リレーが終わったらそのままの流れで閉会式、さらに一旦教室に戻って着替えたり、ってことで里緒菜ちゃんはそっちに行っちゃって。
 閉会式も終わったから生徒じゃないお客さんもいなくなってって…私はどうしようか迷ったけど、そのままグラウンド端の木の下にいることにしたの。
 ついちょっと前までの賑やかさが嘘みたいに静かになっちゃって、そんな中で一人たたずむ。
「…センパイ、まだこんなところにいたんですか?」
 しばらくそうやってると、誰かが歩み寄ってきて声をかけてくる…っと、もちろん誰なのかなんて決まってる。
「うん、里緒菜ちゃんのこと、待っていようかなって」
「はぁ…もし私がここにこなかったらどうするつもりだったんです?」
 ちょっと呆れた様子で私の前へ立ち止まるのは、制服へ着替えた里緒菜ちゃん。
「ん、でもこうやってきてくれたじゃない」
「まぁ…それは、そうですけど」
「それとも、校舎の前あたりで待ってたほうがよかった?」
「…それはやめてください。初等部の保護者じゃないんですし」
 そう言うよね、って思ってここにいたわけで…ちょっと笑っちゃう。
「とにかく、体育祭お疲れさま…はいっ」
「……まぁ、ありがとうございます」
 私が差し出したチョコバーをあの子は受け取ってくれて、一緒に食べる。
 こういう二人の時間、やっぱり幸せだなぁ…。
「サクサクサク…それにしても里緒菜ちゃんのリレー、すごかったね」
 ついさっきの大歓声の中でのことを思い出しちゃう。
 その歓声を受けるくらいかっこよくって画になってた彼女の走る姿、これだけでもすごいんだけど…。
「まさかあんなに追い上げるなんて。もうあと一歩でトップだったのに、惜しかったね…サクサク」
 そう、里緒菜ちゃんがバトンを受け取ったときには三位だったのに、そこからすごい追い上げで二位になって、それにあと数メートル距離があれば絶対トップも追い抜いてたってくらいだったの。
「もう、やっぱり里緒菜ちゃんって足速いんじゃない」
 結果的には二位だったけど、里緒菜ちゃんのとこにくるまでの差が大きすぎたし、これはしょうがない。
 でもそこからあんなに追い上げた彼女はやっぱりすごくって、もちろん見てたみんなもとっても盛り上がってた。
「いえ、あれは…すみれが悪いんですから」
 お互いチョコバーを食べ終えるけど…ん?
「私が悪い、って…どうして?」
「すみれが…声援なんて送ってくるから、つい本気を出しちゃったじゃないですか。本当はもっと適当に終わらせようと思ってましたのに」
 わっ、あのときの私の声援、届いてたんだ…あんな歓声の中だったから聞こえないと思ってたのに。
 しかも、それで里緒菜ちゃんが本気で走ってくれたなんて…。
「…里緒菜ちゃん、嬉しいっ」
 もう色々気持ちが抑えられなくなって、あの子のことぎゅってしちゃった。
 でもこれはしょうがないよ、あんなこと言ってきただけじゃなくってちょっと恥ずかしそうにしてたり…かわいすぎるんだもんっ。
「も、もう…すみれの声は、あんな中でも私には届くんですから。ですから…あんまり私のこと、本気にさせたりしないでくださいよね…?」
「うんうん、ごめんね、里緒菜ちゃん…んっ」
「すみれ…ん、んっ」
 他に誰もいないグラウンドの端にある木の下で、私と里緒菜ちゃん、あつい口づけを交わしちゃったの。


    -fin-

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