そんな私と里緒菜ちゃんが一緒に主役を演じてるアニメ、つい先日に第一話が放送されたの。
 放送局がかなり少なめの作品になるんだけど、私たちの住んでる地域では観れて、しかも一番はやいタイミングで放送されるから嬉しい。
 その先日は、私の部屋にあの子が泊まって一緒に第一話を観たんだけど、放送開始直前にいきなりあの子が私のことを名前で呼んできてもうそれどころじゃない気分になっちゃったりしてたっけ。
 そんな私たちが出てるアニメ、特に原作があるものってわけじゃなかったり、放送局が少なかったりと、今期はじまったアニメの中だと注目度では一番低いくらいかもしれない。
「あら、そんなことないわ、私はしっかり観させてもらったわよ」
 と、いつもの喫茶店へアルバイトにやってきて、でもお客さんが誰もいないから美亜さんとお話ししてたら、しっかりとそう言われちゃった。
「まぁ、美亜さんはアニメとかゲームとか大好きそうだし、チェックしてるよね」
 夏梛ちゃんと麻美ちゃんのデビュー作なゲームもしたっていうし、そういうイメージあったんだけど…。
「あら、少し勘違いしているみたいね。私が好きなのは百合なものであって、アニメやゲームじゃないわ?」
「あ、そ、そうなんだ…」
 ということで、百合要素の強いものならアニメやゲームだけじゃなくってほぼあらゆるものに手を出すっぽいけど、そうじゃないものには一切興味を示さないらしい。
「う〜ん、あのアニメは美亜さんのお眼鏡にはかなった?」
「ええ、今期のアニメでは一番期待できそう。友情止まりだったとしても妄想は十分できるレベルだし、何より演じてるのがすみれちゃんと里緒菜ちゃんなんだもの、引き続き見守っていくわ」
 私たちの出てるアニメは、二人の女の子が主役のお話…対立する立場にいる二人が心を通わせていくお話、になるのかな?
「そういうすみれちゃんは、声優になるくらいなのだから、アニメやゲームが好きなのでしょう?」
「うん、それはもちろん」
 そういうのが嫌いなのにわざわざこんな厳しい世界に入る人って…いる、のかなぁ?
「じゃあ、すみれちゃんは特に好きなジャンルとか、あるのかしら?」
「ん〜、そうですね、やっぱり熱い作品が一番かな。恋愛ものとかは…百合とかそういうの抜きにしても、ちょっと苦手かも」
「あら、そうなの?」
「うん、熱い人間ドラマとか、戦いの中で生まれる友情とか信頼とか、あと努力とかで勝利を掴み取るとか、そういうのが観てるこっちも燃えてきて大好き」
「そう、なるほどね…すみれちゃんらしいかも」
 スポーツ部活ものとか、戦いのお話とか…そりゃ戦争はよくないけど、現実とお話は区別つけないと。
「でも、スポーツ部活ものはとにかく、戦いのお話って…最近はすみれちゃん好みのものは少なそうなイメージね」
「う〜ん、そうなんだよね…そのあたりは昔のアニメのほうがよかった印象あるし、残念」
 そういうのは男くさいくらいでちょうどいいって思うんだけど、最近はどうしても女の子出しちゃうんだよね…そうするとお話から緊迫感とか色々薄れちゃう感じで、やっぱり残念。

 …と、そんな話で美亜さんと盛り上がってると、入口の扉が開く音がしてお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませっ」
 うん、気持ちを切り替えてお仕事のほうに集中しなきゃ。
「あっ、すみれさん、こんにちは」「今日もお会いできて嬉しいです」
「ん、えっと、きてくれてありがと」
 やってきたのは、あの子と同じ学校の生徒さんたち…時間を見ると、学校はもう放課後を迎えてる時間。
「片桐さんももうすぐいらっしゃると思いますよ?」「ふふっ、待ち遠しいですか?」
「う、うん、まぁね?」
 少し前にまさにこの場所で私と里緒菜ちゃんとの関係を公にしちゃって以来、生徒さんからそんな声かけられることが多くなっちゃった。
「あっ、あなたは確か里緒菜ちゃんと同じクラスだったよね。今日の様子どうだった?」
 その分、学校でのあの子の様子も聞きやすくなったんだけど、ね。
「はい、片桐さんは今日も相変わらずかっこよかったです」
「そ、そっか」
 私は仲良くしてあげて、って言ったんだけど、まだお互い近づきづらい感じか…そこは焦らず、かな。
 それからも何人かお客さんがやってきて、お話も少しするけど…やっぱり、あのことに気づいた子は誰もいないみたい。
 それはそれで安心…って考えてると、ついにあの子がお店に姿を見せてくれた。
「あっ、里緒菜ちゃん、いらっしゃいませっ。ほらほら、こっち座って座って?」
「は、はい、どうも…」
 私たちにお客さん、さらには美亜さんの視線も集まる中、彼女を席へ案内してあげていつもの紅茶を出してあげる。
 これももうすっかりいつもの風景…ちょっと聞きたいことあるんだけど、今はお仕事のほうに集中しなきゃ。

「センパイ、今日もお疲れさまでした。まだ体力、ありますか?」
「もう、そんなのチョコバー食べて、それに里緒菜ちゃんと一緒にいればすぐ元気出るよ…サクサクサク」
 アルバイトが終わると二人で喫茶店を後にして、一緒に事務所へ向かいながらそんなやり取り。
 今日はこれから事務所のスタジオが使えるから二人で練習することにしてるってことであんな気を遣ったりしてくれて、やっぱりいい子だよね…手をぎゅって握ったりしちゃうけど、そうだ。
「里緒菜ちゃん、今日とか学校で何か言われたりしなかった?」
 アルバイト中から気になってたことをたずねてみる。
「何か、って…別にいつもどおりでしたけど。私とセンパイとの関係なんて、いまさらたずねられたりもしませんし」
「う〜ん、そっか…やっぱり、あのアニメ観てる子ってあんまりいないのかな」
「どうしてそうなるんです…あ」
 ようやく彼女も気づいたみたいなんだけど、私たちって本名のまま声優の活動してて、それはあのアニメでも同じなわけで、つまり私たちのこと知ってる人があれ見たら私たち二人の名前が並んでることに気づくんじゃ、ってなるわけ。
 でも私はアルバイトの場で、あの子も学校でそれぞれ何も言われなかったってことは、つまりそういうことなのかな、って。
 …いや、放送前に気づきかけた子が一人いたけど、ごまかしたんだっけ。
「まぁ地味かもしれませんし、そもそも女性向けってわけでもないですから、ね」
「う〜ん、私たちのしてることが知られたりしない、ってのはいいことなんだけど…」
 なぜだかちょっと複雑な気持ちになっちゃうよ。
「あの子たちに気づかれない、ってことは他の人に気づかれることもまずない、かな?」
「まぁ、そうですね…この先はどうなるか解りませんけど」
 私の地元なら…って、今だとあんまり接点なくなっちゃってるし、ひとまずはいいか。
 うん、このことはもういいんだけど、別のことが気になってきちゃった。
「ね、そういえば里緒菜ちゃんって特に好きなアニメのジャンルとかってある?」
「…何だか唐突な質問ですね」
「ん、ちょっと今日、美亜さんとこの話題で盛り上がって…よかったら教えてほしいな」
 そういえばこれってまだ知らないことだったんだよね…彼女、結構何でも観てたから。
「まぁ、いいですけど…そうですね、特撮とかロボットものとかでしょうか」
「…へ?」
 ちょっと…いや、結構意外なジャンルが上がってびっくりしちゃった。
「…何ですか、似合わないとか子供っぽいとか思いましたか?」
 あ、ちょっとすねたみたいになっちゃった…かわいいんだから。
「ううん、そんなことないって。ただ、そういう作品って熱いものが多い気がするから、暑苦しいの苦手なはずの里緒菜ちゃんが好きだなんて意外だな、って思って」
「熱いと暑苦しいは全然別物だと思います」
「ん、そうだねっ」
「…ずいぶん嬉しそうですね」
「だって、里緒菜ちゃんとアニメの趣味が結構重なりそうなんだもん。私は正義のヒーローとか、熱いお話が大好きだし」
「…ふふっ、センパイらしいですね、それって」
 お互いに笑いあっちゃうけど、好きな人と好きなものを共有できてその話題で盛り上がれるって、とっても幸せなことだなぁ。


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