終章

 ―私と里緒菜ちゃんが舞台上で共演した、彼女の通う学校の学園祭も終わって。
「あの日は、ほんとに楽しかったなぁ…」
 大好きなあの子と一緒に歌って、踊って…一体感が得られて、お互いとっても満足。
 今でも、こうして思い出すだけで幸せ…こんな素敵な想い出、これからも作っていきたいな。

 とっても楽しかった学園祭ライブから、もう一ヶ月。
 季節は巡り、すっかり寒さを覚える様になった十二月…あの日から、季節以外にも私の、そしてあの子の日常に変化があった。
「あら、すみれちゃん、いらっしゃい。待っていたわ」
 いつもどおりお昼には喫茶店に行ったけど、美亜さんが待ちきれないって様子で歩み寄ってきた。
「美紗ちゃんからこれが届いて…ぜひ、すみれちゃんに読んでもらいたいの」
 そうして美亜さんが差し出してきたのは、一冊の本。
「え〜と、これって…あれっ、美亜さんの妹さんが書いたの? しかも…私たちの話?」
「ええ、美紗ちゃんが貴女たちのことを想って書いたの。その一冊はあげるから、読んであげてね」
「は、はぁ、ありがとうございます」
 受け取った本はきれいな装丁だけど、私たちのことが書かれてる、って…少し恥ずかしいかも。
 あ、ちなみに美亜さんや妹さんも、あの学園祭ライブを見にきてくれたよ。

「いらっしゃいま…あ、里緒菜ちゃんっ」
 学校も放課後を迎えたっていう時間になって、あの子が喫茶店へきてくれた。
「あっ、センパイ、こんにちは…めっきり寒くなってきましたね」
「うん、そうだよね…さ、座って座って」
 お店の中へあの子を迎え入れる…と。
「里緒菜さま、待ってください〜」「私たちもご一緒させてください」
 あの子と同じ制服着た子たちが何人か入ってきて、同じ席についちゃう。
 里緒菜ちゃんはクールでかっこいいって元々人気ある子だったんだけど、あの学園祭ライブ以来それがさらに増して、ああやってファンの子が取り巻くくらいになっちゃった。
「先日のアニメも観させてもらいました」「とっても素敵で、どきどきしちゃいまいた」
 さらに、あれから程なくして私たちが声優してる、ってことも知られちゃって、里緒菜ちゃん人気にさらに拍車がかかっちゃった。
「ありがとうございます」
 里緒菜ちゃんも少し微笑んでお礼言ったりして…ぶぅ。
 あの子はとっても素敵だし、ああなるのは当然だって思うんだけど…何だろ、この複雑な気持ち。
「センパイ、切なそうにこっち見て…やきもちですか?」
「え…わっ、そ、そんなわけないよっ? 私は、里緒菜ちゃんはもっとみんなと仲良くしてほしい、って思ってたんだからっ」
「隠さなくってもいいんですよ…かわいいんですから」
「…あぅ」
 私の気持ち、やっぱりお見通しってことか…にしても、前は私がやきもちやかれてたのに、逆のことになっちゃうなんて…。
「大丈夫ですよ、里緒菜さまとすみれさまのご関係を邪魔するつもりはありませんから」「はい、その先日のアニメ、すみれさまも素敵でした」
「そ、そうかな…あ、ありがと」
「でも、お二人の次のライブはいつなのでしょう…そういえばCDもまだですし」「web上にもまだありませんし、いつ聴けるんですか?」
 そんなことをたずねられちゃって、私たちはお互い顔を見合わせちゃうのだった。

 私と里緒菜ちゃんのライブ、自分たちが楽しめればまずはそれで、ってくらいの気持ちでやってたんだけど、どうも思った以上に見てくれた人からの評判もよかったみたいなの。
 しかも、私たちが声優してるってことが知られちゃったってことも影響してか、アイドルのお仕事もしてるってあの生徒さんたちには勘違いされちゃってるの。
 私たちとしてはそこまで言われる様になるとは思ってなかったし、あれも一回きりのつもりでいたんだけどなぁ…。
「あら、まぁ、お二人にその気があるのでしたら、アイドルユニットとしてもデビューしちゃいましょうか〜」「うん、二人なら…心配、ないよ」
「あっ、もしももしもそうなったら、私たちのユニットとコラボするのもいいかもいいかもです」「うん、たまにはそういうのもいいかもだね、夏梛ちゃん」
 しかも、事務所のみんなまでそんなこと言ってきたりしてるの。


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