第二章
「はぁ…今回もこんなことさせるなんて、本当にめんどくさいですね…」
―今日はアパートで一人暮らししてる私の部屋に里緒菜ちゃんがきてくれてるんだけど、その彼女はため息ついちゃった。
「もう、そんなこと言って、しなくて困るのは里緒菜ちゃんなのに」
「いえ、別に私はしなくっても困りませんし…ってこれまでも散々言ってきたのに、センパイが困りものです」
またため息をついちゃうあの子と私との間にはテーブルがあり、その上には勉強道具。
「だって、そうはいっても心配なんだもん。里緒菜ちゃん、授業中に寝ちゃってるとか話してたことあったし…」
「大丈夫ですよ…この私が補習なんてめんどくさいこと、するわけないんですし」
う〜ん、里緒菜ちゃんはそういう面倒さを回避するために何でもそつなくこなしちゃうから、それはそうなんだろうけど…。
「でも、やっておくに越したことはないし…私が教えてあげるから、ね?」
「はぁ…しょうがないんですから」
そんな私たちが何してるのかっていえば、明日から里緒菜ちゃんの学校で二学期の期末試験があるからそれへ向けての試験勉強ってわけ。
彼女はそういうのしてこなかったっていうけど、ちょっと心配だから私が提案して今こうしてるの。
彼女もああは言ってるけど、勉強自体はきちんとしてくれてて、それに確かに彼女はかなり勉強できるから大丈夫に私も感じられるけど、まぁ前日くらいは、ね?
「それにしても…やっぱりセンパイって意外と頭もいいですよね」
と、解らないってとこを教えてあげたらそんなこと言われちゃった。
「わっ、うん、そんなことないって思うけど、ありがと…でも、意外とってどういう意味?」
「ほら、自分でも意外にって思ってるんじゃないですか」
「それはそうでも、他の人に言われるとちょっと複雑なんだよ…ぶぅ」
怒った素振りは見せるけど、お互いに笑いあっちゃう。
「センパイは明らかに体育会系の人に見えますから…といっても運動神経もいいですし、文武両道ですね。学生時代はさぞもてたんでしょうね」
あ、彼女の私を見る目がじと〜ってしたものになっちゃった。
「もう、そんなことないって…それを言うなら里緒菜ちゃんこそ。ファンの子もいっぱいいるんだし」
彼女はさらにお料理とかも上手で、それにこんな美少女なんだからもてたりするのもしょうがない。
うん、しょうがないんだから、胸が痛くなったりしちゃダメなんだから。
「…あれっ、私がやきもち妬く流れでしたのに、センパイが妬いちゃいました?」
「…へっ? そ、そんなことないよっ?」
「隠さなくってもいいんですよ? それに、ファンの子とかどうでもいいですし…私は、すみれ一筋ですよ?」
里緒菜ちゃん、雰囲気出てくると私のこと名前で呼んでくるんだよね…おかげでますますどきどきしちゃう。
「もう、ファンは大切にしなきゃ、って思うけど…でも、ありがと。私だって、里緒菜ちゃん一筋なんだから」
「知ってます…けど、ありがとうございます」
その彼女の微笑み、さっき見せてくれたもの以上にどきどきしてきちゃう。
「…センパイ、もう結構勉強したと思いますし、そろそろ休んでいいですか? 試験前日にあんまり頑張りすぎるのもいけないと思いますし」
だから、この空気であの子のお願いを断るなんて、とてもできないよね。
「うん、いいよ。それじゃ、チョコバーでも食べる?」
「それも悪くないんですけど、ちょっと横になりたいでしょうか」
と、里緒菜ちゃん、そんなこと言いながらも立ち上がっちゃう?
「あれっ、どうしたの? ベッド使う?」
「それもいいんですけど、そこにいい枕がありますからそれを使いたいでしょうか」
そんなこと言いながら注がれる彼女の視線はなぜか私へ…と、そういうことか。
「ん、いいよ。おいで、里緒菜ちゃん」
体勢を直した私のそばに彼女が座って、そのまま横になっちゃう。
「ふぅ…やっぱりこれが一番かもしれませんね」
「そう? ちょっと嬉しいかも」
つまり私が膝枕をしてあげてるわけで、今までもときどきこうしてあげてる。
横になった彼女のことをやさしくなでなでしてあげると、何だか私も心地よくなってくる。
試験勉強ももう十分な気もするし、今日はこのままのんびりしちゃってもいいかな…。
「試験が終わったら、もうすぐ冬休みだね。里緒菜ちゃんは何か予定とかあるの?」
「そう、ですね…センパイと…」
何気なくそうたずねたんだけど、あの子はそう言ったっきり何も言わなくなっちゃった。
よく見ると、穏やかな寝息立てて眠っちゃってたりして…。
「もう、しょうがないんだから…」
彼女の寝息を見るとますます心がほわんってなっちゃう…幸せだなぁ。
それに、彼女のさっきの言葉…最後まで聞くことはできなかったけど、私と一緒にいてくれるってことだよね。
ますます嬉しくなっちゃって、何か彼女のためにしてあげたいな、って気持ちになってくる…そうだ、試験勉強を頑張ったご褒美でも用意してあげようかな。
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