事務所の近所にあるファミレスにきて、もちろん私の隣に里緒菜ちゃん、向かい側に夏梛ちゃんと麻美ちゃんが座るかたちで席について、それぞれ注文。
「そういえば、さっきの話…麻美ちゃん、お料理上手なの?」
 ふと、歩いてたときの会話を思い出してそんなこと聞いてみる。
「あっ、いえ、そんな、一応できるというくらいで、普通くらいかと…」
「もうもう、麻美ったら謙遜謙遜しすぎです。麻美の作るお料理はとってもとってもおいしくって、レストランとかで出してもいいくらいです」
「わ…あ、ありがと、夏梛ちゃん」
 夏梛ちゃんのフォローに麻美ちゃんは恥ずかしそう、でも嬉しそう。
「あぅあぅ、えとえと、今のは…!」
 一方の夏梛ちゃんまで赤くなってあたふたしてるけど、夏梛ちゃんって麻美ちゃんに対して素直な気持ちを言うのを恥ずかしがってるみたいなの…そんなところも微笑ましい。
「そっか…うん、私もちょっと食べてみたいかも」
「…センパイがそうしたいなら、麻美さん、作ってあげたらどうですか?」
 あっ、里緒菜ちゃんの口調がちょっとかたくなっちゃった…やきもちやいたりして、かわいいんだから。
「ううん、やっぱりいいかな。私は、里緒菜ちゃんに作ってもらうのが一番嬉しいし」
「はぁ、しょうがないですね、面倒なんですけど…」
 私が微笑みかけると、あの子はちょっとだけ顔を赤くしちゃう。
「里緒菜さんもお料理できるんですか…意外意外かもです」
「そう? お嬢さまな麻美さんがお料理上手、っていうほうが意外な気がするけど」
「あの、ですから、私はそんな…」
 里緒菜ちゃんは面倒くさがりやさんだからああ思われるのかもだけど、とってもお料理上手。
 勉強とかもそうなんだけど、面倒なことにならないためにって何でもこなせる感じで、すごいよね。
「あっ、ちなみにセンパイは見た目どおり全然お料理できないから」
「わっ、里緒菜ちゃん、それはそのとおりなんだけどわざわざ言わなくっても…ぶぅ」
 そんなこと話してる間にお料理が運ばれてくるから、一旦会話は中断してお食事。
 でも、みんなちょっと少食気味なんだよね…軽食しかない美亜さんの喫茶店でも十分に事足りちゃったりするし。

「ところでところで、すみれセンパイたちって何か何かお話があるってことじゃありませんでした?」
 みんなお食事も終わって一息ついたところで夏梛ちゃんがそうたずねてきた。
「あっ、そうだった、危うく忘れちゃうところだったよ」
「もう、センパイ、しっかりしてくださいよね…」
 あぅ、里緒菜ちゃんに冷たい目を向けられちゃった…本当に気をつけなきゃ。
「えっと、夏梛ちゃんと麻美ちゃんがどうしてアイドル活動もしてるのかとか、そのあたりを聞かせてもらいたいな〜、って」
「えっ、どうしてそんなことを…?」
 ちょっと唐突ともいえると思う私の提案に麻美ちゃんは首をかしげる。
「…あっ、もしかしてもしかして、お二人も本格的にそういう活動をしようしようと思って、です?」
「うっ、さすが夏梛ちゃん、なかなか鋭いね」
「わぁ、わぁ、本当本当にそうだったんです? お二人でしたら絶対絶対に大丈夫だって思います」「うん、そうだよね、夏梛ちゃん…この間の学園祭ライブ、とっても素敵でしたから」
 もう、二人とも言いすぎじゃないかな…喫茶店のお客さんとかにも似たことは言われるけど、実際にアイドルとして活動してる二人に言われると恥ずかしい。
「ちょっと、早とちりしないで。まだそんなことするって決まったわけじゃないんだから」
「えっ、そう、そうなんです?」「では、一体どういう…」
 戸惑う二人に、私から事情を説明する。
 つまり、学園祭ライブは私たちも楽しかったし、さらに見てくれた子たちもずいぶん褒めてくれたりしたから、これからもユニット活動を、お仕事でもやってみていいかもしれない、って思ったりしてること。
 でも、私も里緒菜ちゃんも元は…ううん、今でも声優の活動の基本は声を当てることで表には出ないほうがいいって思ったりしてるし、それにユニットとしての活動もファンのためっていうより自分たちが楽しいからしてみていいかも、なんて考えでいること。
「そんな考えでユニット活動なんかしたら、同じことしてる他の子たちに失礼になったりしないかな、って思ったの」
「なるほどなるほどです、それでユニット活動してる私たちの意見を聞こう聞こうと思ったんですね」
 一連の流れを説明すると解ってくれたみたいで夏梛ちゃんがそう言ってくるからうなずき返す。
「まぁ、もちろん、仮にやる気が満々でも、そう簡単にやれる世界じゃないということは解ってるし、私は別にどっちでもいいんだけどね?」
「もう、それじゃまるで私だけがやりたいって思ってるみたいじゃない…ぶぅぶぅ」
 怒った素振りを見せながらも、やる気が満々な里緒菜ちゃん、っていうのを想像してちょっと笑いそうになる。
「どうしてセンパイが百面相してるのかは解りませんけど…とにかく、私なんてそんな適当な気持ちなわけ。それに対して、実際に活動してる二人はどんな気持ちでやってるのか、気になるわ」
「そうですね…私は、はじめはじめから声優にもアイドルにもなりたかったんです。歌ったり踊ったりするの、大好き大好きですから」
「そっか、じゃあ夏梛ちゃんはどっちの夢も叶えることができた、ってことだね」
「はい、ですからですから、活動しててもちろん自分も楽しい楽しいですし、見てくれる人にももっともっと楽しんでもらえる様に頑張らないと、って思って活動してます」
「なるほど…ありがと、夏梛ちゃん」
 昔からの夢や目標が叶ったんだから、それはもういくらでも頑張れるよね。
 対して、そこまでの思い入れなんてとてもない私たちがそこまでできるのか、そして失礼にならないのか…う〜ん。
「じゃ、麻美さんのほうはどうなの?」
「えっ、わ、私ですか? あ、あの、えっと…」
 里緒菜ちゃんは軽い感じでたずねたんだけど、それに対して麻美ちゃんは言葉を濁してうつむいちゃった?
 そういえば、この話題になってから麻美ちゃんがどんどん静かになってっいってた様な…。
「どうしたんです、麻美? 別に別に思ってることをそのままそのまま言えばいいんですよ?」
「そうそう、難しく考えることなんてないって」「まぁ、今更人見知り、ってこともないわよね」
「あ、あの、でも…」
 私たちが声をかけても、麻美ちゃんはとっても不安げに口ごもっちゃって、無理に聞き出すのは悪いかな、って感じる。
 うん、何か言いたくない事情があるんだろうし、ここは…。
「全く全く…ではでは、私が代わりに言って言ってあげます」
「えっ…か、夏梛、ちゃん?」
 聞くのをやめようかと思ったのに夏梛ちゃんがあんなこと言うものだから、私たちだけじゃなくって麻美ちゃんも戸惑って顔を上げる。
 夏梛ちゃん、麻美ちゃんからそういう話を聞いてたのか…でも、あそこまで言いにくそうにしてるものを、いくら恋人だからって他の人の口から言わせるのは…。
「あっ、ううん、夏梛ちゃん、そんなどうしても聞きたいってわけじゃないから、本人が言えないんなら…」
「いえいえ、いいんですいいんです。麻美がアイドルになったのは、私と一緒に一緒にお仕事したいって思ったから、っていうだけのことなんですから」
「…えっ? か、夏梛ちゃ…どうして、そのことを知って…」
 夏梛ちゃんの言葉に麻美ちゃんは絶句しちゃった。
「そんなのそんなの、麻美を見てたら解るに解るに決まってます。というより、私ははじめから気づいて気づいてましたよ?」
「はぅ、夏梛ちゃんはやっぱり何でもお見通しなんだね…」
 そっか、夏梛ちゃんは直接聞いてたわけじゃないんだ…好きな子のことは何でも解るなんて、素敵だね。
「で、でも、それなら…夏梛ちゃん、怒ってないの?」
 でも、当の麻美ちゃんはとっても不安げに夏梛ちゃんを見つめてる。
「怒るって、何に何に対してです?」
「だって、夏梛ちゃんはあんな真剣な気持ちでアイドルしてるのに、私はそんな理由で…そもそも、私がそんな理由で一緒にユニット組みたいって言ったのに気づいてたなら、どうしてそれにうなずいてくれたの?」
「そんなの…決まって決まってます。言わないと解らないんです?」
 あっ、夏梛ちゃん、顔を赤くしながらぷいってしちゃった…解りやすいなぁ。
「え、えっと、ご、ごめんね…? ちょっと、解らなくって…」
 でも、麻美ちゃんは気持ちに余裕がないからか気づかないみたい…。
「も、もうもう…わ、私も麻美と一緒に一緒にユニット活動したかったからですっ。それにそれに、理由はどうあれ、麻美はしっかりしっかり頑張って活動できてるんですから、それでいいじゃないですか」
「わ…夏梛、ちゃん…。うん…うんっ、ありがとっ」
「…むぎゅっ!」
 あっ、麻美ちゃん、感極まって涙目で夏梛ちゃんを抱きしめちゃった。
「…ちょっとは自重しなさいよね、このバカップルは」
「あ…その、ごめんなさい…」
 私はもうちょっとそのままにしてあげてもいいんじゃ、って思ったんだけど一応公共の場だものね……里緒菜ちゃんが冷ややかにああ言うのもしょうがないかも。
「えとえと…とにかく、とにかくです。まず自分たちが楽しく楽しく、っていうのは活動をする上で正しい正しいことだって思いますし、それにそれに私と麻美じゃ全然全然アイドルはじめた理由は違うかもしれませんけどどちらも今まで頑張ってこれてますし、ファンのかたに受け入れてもらえればそこまで深く深く考えなくってもいいと思いますよ?」
 まだ少し赤いながら改めてこちらを向いた夏梛ちゃんがそう話を締めくくったの。


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