第6.04章

 ―里緒菜ちゃんと一緒に彼女の学校で行われる学園祭でステージに立つことになって。
 その日を目指して、夏梛ちゃんと麻美ちゃんの力を借りつつ、特に予定のない日には練習をしてる。
「今日も練習お疲れさま、里緒菜ちゃんっ。はいっ、これチョコバーだよっ」
 夜に事務所のダンスルームを使わせてもらえて、その帰り道…大好きなあの子と並んで夜道を歩いてる。
 ちょっと遅い時間になるし、心配ってこともあって学生寮まで送ってあげてるの。
「ありがとうございます…けど、センパイは全然元気そうですね」
「ん、そうかな…サクサクサク」
「サク、サク…はい、元気そうというか、幸せそうというか…」
「サクサク、幸せそうだなんて、そんなの当たり前だよ。こうして里緒菜ちゃんと一緒にいるんだもん」
 うんうん、これはもう間違いのないところだよね。
「ま、それは私も否定しませんけど、それにしてもセンパイ、ずいぶん楽しそうに見えるんですよね」
「そう? それはあれかな、やっぱり里緒菜ちゃんと歌って踊るのが楽しくって」
「まだちょっと練習で合わせただけなのに…」
 確かに彼女の言うとおりなんだけど、それでもやっぱり…一人で想像してた以上に楽しくって、幸せを感じちゃうの。
「全く、そんなんじゃ本番はどうなっちゃうんでしょう」
「う〜ん、幸せすぎて死んじゃうかも…いや、それはないか」
「そうなんですか?」
「それはそうだよ、その先だって里緒菜ちゃんと一緒にいれば幸せなことはたくさんあるに決まってるし、第一里緒菜ちゃんがいるのに死んだりできないよっ」
 お互いチョコバーも食べ終えてたから、私は彼女と組んでた腕をよりぎゅってしちゃう。
「そうですね、私を一人にしてすみれがいなくなるとか、そんなことは許されないんですから…これからも、ちゃんと一緒にいてくださいね?」
「うん、もちろんっ」
 あの子からも身を寄せてきて、そのぬくもりを感じることができてやっぱり幸せ。
「…あっ、そういえば、この週末はどうする? 練習するのもいいし、里緒菜ちゃんがどこか行きたいっていうならそっちでもいいし」
 しばらく幸せを味わいながら歩いてたんだけど、今日は金曜日ってことでそんなことたずねてみた。
「はぁ…今週末はやめておきましょう。というより、何もしたくありません…」
 って、私の質問に対してあの子はため息ついて表情を曇らせちゃった?
 うぅ、おかしいな、週末ならかえって元気が出るって思ったのに…。
「えっと、もしかして、アイドルの練習で疲れちゃった? じゃあ、週末はのんびり過ごす?」
 そうだよね、学校やお仕事の合間に慣れないことしてるんだから、休息は必要。
「そうできたらよかったんですけどね…はぁ」
 あわわっ、何だかますます元気なくしちゃった。
「ど、どうしたの? 確か今週末はお仕事入ってなかったはずだけど…」
 彼女は学生しながら声優しているから学校が休みな週末とかにはお仕事入りやすいんだけど、今週末は空いてたはず。
「はい、仕事はないんですけど、別の予定が入ってまして…ものすごく気が進まないんですけども」
 うん、とっても嫌そうなのは見ててとっても伝わってきちゃう。
「え〜と、何の予定が入ってるの? そんなにつらいものなら、無理して行かなくってもいいんじゃ…」
「えっ、本当ですか? 休んじゃって、センパイと一緒にだらだらしてていいですかね?」
「う、うん、その内容次第だけどね」
 お仕事だったらそうもいかないけど、そうじゃないっていうものね。
「まぁ、学校の体育祭が日曜日にあるんですけど、私なんていてもいなくっても変わりませんし、出なくてもいいですよね…日曜日はセンパイとだらだら過ごしましょう」
「そうだね、里緒菜ちゃんがいてもいなくっても変わらないっていうのなら、無理しなくっても…って、ん?」
「はいはい、そうですそうです、じゃあそういうことで決まりですね」
 強引に話をまとめて終わらせようとする彼女だけど、ちょっと…ううん、かなり引っかかったよね。
「…って、学校の体育祭って、それって学校行事じゃない! それはちゃんと出なきゃダメだよ」
「…ちっ、気づいちゃいましたか」
 軽く舌打ちされちゃったけど…危ない危ない、学校もお仕事と同じく大事なんだから、サボらせちゃいけないよ。
「全く、もう…体育祭、出たくないの?」
「そんなの当たり前です、めんどくさい」
 うっ、即答されちゃった…まぁ、里緒菜ちゃんならそう言うの予想できたけど。
「まぁまぁ、学校行事なんだし、そこは我慢しようよ、ね?」
「はぁ…センパイならそう言ってくるって解ってましたよ、もう」
 あはは…そこはお互いさま、ってことか。
 でも、体育祭か…そうだよね、私たちが練習して目指してる学園祭の前には、そういう二学期におけるもう一つの大きなイベントがあるよね。
「…センパイはこなくってもいいですからね?」
「うっ…よく私が考えてること解ったね」
 じと目でこっち見ながらの彼女の言葉に声をつまらせっちやう。
 まぁ、まさに図星だった、ってわけで。
「すみれの考えてることなんてお見通しです。学園祭ならとにかく、体育祭なんて家族でもあんまり見にこないものなんですから、こなくていいですからね?」
「えっと、もしかして、麻美ちゃんの学校の学園祭みたいになってる?」
「ま、それもありますね」
 先日行った、麻美ちゃんの学校の学園祭は校門のとこに受付があって、関係ない人は入れない様になってたの。
 里緒菜ちゃんの学校はそこの分校だし、ましては学園祭より内輪な感じのイベントになるからなおさらだよね。
「雨が降れば話ははやいんですけど、とにかく晴れちゃったらしょうがなく出ますけど、すみれはこなくっていいですからね?」
 そこまで念を押されちゃうと、もううなずくしかなかったの。


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