そんなこんなで、絶好のお出かけ日和に恵まれた日曜日を迎えて。
 私と里緒菜ちゃんの二人、電車に乗ってお出かけ…こうやって彼女とあの町の外へ出るの、実はこれがはじめて。
「ふぁ…そういえば、そうですね。あのアニメ関連の収録も、みんなこっちでしてますし…」
 ライブは昼からってことだから午前十時に出発したんだけど、でも隣に座るあの子はずいぶん眠そう。
「もう、しょうがないなぁ。ほら、これ食べて」
「…ありがとうございます。サクサク…」
 電車に揺られて一緒にチョコバー…これだけでもとっても幸せを感じる。
「サクサクサク…そういえば、どうして里緒菜ちゃんは制服なの?」
「学園祭といえど、参加する生徒は基本制服です。分校の生徒でも生徒ですから」
「ふぅん、そっか…そういえば、里緒菜ちゃんの学校は学園祭、ないの?」
「え〜と、どうだったでしょう…サクサク」
「…もう、里緒菜ちゃんっ?」
 あんまり周囲に興味ないっていっても、さすがにそこまで知らないなんてこと…ない、よね?
「…ふふっ、冗談です。私たちの学校の学園祭は、あっちと重ならない様に少しずらしてあるんです…ですから、もう少し先ですね」
「そっか、なるほどなるほど…」
「…こなくていいですからね?」
「え、えぇ〜っ、そんなぁ…」
「…ふふっ、冗談です」
「も、もう、里緒菜ちゃんったら…ぶぅぶぅ!」
 ひどいけど、でも眠気はすっかり吹き飛んだみたいでよかった。
 里緒菜ちゃんの学校の学園祭…うん、やっぱり一緒に回ってみたいよね。

 電車に揺られてたどり着いたのは、山々に囲まれた小さな町。
 そこからは歩いて目的地へ向かうけど、その道のりはまっすぐでしかも整然としてた。
 あの子の話だとまず何もなかったこの場所に学園ができて、その後に駅も含めた町ができていったそうで、しかもしっかりした計画の下にらしかったりするんだって。
 何人か他にも同じ方向へ歩く人の姿も見られる中、しばらく歩いた先に見えてきたのは立派な門と壁に囲まれた場所…。
「…わぁ、ここが、私立明翠女学園なんだ」
「そういうこと、になりますね…私も、実際にきたのはこれがはじめてなんですけど」
 学園祭を示す看板や綺麗に飾りつけられた門の先を見て、私たちは思わず足を止めちゃう。
 だって、何ていうか、ちょっと広すぎて…ため息出ちゃった。
 門の先は並木道になっててその先に何か建ってるのは見えるんだけどかなり遠いし、道の両側にある桜らしい木だってもう完全に林になってる。
 う〜ん、ここが麻美ちゃんや美亜さんの通ってた学校なのか…確かに私には縁遠そう。
「校舎が見えないとか…こんなところへ通いたくはないですね」
 面倒くさがりやさんの彼女はそんな感想持つけど、とにかく改めて門をくぐる。
 門のすぐ先には受付があって、そこで里緒菜ちゃんが私たちのこと説明して、パンフレットを受け取って通してもらえた。
「私たちの関係、ちゃんと恋人ですって言えばよかったのに」
 里緒菜ちゃん、友人ですだなんて言ってたの。
「私は、自分の関係をひけらかす様なバカップルにはなりたくないんです」
 まぁ、里緒菜ちゃんがそう言うならしょうがないか。
 で、しばらく並木道を歩いてくと噴水、それに大きな講堂の前へたどり着いた。
「ここがこの学園の中心、みたいです。ここから初等部、中等部高等部と三方向へ分かれているんですね…まぁ、遠いですけど」
 彼女の言葉通り、左右へとのびる並木道を見てもその先が見えない…。
「で、この講堂で夏梛ちゃんと麻美ちゃんのライブがあるんだね」
「…センパイ、声が大きいです。それはまだ秘密なんですから」
「…あ、そっか」
 慌てて口をつぐむけど…よかった、講堂のあたりはあんまり人の姿がなくって聞かれなかったみたい。
 今はちょうどお昼時、講堂での催し物も休憩中みたい。
「もう、センパイ、気をつけてくださいよね…それより疲れちゃいましたし、どこかで落ち着きませんか?」
 私もおなかすいてきちゃったし、彼女の言葉にうなずいた。
 …本当はせっかくここにきたんだから麻美ちゃんが練習してたっていうスタジオを探してみたかったんだけど、ね。

 ここの学校は同じ敷地に小中高校みんなあるみたいだけど、学園祭のイベントを実施してるのは高校生でそれ以下の生徒は純粋にお客さんってことになってる…だから小さい子の姿が結構目立つ。
 で、お店とかも高校…高等部の校舎とその周辺に集中してる感じで、そのあたりはなかなかの賑わいで、お昼時ってこともあって食べ物出してるお店はどこもいっぱい。
 里緒菜ちゃんも疲れてるし、どこか落ち着けるところ…ってことで、歴史を感じさせる木造校舎の三階、三年生の教室のある階へやってきた。
 パンフレットによると三年生の一クラスが喫茶店やってるみたいで…喫茶店が落ち着きそう、って感じるのはいつものあの場所のイメージがあるからなのかな。
 そこの教室にもちょっと行列できてたけど、程なくして中へ入ることができた。
「いらっしゃいまし。お席へご案内いたします」
 出迎えてくれたのは、おっとりやさしそうな雰囲気でメイドさんの服着た女の子…だったんだけど、頭に猫耳つけてるのが目に留まる。
「…どうしてあの人だけ猫耳なんでしょう」
「う〜ん、解んないけど、似合ってるからいいんじゃないかな」
 席についてその子が去ってからそんなこと言い合っちゃうけど、その子以外の店員さんはメイド服ではあっても猫耳はつけてないんだ…ま、きにしなくっていい、かな?
 そんなこの教室だけど、内装やテーブルなんかもちゃんと喫茶店な雰囲気出してて、メニューも軽食もあってなかなかしっかりしてて味もおいしい。
「…この紅茶、あのお店の味にちょっと似てますね」
 出された紅茶を口にして、向かい側に座るあの子がそんなこと言ったりして、ちょっと一息ついてまったりした時間…。
「わっ、そこのお二人、ちょっといいかな〜?」
 と、元気のいい声がかかってきたって思ったら、誰かが私たちの席に駆け寄ってきた?
「う、うん、いいけど…どうしたの?」
 その子を見て私は戸惑い、あの子も首をかしげちゃう…だって、私たちに駆け寄ってきたの、かなり小さな女の子だったんだもん。
 小学生、に見えるけど他の店員さんと同じメイド服着てるし…お手伝いかもだけど、とにかくどうしたんだろ。
「うん、お二人ってもしかしなくっても、百合な関係なのかな〜?」
「…へっ?」「こ、この子、いきなり何言うんでしょう…」
 今度はお互い顔を見合わせちゃったけど…百合って、あれのことだよね?
「え〜と、どうしてそんなこと聞くの?」
「うん、みーさ、百合な人を見れば解って、それに百合なお話を書くの好きだから、お二人のこと書いてあげようかな〜、って思ったんだよ〜」
 うわっ、そんな美亜さんみたいな特技をこんな小さくって無邪気そうな子が持ってるっていうの?
「それで、お二人はそんな関係だよね〜?」
「う、うん、まぁね?」「見ただけで解るとかどういうことなのか不思議ですけど、間違ってはいません」
「わぁ〜、やっぱりそうだったんだ〜。うんうん、お似合いのお二人だよ…きゃ〜、きゃ〜っ」
 隠すことじゃないから正直に答えると、その子は思いっきりはしゃいじゃう。
「え〜と、みーさは見たことないけど、そっちのクールそうな人はこの学園の生徒なのかな〜?」
「あっ、いえ、私は分校の生徒です」
 ちなみにどっちも制服は同じ。
「そうなんだ〜、だから見たことなかったんだ〜。学園以外の子のお話書くのはじめてだけど、頑張るよ〜」
 今の言葉、つまりこの学校の生徒の話なら書いてる、ってことか…しかも百合なお話を?
 う〜ん、まさかこんなこと言われるとは思いもしなかったけど、どうしようかな…。
「…ふふっ、美紗ちゃんったら相変わらずね」
 と、そのとき、その子の後方から何だか聞き覚えのある声が届いて、その子も後ろを振り向いた。
「あっ、お姉さま、きてくれたんだ〜」
 そんなこと言ってその子が駆け寄った相手…なんだけど。
「…あれっ、美亜さん?」「そう、ですよね…」
「…あら、そこにいるのって、誰かと思ったらすみれちゃんと里緒菜ちゃんじゃない。貴女たちもきていたのね」
 私たちのことに気づいて微笑むのは、まさしく美亜さんだった。
「あれれ〜、お姉さま、あのお二人とお知り合いなの〜?」
「ええ、私があちらの町でよく会っている子たちなの。いい感じな百合なお二人でしょう?」
 う〜ん、この会話の内容からして、この二人って…いや、別の意味でああいう呼びかたしてるのかもだけど、普通に考えると…。
「この子は私の妹で、この学園に通ってる美紗ちゃん。ふふっ、かわいいでしょう?」
「明翠女学園高等部三年の藤枝美紗だよ〜。よろしくね〜」
 改めて自己紹介されたけど、やっぱり…って、いや、妹さんってこと以上に…。
「美紗さんって…ん〜、こほんっ」「え、私より年上なんですか? てっきり小学生かと…」
 わーっ、里緒菜ちゃんってば、私が何とかこらえた言葉をそんなはっきりと…!
「う〜ん、また間違えられちゃったよ〜」「ふふっ、美紗ちゃんはかわいいから」
 でも、二人ともそれを怒ったりしなくって一安心…っていうか、やっぱりよく間違えられちゃってるんだ。

「まさか、あの人にあんな妹さんがいるとは思いもしませんでした」
「う〜ん、妹さんがいるってことは知ってたけど…なんか圧倒されちゃったなぁ」
 あれから久しぶりの姉妹の再会をあんまりお邪魔しちゃいけないかな、ってことで早々にお店を後にして。
 のんびり学園祭の様子を見て回りながら、さっきの美亜さんと妹さんのこと思い返してた。
「まぁ、趣味嗜好は非常に似通っていたみたいですけど」
「百合な関係な人を見抜いちゃったりできるとこも、ね…あ、でも美亜さんは物語は書かないか」
 私たちの物語の件はうやむやのうちに終わっちゃった…書いてもらう、ってなってたらどうなってたんだろ。
 ちなみに、あのお店の紅茶の味が美亜さんの喫茶店のものに似てたのは、美亜さんが同じもの用意して届けてくれたらしかったりと、普段は離れ離れでも仲のよさそうな姉妹だったよね。


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