「う〜ん、何だか面倒なことになってきちゃいましたね…」
 お仕事も終えて、今日はあの子が私の部屋へお泊り…部屋で一息ついたところであの子がそんなこと言うの。
「でも、私たちの歌とかでああ言ってもらえるのは、ありがたいことだよ?」
「それはそうですけど…でもやっぱり面倒です」
 ベッドの端に腰掛けて大きく伸びをする彼女…私もその隣へ腰掛ける。
「こんなことになるんでしたら、あのときあんまりその気にならないほうがよかったでしょうか…」
「ん〜、でも、私はとっても楽しかったな。里緒菜ちゃんも、そうでしょ?」
 彼女のこと、やさしくなでなでしてあげる。
「まぁ、それはそうですけど…」
「ん、だから、歌の活動のほうは、私たちが楽しいって感じる限りで続けてみてもいいのかも」
「…お仕事に対して、そんな適当なことでいいんですか?」
「自分たちが楽しくないと、他のみんなを楽しませることなんてできないって思うよ? あ、もちろん声のお仕事が第一で、そっち優先で、ね?」
「…まぁ、考えてみますか。センパイと一緒にお仕事できる、っていうことにもなりますし」
 声のお仕事のほうは、あのアニメの収録もつい先日で終わっちゃった…でも、また共演の機会もあるかもだし、そういう日を迎えるためにも頑張らなきゃ、だねっ。
「あ…そういえば、実は事務所のほうに、私宛てにこんなものが届いていたんでしたっけ」
 ふと思い出したって様子で、あの子が持ってきた鞄から少し大きな封筒を取り出した。
「ファンの人が描いてくれたみたいなんですけど…センパイ、ちょっと見てみてもらえますか?」
「ファンから、って…私が見ていいの?」
 あの子はうなずくから、それを受け取って中を取り出してみると…一冊の本が出てきた。
 薄めのもので、これはいわゆる同人誌ってやつっぽいけど、表紙のイラストの二人、ずいぶん私たちに似てるかも。
 もしかして美紗さんのものみたいに私たちのこと描いてるとか…なんて思いながら中を見てみる、けど…!
「…わっ、わーっ! こここ、これって…!」
「どうやら私とすみれのこと、描いてくれたみたいですね?」
 平然とした様子の彼女に対して、私はあたふたが止まらない…だって!
「こっ、こんな過激なの、見ちゃダメだよっ! し、しかもこれ、私たちっぽいし…!」
 そう、これって私たちのこと描いた、しかも年齢制限つく様なものだったの…!
「そんな真っ赤になったりして、すみれったらかわいいんですから。それにいいじゃないですか、私たち実際にも…」
「わ〜っ、わ〜っ! とっ、ととととにかく、これは没収っ!」
 まだ十八歳に満たないあの子が手にしていいものじゃないし、そうじゃなくっても…うぅ〜っ、まさかこんなの描かれるなんて!
 しかもこれ描いた人、同封の手紙によるとweb上にあげられてたあのライブの動画観て、そこから私たちはこんな関係なんじゃ、ってことを想像した上で描いたらしいの。
 いつの間にかあのライブの動画がweb上にあげられててちょっと話題になったのは知ってたけど、あのライブで私たちは本当に歌って踊っただけで、何も会話とかしなかったのに…!
「私とすみれの関係は、動画越しでも見ればすぐ解る、ということでしょうか。ちょっと嬉しいかもしれませんね?」
「う、うぅ〜っ!」
 同人誌の内容とあわせて、私はものすごく恥ずかしくなっちゃったのに…ぶぅぶぅ!

 私と里緒菜ちゃんのこと書いた本、っていえば美亜さんから受け取ったもの、つまり妹の美紗さんが書いたものもあって、そっちは過激な描写とかなかったから、二人でそれを読んでみたの。
 挿絵も美紗さんが描いたみたいでかわいらしさが強調されてるけど上手なもの、でお話はノベルだね…私と里緒菜ちゃんとの出会いから、つい一ヶ月前のライブのことまで書かれてた。
「…この内容、どうやって調べたんだろ」
「不思議な人たちですよね、あの姉妹…」
 読み終わると、まずそんな感想が出てきちゃう。
 だって、多少の脚色はあったけど、基本的に今までのことかなり忠実に書かれてて、美亜さんに私たちのこと聞いたにしても当事者にしか解らないことが多すぎる気がした。
 本当、里緒菜ちゃんの言うとおり、色々不思議な姉妹だなぁ…。
「でも…これ読んでると、とっても懐かしくなってくるね」
「ふふっ、そうですね…」
 で、次第にそういう気持ちが強くなってきた…今までにあったこと、全部書かれてるんだもん。
 その彼女との想い出、全てがとっても愛おしく、心がとってもあったかくなってくる。
「これから先も、こうやって里緒菜ちゃんと色んな想い出作ってけるといいな」
 まずは彼女の冬休み、年末年始…クリスマスやお正月か。
「そうですね…でも、それは別にあえて意識する必要なんてないことだって思います」
 と、そんなこと言う彼女がゆっくり身を預けてきた。
「こうしてすみれと一緒にいるだけで、その一日一日が大切な想い出になっていくんですから」
「ん…そうだね、里緒菜ちゃん。これからも、一緒にいよっ」
 私からも彼女を抱き寄せて、ぎゅってする。
 あぁ、もう、本当にとっても愛しくってたまらない…この幸せ、これからも一緒に分かち合っていこうね。


    -fin-

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