序章

 ―どんな声優さんになりたい?
 その夢を目指しているときには、まずなることが目標だったから、それ以上のことは考えられなかった。
 でも、夢が叶って、そしてがむしゃらなままにはじめてのお仕事を終えたあたりで、そういうことについて考えはじめた。
 声優さん、と一言で言ってもそのお仕事内容は様々…歌ったり、あるいはアイドルっていっていい活動をしてる人もいる。
 色んな個性付けをしてる人も多いけど…そんな中にあって、私はあえて逆の道を歩んでみたいな、って思ったの。
 自分にイメージをつけないでどんな役でもこなして、そして極力自分の姿を表に出さない…本当に、声だけでお仕事してくってところ。
 別に他の人の活動がどうっていうわけじゃないんだけど、私は声優さんっていうのはそういうものなんじゃないかな、って考えてるから…できる限り、そうしていける様にしたいの。
 もちろん、私のわがままの部分もあるから、そこは頑張って実力をつけて、そういう考えが通る様にしなきゃいけない。

 そんな私にできた、声優としてのはじめての後輩さん、里緒菜ちゃんも私と同じ様な考えだったの。
「表に出るとか、そんなの面倒じゃないですか」
 面倒くさがりやさんなところのある彼女に言わせるとそういうわけ。
 ちなみに、里緒菜ちゃんの少し後輩さんになる夏梛ちゃんと麻美ちゃんはアイドルとしてもユニット組んで一緒に活動してて、しかも恋人同士。
 私と里緒菜ちゃんも恋人同士になったりしたんだけど、さすがにそういうユニット活動を一緒にするなんてことはないよね、って思ってた。
 私も彼女も、お仕事に対する考えはああなんだから、それも当たり前…なんだけど。
「…羨ましいなぁ」
 想いあう二人、夏梛ちゃんと麻美ちゃんがステージで心を一つにしてるのを見て、私はそう感じちゃった。
 その気持ちは、里緒菜ちゃんにも少なからずあったみたいで…。
「里緒菜ちゃん、お疲れさまっ。とっても楽しかったねっ」
 彼女の通う学校の講堂、その一角に用意された楽屋で、私は感極まって彼女に抱きついちゃった。
「わっ…もう、すみれったら。そうですね、私も…思ったより楽しかったです」
「うんうん、そっかそっか、よかった」
 微笑み合う私と彼女、ちょっと特別な…アイドルが着るみたいな衣装着てる。
 そう、あの二人が羨ましい、って感じちゃった私たち…里緒菜ちゃんの学校の学園祭でステージに立っちゃったの。
 私と彼女、心を一つにして歌ったり踊ったりして、とっても満足。
 でも、これはお仕事でしたわけじゃなくって、その学校の生徒である里緒菜ちゃんが生徒の出し物としてやったもの。
 だから、ちょっと名残惜しい気はするんだけど、私たちのユニットはこの一回のみ…でも、ずっと大切な想い出として、お互いの心の中に残っていくよね。


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