次の日は普段通りアルバイトに行って、学校の放課後を過ぎた頃に喫茶店へ里緒菜ちゃんがきてくれた。
「いらっしゃいませ、里緒菜ちゃん。まずはゆっくりしてってね」
「はぁ、どうも…」
さっそくいつもの席に案内して座ってもらう。
「昨日はお仕事お疲れさま…はいっ、これチョコバー。今日はあっちの練習、大丈夫そう?」
「ありがとうございます…まぁ、練習はめんどくさいですけど、何とか」
「ん、そっか、よかった」
チョコバーを受け取る彼女はいつも通りちょっとやる気なさげだけど、疲れとかはなさそうで一安心。
そんな里緒菜ちゃんを見てたら、ふと昨日のことを思い出した…今は他にお客さんいないし、ちょっとくらいならお話ししてもいいかな。
「里緒菜ちゃん、もうすぐハロウィンだね」
「サクサク…そう、みたいですね?」
あ、一瞬戸惑った…昨日の私と同じなのかな。
「うんうん、だから…」
「…パーティとか、そんなめんどくさいことはしませんからね」
うぐっ、冷ややかな視線を向けられちゃった…。
「よ、よく言いたいこと解ったね…」
「センパイの考えそうなことくらいすぐ解ります。ただ、そもそも二人でハロウィンパーティとか、むなしくありません?」
うふふっ、そっか、私の考えてること里緒菜ちゃんには解っちゃうんだ…それは嬉しいけど、後半はどうなんだろ。
とはいっても、夏梛ちゃんと麻美ちゃんはイベントだっていうし、梓センパイも確かお仕事だから…確かにちょっとパーティするにはさみしいかも。
「あぅ、残念、せっかく里緒菜ちゃんの仮装姿が見られると思ったのに」
「センパイ、そんなこと考えてたんですか?」
昨日のあの二人を見てそんなこと考えちゃったんだよね。
「うん、だって、普段の里緒菜ちゃんもかわいいけど、そんな普段とは違う格好とかも見てみたいかも、って」
「そうですか…そんなこと考えるすみれのほうがかわいいですけどね」
「わっ…ぶぅぶぅ、そんなことないよ〜!」
本当にもう、私のことは置いておくとしても、里緒菜ちゃんよりかわいい子なんているわけないのに。
「もう、全く…あっ、そうだ」
仮装とかそんな大がかなりなことしなくっても、普段とはちょっと違った彼女の姿はすぐ見られそう。
「…センパイ? どうかしましたか?」
「うん、里緒菜ちゃん、ちょっとそのままにしてて」
こういうのって後ですればいいだけのことなんだけど、まだ他にお客さんいないし、ちょっとくらいなら…。
そう考えながら里緒菜ちゃんの後ろに回った私、彼女の長い黒髪を軽く手にしてみる。
…う〜ん、やっぱり髪の毛もとってもさらさらできれいだよね。
「えっ、センパイ、何です?」
「うん、里緒菜ちゃんの髪形を変えたりしてみたら、どんな感じになるかな〜って」
「またそんなめんどくさいこと…センパイがしたいっていうならいいですけど」
「ん、ありがと」
この長くてきれいな黒髪をストレートにしてる里緒菜ちゃんはまさに美少女ってとこなんだけど、結んだりしてないのは面倒だから…ってありそう。
「じゃあ、まずは軽く…」
手持ちのゴムで束ねてみて、ポニーテールにしてみた。
「うん、これは…わぁ、かっこいいかも」
「そうですか?」
ちょっと雰囲気変わって、やっぱり新鮮かも。
「そうだね、じゃあ次は…」
また彼女の髪に手をかける…けど、そのときお店のドアが開く音がしたの。
「…あ、いらっしゃいませっ」
いけない、お客さんきちゃった…ぱっと彼女の髪から手を放す。
「すみれさん、今日はお会いできて嬉しいです」「里緒菜さまももういらしてたんですね」「あら、でも、その髪形…素敵ですけど、どうされたんです?」
お店にきたのは里緒菜ちゃんと同じ制服を着た女の子たち…いつもと違う髪形をしたあの子を見てこっちにやってくる。
「あ、え〜と、これは、里緒菜ちゃんに色んな髪形してもらおうかな〜、って…」
「わぁ、それは素敵です」「ええ、私たちももっと色んな里緒菜さまを見てみたいです」「その…私たちにもさせていただいて、いいですか?」
「えっ、うん、いいけど…」
…あ、いけない、思わずうなずいちゃった。
そういうことでその子たちがあの子の髪をいじることになって…いけないいけない、私はお店のお仕事しなきゃ。
「うぅ、ごめんなさい、美亜さん」
「あら、私はいいのよ? いいもの見させてもらったし、それに多分…ふふっ」
今までずっと様子を見てた美亜さんだけど、まだ何か期待した様子…何だろ。
一方、里緒菜ちゃんへ目を向けてみると、あの子たちに色々髪形を変えられたり、さらには眼鏡をかけさせられたりしてる?
あの子は何も言わずされるがままってとこで気にしてないみたいで、そんな色んな…私じゃそんなきれいに髪を結ってあげられないって思うから、そんな中できれいに結ってくれてるのを見ると嬉しい、はず。
そう、嬉しいはずなのに、どうしてこんなもやもやしちゃうの?
「…そろそろ、このくらいでいい?」
と、里緒菜ちゃんが眼鏡を外しながらそう声を上げたの。
「あっ、ご、ごめんなさい、つい…!」「里緒菜さまにお近づきになれると思ったら嬉しくって…!」「その、やりすぎましたか…?」
「ううん、私より…センパイが、やきもちやくから」
そうしてそんなこと言いながら私に涼しげな視線を向けてきて…って!
「え、えぇっ、な、何言ってるの、私は別にそんな…!」
急なことに慌てちゃったけど、本当に私は…!
「あ…ご、ごめんなさいっ」「ちょっと調子に乗りすぎました…!」「でも、私たち、お二人のご関係を応援していますので」
「い、いやいや、だから違うって!」
みんな頭を下げてきちゃうし、美亜さんのほう見ると楽しそうに笑ってるし…もうっ。
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