そんなこと話してるうちに事務所に到着。
 さっそくスタジオを使わせてもらおうかな、って思ったけど、ダンスルームの中から元気な歌声が漏れてきてたから気になっちゃう…これ、あの二人だよね。
「夏梛ちゃん、麻美ちゃん、お疲れさま」
「あっ、すみれセンパイに里緒菜さん、こんばんはです」「えっと、こんばんは」
 あの子と一緒にダンスルームへ入ってみると二人の女の子が歌いながらダンスの練習中…声をかけると動きを止めて挨拶してくれた。
「二人とも、今日はアイドルの活動のほうの練習?」「大変そうね…」
 そういえば里緒菜ちゃん、二人に対しては多少砕けた口調になる…私に対してはもう癖でああなっちゃってるそうだから、それはそれでいいかな。
「はい、声のお仕事もこちらのお仕事も、どっちもどっちも頑張らないといけませんから」「うん、夏梛ちゃん、私ももっと頑張るよっ」
 やっぱり、想いあってる二人が一緒に同じことするのっていいな、って感じるけど、それ以上に気になることもあった。
「二人とも…特に麻美ちゃん、ずいぶん気合入ってるね。何かあった?」
「あっ、今週末にイベントがあるからですね、麻美?」「は、はい、私の母校の学園祭ライブに出ることになってまして…」
「あっ、そういえばそうだっけ。もう今週末なんだ、頑張ってね」
 うん、何度か聞いてたし、美亜さんも話してたっけ。
「あ、ありがとうございます。あとあと、すみれセンパイと里緒菜さんの出演出演してるアニメ、私たちも観ました」「ラジオも聴かせてもらいましたし、これからも楽しみにしています」
 っと、二人は私たちのアニメ、観てくれたんだ。
 そういえば二人の好きなジャンルってどんなのなのかな…なんて、練習の邪魔しちゃ悪いよね。

「ね、里緒菜ちゃん、次の日曜日って何か予定ある?」
 話もそこそこにして二人と別れてスタジオへ入った私たちだけど、そこでそんなことたずねてみた。
「日曜、ですか? いえ、特には…あの場所で一緒に練習したいとか、そういうことですか?」
「ん〜、それも魅力的だけど、ちょっと違うかな。一緒にお出かけしよ、って思って」
「はぁ、最近は過ごしやすくなってきましたしのんびりしたかったんですけど、まぁいいです。どこへ行くんですか?」
「うん、夏梛ちゃんと麻美ちゃんの学園祭ライブ、観に行こっ」
「…え、お出かけって、そういう…。ちょっと遠すぎませんか?」
 あの二人の話を聞いて思いついたことだったんだけど、難色示されちゃった。
 そういえば私は詳しい場所知らなくって里緒菜ちゃんが教えてくれたけど、ここから電車で一、二時間ほどかかるとこらしい。
「なぁんだ、そこまで遠くないじゃない。ね、行こうよ?」
「えぇ〜、でもあの二人のライブなら、夏祭りのときに見たじゃないですか」
「でも、あれは恋人になる前のことだったし…」
 そう、私たち二人も、あの二人も、あの頃はお互いにまだ…。
「っ…と、とにかく、ちょっと面倒です」
 あれっ、あの子の顔が少し赤くなった気がする…けど、あくまであんなこと言うなんて。
「うぅ〜、ぶぅぶぅ! もういいもん、私一人で行ってきちゃうんだから!」
「か、かわいい…っと、それ、無理ですから」
 何かおかしな言葉が耳に入った気がする…けど。
「…へ? それってどうして?」
「あそこの学園祭、一般開放してませんから」
 どうも参加できるのは在校生と卒業生にその親族と友人知人、そして招待状のある人だけ、らしい。
「分校の生徒も生徒扱いですから、私は入れますけどね」
「うぅ〜、じゃあやっぱり一緒に行こうよ〜! お願いっ」
 美亜さんを誘う、って手もないことはないけど、でもやっぱり里緒菜ちゃんと一緒じゃなきゃ…っていうか、さっきの一人でっていうのも冗談なんだよ〜。
「う〜ん、どうしましょうか」
「そんなぁ…しゅん」
 ライブのこと抜きにしても、一緒に学園祭とか絶対楽しいって思うんだけどな…と、あの子の手が私の頭に乗ってきた?
「もう、そんなにしゅんとしないでください。仕方ないですし、私も行ってあげますから…」
「…わぁ、ほんとにっ?」
 私のことなでなでしながらの彼女の言葉に、うつむきかけてた顔を上げる。
「はい、本当です…というより、元々そのつもりでしたし」
「…へ? じゃあ、どうしてあんなこと言ってきたの?」
「だって、すねたりするすみれが、あまりにもかわいくって」
 そんなこと言って悪戯っぽく微笑む彼女…。
「わわっ、ひどいよそんなの…ぶぅぶぅ! それに、私はかわいくなんてないっていうのに〜!」
「ほら、やっぱり…かわいいじゃないですか、すみれったら」
「わっ…り、里緒菜、ちゃん」
 抱きつかれちゃって、言葉が出なくなっちゃった。
 そっと抱きしめ返して…。
「…あら、まぁ、お二人とも、とっても仲良しさんですね」「本当…うらやましい」
 って、いつの間にかスタジオの入口に睦月さんと梓センパイがいて、私はさっきとは別の意味で固まっちゃった…。


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