「それで…センパイ、私とあんなこと一緒にしたい、って思ってるんですか?」
 しばらく抱きしめられちゃった後、ゆっくりと身体を離されてそうたずねられちゃう。
「あ、あんなこと、って何のことかな?」
「とぼけても無駄です。さっき、自分で言っていたじゃないですか…アイドルの真似事していた、って。で、それを私のこと思い浮かべながらしていたんですよね?」
「はぅ、そ、それは…」
 またじぃ〜っと見つめられちゃって…ダメだよっ、誤魔化すことなんてできないよっ。
「…ご、ごめんねっ」
「…って、センパイ? どうして謝るんです?」
 頭を下げる私にあの子は戸惑った様子を見せる。
「だって、私、里緒菜ちゃんがそんなの望んでるわけないのに、勝手にあんなこと想像しちゃって…」
「…想像とか妄想は個人の自由ですし、そんなことで謝られても…」
 今度は少し呆れた様子…ため息まで聞こえてきちゃいそう。
「そ、それに私、普段から人前に出る様なことなるべくしたくない、って言ってきたのに真逆になること考えてたんだよっ? しかも、そういうお仕事したくない、っていう里緒菜ちゃんと一緒に、とか…」
 あぅ、やっぱりちょっと情けないって気持ちが大きくなってきちゃう。
「そ、そもそも、アイドルだなんて……里緒菜ちゃんならともかく、私なんかができるわけないし…!」
 私みたいな全然かわいくない子が、なんて身の程知らずにもほどがある…!
「だ、だから、とにかく、さっきのことは忘れちゃって、ねっ?」
 うん、そうすればこの問題はあっさり解決する…のに。
「…ちょっと、それは無理です」
「え、えぇ〜っ、どうしてっ?」
「だって、センパイのあんなかわいい姿…忘れられるわけありません」
 悪戯っぽい笑顔を浮かべるあの子に私は恥ずかしくなっちゃう…と、その彼女、真顔になる?
「それに…センパイ、どうしてそれを私としたい、なんて思ったんです? 怒ったりしませんから、正直に言ってみてくれませんか?」
 いや、怒られるっていうより笑われたり呆れられたりしないか、ってことが不安なんだけど…ここまできたら、ちゃんと言うしかない。
「う、うん、えっとね…里緒菜ちゃんと二人でああいうことできたらとっても楽しいだろうなって、思ったの」
 それは、あの学園祭ライブを見てからずっと思ってたこと。
「里緒菜ちゃんと二人で、ってのは今でもあのアニメで共演とかラジオとかもしてて、それもとっても楽しくって嬉しいんだけど、あれにはそれ以上の魅力があるみたいに感じちゃって…」
 素の二人でラジオとかするのもいいな、って感じたりもしてたんだけど、やっぱりそれ以上に、かも…?
「だから、そういうこと想像してダンスの真似事とかしてたわけなんだけど…」
「そう、ですか…」
 私の告白に、彼女は笑いも呆れもしなくって、ただ真顔で見つめてくるだけ…。
「あっ、えっと、これってあくまで私が勝手に考えてただけのことだから、里緒菜ちゃんは気にしないでっ? 大丈夫だよ、里緒菜ちゃんが嫌なことはしたりしないから」
 あんまり考えすぎたりさせない様にそう声をかける…んだけど。
「…嫌なことって、何です?」
「えっ、それは一緒にアイドルみたいなことする、とか…」
「…どうして私がそれは嫌だなんて思ってる、って解るんですっ?」
「わ…えと、里緒菜、ちゃん…?」
 強い口調になるあの子に、私は固まっちゃう。
「あ…ごめんなさい、怒ったりしない、って言いましたのに。でも、すみれが悪いんですから…人の気持ち、確認もせずに決め付けたりして」
 ぷいってしちゃう彼女を見て、胸がちくってしちゃう。
 そう、だよね…里緒菜ちゃんは面倒なことも顔出しも嫌いだから嫌なはず、って考えてたんだけど、でもそれはあくまで私の想像に過ぎない。
 ましては、私たちは恋人なんだから、思ったことはきちんと言い合える様に…いや、これって単なる私の願望だったわけなんだけど、ともかく。
「えっと、じゃあちょっと聞くけど、里緒菜ちゃんは…アイドルとか、したいって思う?」
「…まさかー。そんな面倒なこと、ごめんこうむります」
 …あれっ、やっぱりそうなっちゃうの?
「ただ…そうですね。私の好きな人がそういうこと望んでいて、それに私と一緒にしたいっていうのなら、私もその人とは一緒にしたいな、って気持ちはあります」
「…へ?」
 今の言葉って、つまり…私となら、ってこと?
「あの二人のライブを見て、羨ましいって感じたの、すみれだけじゃないんですから」
 そう言う彼女の顔は赤くなってきちゃってる。
「というより、私は夏祭りのライブのときから、そう思っていたんです。それを忘れようとして、実際忘れかけていましたのに、学園祭へ連れて行かれたり、ここであんなことしてるすみれを見たりしたら…また思い出しちゃったじゃないですか」
 ふと、あの夏祭り、あの二人のライブのときに里緒菜ちゃんがつぶやいてた一言が浮かぶ。
 そう、羨ましい、って…あの頃から、そう思っててくれたんだ…。
「…里緒菜ちゃん。私、里緒菜ちゃんと一緒に歌ってみたい、踊ってみたい。里緒菜ちゃんは、どう?」
「すみれがそう言うんでしたら…私は、いいですよ? 私をその気にさせた責任、取ってもらいますから」
 そう答えた彼女…私へ身体を寄せて、そのまま口づけしてきちゃった…!

「う〜ん、でも…本当に、よかったのかな?」
 あつい口づけを交わした後、ちょっと冷静になってそうつぶやいちゃった。
「もう、私をその気にさせておいて、いまさら何を言ってるんですか?」
 森の中、木の根元に座る私の隣にはもちろんあの子の姿…ちょっと呆れてる。
「だって、アイドルって…よく考えなくっても、私じゃ全然似合わないし」
 そうそう、まず一つめの問題としてそこがある…夏梛ちゃんや麻美ちゃん、里緒菜ちゃんならともかく…。
「何を言い出すかと思ったら…そういえば、さっきもそんなこと言ってましたけど、本気で心配してるんですか?」
 わっ、思いっ切り笑われちゃった。
「むぅ〜、本気も本気だよっ。里緒菜ちゃんみたいなかわいい子には解らないかもしれないけどっ」
「あっ、もう、怒らないでください。私のことはともかく、すみれはとってもかわいいですから、大丈夫ですよ?」
 いや、それで安心できるわけないんだけど…。
「それに、まずは私とセンパイが一緒にアイドルみたいなことできればいいんですから、そこまで考えなくてもいいんじゃないでしょうか」
 まぁ、そうかもしれない…もっと大きな問題があるのは確かなわけだし。
「それより、センパイって歌とか大丈夫なんですか?」
 って、そっか、そっちの問題もあったっけ。
「まぁ、多分人並みには…そういう里緒菜ちゃんはどうなの?」
「私も、そこそこは…歌も声優をしていく上で必要なものですし」
 あ、そのあたりのことしっかり考えてたんだ…やっぱりえらいなぁ。
「…ねぇ、里緒菜ちゃん。歌のことももちろん大切だけど、もっと大切なことあると思うんだけど…」
「もっと大切な…あ、ダンスですか? まぁ、そこはお互い頑張るしかないんじゃないかと」
「わっ、うん、それも大切だけど…そもそも、活動ってどうしよ? まずはそこを考えてかなきゃ」
 ついさっきまでは私の想像の世界でのことだったわけだけど、ここまで里緒菜ちゃんが乗り気なら、もう冗談とかじゃ済まされない。
「こういうことってやっぱ事務所と相談しなきゃだし…」
「それはもちろんです…けど、その前に一つはっきりさせておきましょうか」
 あ、里緒菜ちゃんがちょっと真剣な表情になった。
「センパイは、アイドルをお仕事としてやっていきたいですか? それとも、私と一緒にできるのならそこまでは考えていませんか?」
 あ、それは確かにとっても大切な問題…なんだけど、私は今の今まで、そういうことを考えられてなかった。
 夏休みの旅行のこととかもそうだけど、私って舞い上がりやすいのかな…って、いやいや、だからこのアイドルについてはついさっきまでは想像の世界のことだったんだってば。
 う〜ん、そうはいってもこれは…やっぱり、こうかな。
「う〜ん、お仕事にする、とまでは考えてないかな。元々、里緒菜ちゃんと一緒にできたらいいなぁ、ってくらいにしか考えてなかったし」
 そのくらいの覚悟でアイドルをするなんて、アイドルしてる子たちに失礼になっちゃう。
「それに、私のお仕事はあくまで声優だもん。あんまり顔出しとかしないほうがいい、って考えは変わってないし」
「そうですか、私も同じ気持ちです…センパイが本気でアイドルしたい、なんて言い出さないか不安でしたけど、よかったです」
 そっか、里緒菜ちゃんもまずは私と…だったんだね。
「まぁ、だから、こういう誰もいないとこで真似事、だけでもいいかもなんだけど、でもやっぱり一度くらいは一緒に舞台に立ってみたいな、なんて…完全なわがままなんだけど、ね」
 お仕事にしないんだったら、そんな機会なんてないだろうし…。
「…解りました。では、舞台のほうは私が何とかしておきます」
「…へ? 何とか、って…どういうこと?」
「それはもうそのままの意味です。センパイは私をその気にさせたんですから…」
 うっ、な、何だかちょっと怖い…けど、そう言ってくれるなら、私はうなずくしかなかったの。


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