体育祭の最後を飾るのはチーム対抗のリレー。
 これは初等部から高等部までの代表が走る花形競技っていっていいものみたいなんだけど、里緒菜ちゃんはこれに、しかも最終走者として出るっていうの。
「わぁ、アンカーなんてすごいねっ。里緒菜ちゃん、そんなに足がはやかったの?」
 もうすぐそのリレーがはじまる、ってときになってそのことを聞かされて、ちょっとびっくりしちゃった。
 だって、そんなリレーのアンカーなんだから、そう感じるのが当たり前だよね。
「いえ、全然そんなことはありませんよ?」
 でも、当のあの子はそう断言してきちゃう。
「…へ、そ、そうなの? でも、それじゃどうしてリレーのアンカーなんて…」
「さぁ? よく解りませんけど、クラスメイトの人に推薦されまして。他には何も出なくてもいいってことでしたから受けることにしたんです」
 その口ぶりからして、本当にリレーのアンカーになった理由は解らないみたい。
 う〜ん、謎だなぁ…だけど。
「何にしても、精一杯応援するねっ」
「いえ、そんなことしなくても…ただ見ているだけでいいですから」
「えぇ〜、そんなぁ…ぶぅ」
 もう、相変わらずつれないんだから。
「…じゃ、めんどくさいですけどそろそろ行ってきます。センパイは大人しく見ててください…帰ってくれてもいいですけど」
「わっ、さすがにここで帰るのはあり得ないよ…うん、じゃあ頑張ってねっ」
「ま、適当にやってきます」
 あの子はそう言い残して集合場所へ向かっていったの。

 いよいよ体育祭の最後を飾る、そしてあの子が唯一出場する種目なチーム対抗リレーがはじまる。
 本当は声を上げてあの子のこと応援したいんだけど、ただでさえここにきちゃうっていう彼女が望んでないことしちゃってるから、そこは我慢して、さっきまで彼女といた木の下で見守ることにした。
 リレーのほうは初等部の低学年の子から順に走ってくみたいで、高等部の里緒菜ちゃんがアンカーになるのも自然な流れ。
 とはいえ、こういうのってやっぱり走りに自信のある子を出すって思うんだけど、どうして里緒菜ちゃんなんだろ。
 そんなこと考えてるうちにあの子の出番が近くなってきて、あの子がコースに出てくる。
 あの子のチームは今のところ四組中三位か…まぁ、無理しないで怪我なく走ってくれればそれでいいよね。
 そしていよいよあの子がバトンを受け取るんだけど、その姿は画になってるっていうか、かっこいいなぁ。
 と、その瞬間、お客さん…っていってもほとんど生徒なんだけど、とにかく大きな歓声が上がったの。
「…わっ、何事っ?」
 他のアンカーの子にバトンが渡ったときにはここまでにはならなかったのに…これってやっぱり、里緒菜ちゃんだから?
 うん、私もかっこいいって感じたんだから、普段からあの子のことそんな風に見てるほかの子たちがそう感じないわけないよね。
 走ってる姿もクールでかっこよくって…クラスの子たちがあの子をアンカーにした気持ちもよく解るかも。
「…里緒菜ちゃん、頑張ってっ」
 そんな彼女を見てると気持ちが抑えきれなくって、それにこの歓声の中なら聞こえないかな、ってことでつい応援の声をあげちゃった。


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