第6.1章

「みんな、今日は私たちの歌、聴いてくれてほんとにありがとっ!」「どうも、ありがとうございました」
 ―ステージでライトを浴びながら手を振る私と、その隣で軽く頭を下げる里緒菜ちゃん。
 視界に入るのは、私たちを見てくれた満場の聴衆…みんな大きな拍手を向けてくれて、中には歓声をあげてくれてる子もいる。
 …よかったぁ、自分でもとっても満足してるんだけど、見てくれた人もそう感じてくれたのかな。

「以上で午前の部の出し物は終了です。次は、十三時三十分より…」
 さっきまで私たちが立ってた講堂の舞台からそんな声が届く中、私たちは楽屋へ戻ってきた。
 そのアナウンスのとおり今から一時間ほどは出し物がないってこともあって、楽屋にいるのは私たち二人だけ。
「里緒菜ちゃん、お疲れさまっ。とっても楽しかったねっ」
 ステージの興奮冷めやらぬままに思わずあの子へ抱きついちゃう。
「わっ…もう、すみれったら。そうですね、私も…思ったより楽しかったです」
「うんうん、そっかそっか、よかった」
 私と彼女、心を一つにして歌えた感覚あったけど、里緒菜ちゃんもそうだったんだ…嬉しいな。
「それに…やっぱり、里緒菜ちゃん、衣装もとってもよく似合ってる。ずっと見てたいくらいだよ」
 そっと身体を離して彼女のこと見るけど…うんうん、やっぱり本物のアイドル以上っていっても過言じゃない。
「ふふっ、じゃあ私はすみれの衣装を堪能しますね」
 と、彼女も私のことじぃ〜っと見つめてきて…あわわっ。
「え、えっと、とにかくまず着替えよっか…!」
 私と彼女、この日のために美亜さんが用意してくれた衣装着てるわけだけど、それはほとんどお揃いなものになってて…ただでさえ私には不釣り合いなもののうえにあの子にまじまじと見られたりしてまた恥ずかしくなってきちゃった。
「えぇ〜、もう少しこのままでいいんじゃないでしょうか…少なくともすみれは」
「も、もうっ、私だけとか何言って…ほらほら、着替えよっ?」
「つまらないですね…すみれ、かわいいのに」
 うぅ〜っ、そんなこと言われると恥ずかしすぎてどうにかなっちゃいそうだよ…!

「さて…と、里緒菜ちゃん、これからどうする?」
 気を取り直して服を着替えてから、同じく着替え終わったあの子へ声をかける。
「ん〜…だらだらしたいです」
 学校の制服へ着替えたあの子だけど…あぅ。
「ぶぅぶぅ、せっかくの学園祭なのに、そんなのつまんないよ〜!」
 あの子らしい答えっていったらそうなのかもだけど…でもやっぱりいくら何でもあんまりだよ〜。
「この間、あっちの学園の学園祭回ったじゃないですか。それで十分ですよね?」
「いやいや、そんなわけないし」
 麻美ちゃんや美亜さんの母校の学園祭…あの二人のライブを観たことを抜きにしても一緒に回れて楽しかったけど、それとこれとはやっぱり別。
「せっかく午後がまだあるんだし、里緒菜ちゃんもステージ終わった後にでも、って言ってくれてたじゃない」
「そんなこと言いましたっけ…でも、今のステージでちょっと疲れちゃいましたから」
 さっきのステージ…里緒菜ちゃん、歌だけじゃなくってダンスのほうもしっかりやってくれたの。
 お互いとっても楽しくって満足できたわけだけど、だからなおさら疲れが出ちゃってもしょうがないか…。
「そ、そうだよね…しゅん」
 普段からそこそこ身体動かしてる私とは違うわけだし、あんまり無理させちゃいけないか…。
「…もう、そんなしゅんとしないでください」
 と、あの子、ちょっとため息ついちゃった?
「しゅんとするすみれもとってもかわいいですけど…とにかく、疲れたと同時におなかすいちゃいましたし、何か食べませんか? 何か買ってだらだらしましょう」
 ぶぅ、またはじめにおかしなこと言われちゃったけど、とにかくそれって学園祭のお店で何か買って、ってことだよね。
「…うん、うんうんっ。ありがと、里緒菜ちゃんっ」
「わっ…もう、すみれったら喜びすぎです」
 思わず抱きついちゃう私にあの子はそう言いながらもやさしく微笑んでくれたの。

「よしっ、じゃあ里緒菜ちゃんは何食べたい? 私がおごってあげる」
「いえ、それはちょっと悪いです」
 行動を後にした私たち…ちょっと張り切る私の言葉を彼女は遠慮してきちゃう。
「いいっていいって、こういうときはセンパイを頼るものだよ?」
「そうですか? じゃあ…お願いします、センパイ」
「うん、任せてっ」
 そんな会話しつつ手を繋いで、まずは屋台が出てるとこへ向かおうって思う…んだけど。
「…何だか、妙に視線を感じる気がするんですけど」
「あ、里緒菜ちゃんもそう思った? じゃあ、やっぱり私の気のせいじゃなかったんだ」
 そう、周りの人たちの中に、私たちのこと見てくる人が結構いて、どういうことなのかなって思っちゃう。
「よく解んないから、こういうときはチョコバー食べて落ち着こ…サクサクサク」
「はぁ、それこそ意味解んないんですけど…サクサク」
 あんなこと言いながらも私の渡したチョコバーを食べてくれる里緒菜ちゃん…かわいいなぁ。
「…私たちがいちゃついてる様に見えるのが気にされてるんじゃないですか?」
「そうかな〜? 私たち、手を繋いでるだけだし」
 このくらいのことで人目を引くとか考えられないし、とすると…。
「やっぱり、里緒菜ちゃんがかわいすぎて気になっちゃうんだね、みんな」
 うん、これならしょうがない気がする。
「えぇ〜、それならきっと逆だと思うんですけど。センパイはここの生徒でもありませんから、より目立って当然だと思いますよ?」
「えぇっ? もう、そんなこと…生徒じゃない人なんて、今日は私以外にもいっぱいきてるわけだし」
「はぁ…センパイはもう少し自分がどう見られているか自覚したほうがいいですね」
 うわっ、思いっきりため息つかれちゃったけど、それこそこっちの台詞の気がする。
 でもまぁ、視線を感じるなんていっても、実害がない限りは気にしなくってもいいかな。
「…あ、あのっ」「少しよろしいですか?」
 と、そんなこと思ってると、視線を向けてきてた人たちの中から制服着てる子が二人、思い切ってって感じで私たちに声かけてきた。
「ん、どうしたの? 私たちに何か用?」
 あの子と手を繋いだまま足を止めてたずね返してみる。
「はい、あの…里緒菜さんとすみれさん、さっきのステージ、とっても素敵でしたっ」「私たち、観させてもらったんですけど、もう感動しちゃって…」
 そんなこと言うその子たちが私とあの子のこと見る目…わっ、ものすごく輝いちゃってる?
「そ、そうかな…ありがと」「え、え〜と…ありがとうございます」
 ちょっとお互いに戸惑っちゃうんだけど、でもあの舞台を喜んでもらえた、って声を直接聞けたのは素直に嬉しいかも。
「あっ、私も観ましたっ」「とっても素敵でしたわ」
 って、感慨に浸る余裕もなく、まわりにいた他の子たちも私たちを取り囲んでくる?
 う、う〜ん、視線を感じたのって、もしかしなくってもあの舞台を見られた影響、ってこと?
「まるで本物のアイドルみたいでした…あ、もしかして本当にアイドルしたりしてるんですか?」「わぁ、それはますます素敵です…応援しますっ」
「え、え〜と、それは…」「…そんなはずあるわけないじゃないですか」
 言葉を濁らす私に対し、あの子はそう言い切っちゃった。
 まぁ…うん、そうだよね、声優してるって知られたわけじゃないんだし、それでいいのか。
「えぇ〜、でも、お二人なら絶対アイドルとしてやっていけますって」「そうですそうです、私もそう思います」
「あ、あはは、うん、ありがと…あ、私たち、ちょっと行くとこあるから、このくらいでっ」
 何だか恥ずかしくなってきちゃったりあの子が疲れたりしないか心配になってきちゃったりで、あの子の手を引いてそそくさとその場を後にしたの。


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