみたいな、はじめて恋人と迎えるクリスマスに想いを馳せる子のことを見てると、こちらも幸せな気持ちになるわ」
「そ、そうなんだ…あはは」
 そう言われると何かちょっと…いや、結構恥ずかしい。
「それに、片想いだったり告白できずにいる子を見てると、ますます応援したくなってきちゃう。みんなにはぜひ幸せなクリスマスを送ってもらいたいものよね」
「はぁ…それで、当の美亜さんはどう過ごすの?」
「そうね…少しでも長くみんなの幸せなところ見守りたいし、遅くまでお店開いていようかしら。でも、すみれちゃんはアルバイトしなくってもいいわよ?」
 う〜ん、美亜さんは相変わらずというか、自分自身には恋人を作ったりしようとかこれっぽっちも考えたりしないんだなぁ。
「私のことはどうでもいいの。問題はすみれちゃんね…プレゼントで悩むのも大切なことだけど、その前にしないといけないことはない?」
「…へ? しないといけないこと…う〜んと、何だろ?」
 あんなこと言われたものだから考えてみるんだけど、ちょっと解んない。
「すみれちゃん、そもそもお相手の子にクリスマスの約束、取っていないんじゃない?」
「…あ」
 言われてみると…実はそうだったりして。
「やっぱり…すみれちゃん、そういうところ少し抜けていたりするわよね。相手の子もきっと同じ思いだって思っているのでしょうけれど、それでもそういうことはしっかりしておかなくちゃダメよ?」
 全く美亜さんのいうとおりで反省…しっかりしなきゃ。

 そんな話を美亜さんとしてると、試験もちょうど先日終わった里緒菜ちゃんが喫茶店にきてくれる。
 今日はお仕事あるからアルバイトはそこで上がらせてもらって、彼女と一緒に事務所へ向かう。
「里緒菜ちゃん、試験の結果ってどうだった?」
「まぁ、特に可もなく不可もなく、問題はありませんでしたよ?」
 その道中にそんなことたずねてみたけど、あんなこと言ってる彼女、結果はかなり優秀。
「わぁ、お仕事も同時にしてるのに、やっぱり里緒菜ちゃんはすごいねっ」
「いえ、このくらい…まぁ、センパイと試験勉強したのも、ほんの少しだけ役に立っているかもしれませんね」
「ふふっ、そっか…じゃあこれ、試験頑張った里緒菜ちゃんにご褒美っ」
「何です、いつものチョコバーじゃないですか…もらっておきますけれども。これで心置きなく冬休みを迎えられます」
 チョコバー渡してあげる私なんだけど、さっき美亜さんに言われたことをたずねたりは、少なくとも今はしない。
「里緒菜ちゃん、安心するのはまだはやいよ? これから大仕事があるんだから」
 そう、ここからはちょっと気を引き締めなきゃだから、あのことをたずねるのはその後。


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