そうそう、これはありがたいことなんだよね、って自分に言い聞かせようとした…んだけど。
「ちょっ、り、里緒菜ちゃんっ? どうして里緒菜ちゃんまで入ってくるの?」
 あの子が選んだ一着を試着する、ってことになったとこでそのあの子も一緒に試着室に入ってきたものだからあたふたしちゃう。
「いえ、着替えを手伝おうかと思いまして」
「いやいや、そんなの一人でできるって」
 もう、めんどくさがりやさんのはずなのにそんなこと言い出すなんて…。
「でも、その服ってちょっと特殊じゃないですか。すみれ、本当に一人で着られます?」
「えっと、それは大丈夫…じゃない、かも…」
「ほら、やっぱり。人の親切は素直に受けておくものですよ?」
 全くもって彼女のいうとおりだったし、うなずくしかなかったの。

 で、結局服は里緒菜ちゃんに着させてもらって…そんなとこまでしなくていいっていうとこまでやってもらっちゃった。
「も、もう、こんなめんどくさいはずなことを自分からしてくるなんて、里緒菜ちゃんらしくないよ?」
 さすがにちょっと恥ずかしすぎたから、思わずそんなこと言っちゃったりして。
「そうですか? まぁ、楽しかったので、つい」
「た、楽しかった、って…」
 こっちは恥ずかしかったりどきどきしたりで大変だったのに。
「これは、夏梛さんや麻美さんの気持ちも解る気がしますね」
「…へ? どういうこと?」
 いきなり二人の名前が出てきて戸惑っちゃう。
「はい、あのお二人もこのお店にきたときにお互いに着替えを手伝いあったそうなんです。そうして着せ替えするのがずいぶん楽しかったそうで…」
「へぇ〜、そうだったんだ」
 そんな話をしたりするなんて、やっぱりあの二人と里緒菜ちゃんってずいぶん仲良くなってるみたいで嬉しい…って。
「…もしかして、私を着せ替えして楽しむためにここにきたの?」
「…まさかー。センパイにここの服が似合うって思ってきたんですよ?」
 うわっ、何だかものすごい棒読みに聞こえるんだけど。
「怪しいなぁ…じぃ〜っ」
「そんなことより、もう着替え終わったんですから、鏡を見てみたらどうですか?」
 むぅ〜、何だか誤魔化された感じ…だけど、あの子があんなこと言う理由も解らなくもない。
 だって、私、試着室に入って着替えはじめてから一度もちゃんと鏡を見てないんだもん。
「何ですか、似合ってるかどうか不安で見れないんですか?」
「う、うん、まぁ…っていうより、私に似合うわけない、って思うし」
 そう、どう考えてもそうなんだから鏡に目を合わせるのが怖いんだよね…。
「それで不安になって鏡から目をそらしてたんですか…」
 あぅ、ちょっと呆れられちゃったかな…。
「…本当、すみれはかわいいんですから」
 と、里緒菜ちゃん、続けてそう言うとそっと私のことを抱きしめてくる?
「えっ、ちょっ、り、里緒菜ちゃんっ?」
「でも、そんな恥ずかしがらなくっても大丈夫ですし…ほら、見てみてください」
 突然のことにあたふたしちゃう私の耳元でささやく様にそう言われちゃう。
 はぅ、そんなことされたらまたどきどきしてきちゃうんだけど…。
「う…うん、そうだね」
 もう着ちゃったんだし、あの子がああ言ってるんだから、もう覚悟を決めるしかない。
 里緒菜ちゃんが私から離れるから、意を決して鏡を見てみる…って。
「うわ…こ、これ、やっぱり変じゃない?」
 予想通りというか、夏梛ちゃんが着るみたいなひらひらでかわいらしい服を着た私って…うん、どう見ても違和感しか覚えない。
「そうですか? 私はとってもかわいいって思いますけどね」
「も、もうっ、そんな冗談はいいから…!」
 鏡に映る自分を見てるとやっぱり恥ずかしくなってきて、もう目をそらしちゃう。
「全然冗談じゃないんですけどね…」
 真顔でそう言うあの子だけど、ちょっとこればっかりは…。
「わ、私より絶対里緒菜ちゃんのほうが似合うと思うし、里緒菜ちゃんが着てみてよっ」
 そうそう、そのほうが絶対この服のためにもなるよねっ。
「えっ、私がですか? まぁいいですけど、ちょっと別のにさせてもらってもいいですかね?」
「うん、まぁいいけど…じゃあ私は着替えちゃうね」
「あっ、待ってください。その前に写真撮らないと」
 そんなこと言いながらあの子は携帯電話を取り出そうとする?
「ちょっ、写真って何の? まさか…」
「そんなの決まってるじゃないですか。今のすみれをですよ?」
「わっ、や、やっぱり…そ、そんなの絶対ダメなんだからねっ?」
 いくら里緒菜ちゃんのお願いでも、こればっかりは恥ずかしすぎる。
「はぁ、今更何言ってるんですか…アイドルの格好してステージにまで立ったのに」
「…あぅ、そ、それは、ねぇ?」
 そう言われるとそんなこともあったわけで…あれも服装だけ見ると相当恥ずかしい。
「あのときの映像はもうweb上に出回ってますけど、この写真は私が個人的に見るだけですよ? それでもダメですか?」
 うっ、あんまり今まで意識してこなかったことを言われて別のとこで恥ずかしくなってきちゃったかも…。
「…ま、まぁ、他の人に見せたりしない、っていうなら」
 で、結局里緒菜ちゃんからのお願いは聞いちゃうんだよね…。
「ふふっ、よかったです。あ、もちろん着替え、手伝いますね?」
「も、もう…じゃあ、里緒菜ちゃんの着替えは私が手伝っちゃうよ?」
「あ、本当ですか? ぜひお願いしますね」
 あれっ、うまく乗せられちゃった様な…まぁ、彼女の着替えを手伝うのは全然嫌じゃないし、いいんだけどね。

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