第6.5章

「センパイ、次の日曜日って特にお仕事とかありませんでしたよね?」
 ―学校も放課後を迎えて、いつもの様に私がアルバイトをしてる喫茶店へきてくれた里緒菜ちゃんがそんなことたずねてきた。
「うん、でもそれがどうしたの?」
 彼女のついたいつもの席にいつもの紅茶を出してあげながらそうたずね返す。
「その日は私も特に予定がありませんし、センパイがよかったらお出かけしませんか?」
「うん、もちろんいいよ…って、えっ?」
 普通にお返事したんだけど、途中でその意味に気づいて固まっちゃった。
「…何ですか」
「う、ううん、里緒菜ちゃんからお出かけのお誘いがあるなんて、ちょっと意外で…。お休みの日はお部屋でゆっくりしてたい、っていつも言ってるし」
「そうですね、だらだらしてたいです…から、やっぱりやめときますか」
「わっ、そんなっ、せっかくの里緒菜ちゃんからのデートのお誘いなんだし、もちろん喜んで行かせてもらうよっ」
 うぅ、いけない、変に驚いて気分を悪くさせちゃったかな…ちょっと意外だったってだけで、もちろんとっても嬉しいのに。
「無理しなくていいんですよ? アルバイトもあるでしょうし」
「うぅ〜、そんな、意地悪言わないでよ〜」
「うふふっ、そうよ、すみれちゃんは明日はアルバイトお休みなんだもの、ね」
 と、カウンタから美亜さんの声が届く…私たちの会話、聞かれちゃってたみたい。
「えっ、美亜さん、いいの?」
 これからお願いするつもりだったんだけど、先に言われちゃった。
「ええ、もちろん。デート、楽しんできてね」
「うん、ありがとっ」
 日曜日で学校もお休みでお客さんも少ないはずだし、いいよね。
「そういうことだから、里緒菜ちゃんと一緒にお出かけしたいな」
「はぁ…仕方ありませんね。元々こっちから誘ったんですし」
 ふぅ、よかった、せっかく彼女から誘ってもらえたんだもんね。
「でも、里緒菜ちゃんから誘ってくれるなんて珍しいけど、どこか行きたい場所とかあるの?」
「はい、ちょっと…」
 里緒菜ちゃんがそう言いかけたとき、お店の扉が開く。
「あっ、いらっしゃいませ」
 今はアルバイト中なんだからちゃんと接客しなきゃだよね…と。
「すみれさま、ごきげんよう。里緒菜さまももういらしてたのですね」「一緒に下校したかったのに…里緒菜さんはまさにアイドルですもの、そうできたらどんなに光栄でしょう」
 お店へきたのはあの子と同じ学校に通う子たちだったんだけど、あの子へ対する目が今まで以上に輝いてる様に感じられる。
「アイドル、って…大げさね」
「そんなことありません、ライブのお二人、本当に素敵でしたから」「そうです、ますます里緒菜さんのファンになりました」
「だから、大げさだって…」
 ため息ついちゃう彼女だけど、あの子たちがああなったのは先日の学園祭で私たちがライブをしてから。
 あのときの彼女を見たらますますファンになっちゃうのもうなずけるけど、当の彼女はちょっと面倒そう。
 そんなあの子たちの様子を見てると何ともいえないよく解らない気持ちになりそうになるんだけど…。
「…とにかく日曜日、行き先は当日のお楽しみ、ってことで」
 あの子が小声でそう言ってくるものだから、私はうなずいてお仕事へ戻るの。

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