「いらっしゃいま…あ」
 タイミングがいいのか悪いのか、入ってきた子を見て一瞬言葉を失っちゃった。
「…やっぱりいいですね、センパイは」
 他のみんなも固まっちゃう中、入口で足を止めてちょっと冷たさを感じる口調や表情でそう言うのは…里緒菜ちゃん。
 もしかしなくっても、いつかのあの日みたいにやきもちモードに入っちゃったのかな…そんな彼女もかわいいけど、そんなこと言ってられないか。
「もう、里緒菜ちゃんったら、いいって何が?」
「別に、センパイは他の子にも好かれてるんですね、なんて思っただけです」
 う〜ん、そういう風に見えたんだ…。
「それは違うよ? 人気があるのは私じゃなくって、里緒菜ちゃんのほう」
「…私が? どういうこと、ですか?」
 きょとんとしたりして、本人に自覚はなかったみたい…まぁ、彼女って周囲に対してかなり無関心だものね。
「里緒菜ちゃん、ここにいるみんなの憧れの存在なんだよ? で、そんな里緒菜ちゃんとよく一緒にいる私は何なの、って聞かれてたわけで…」
「…まさか。私なんかのどこに憧れる要素が…」
「そんなことありません、片桐さんはとっても素敵です」「そのクールな感じ、憧れちゃいます」
「なっ…うぅ」
 予想だにしてなかったことなのか、あの子の顔が赤くなっちゃう。
「ね、解ったでしょ? 人気があるのは私じゃなくって、里緒菜ちゃんのほうなんだって」
「…それは違いますっ」
「…へ?」
 生徒さんの一人の上げた声に固まっちゃった。
「確かに片桐さんは素敵なかたですけど、それはすみれさんもなんです」「そうです、お二人ともとっても素敵です」「そんなお二人がとっても仲良さげに見えましたから、どういうご関係なのか気になって…」
「え、え〜と…」「…ちょっとセンパイ、これってどういうことなんですか」
 みんなの言葉に、私たちは顔を見合わせて戸惑っちゃう。
「…ほら、二人とも、ちゃんと言ってあげないと」
 さらには今まで様子を見てた美亜さんまでそんなこと言ってきちゃう。
「…里緒菜ちゃん、どうしよ?」
「面倒ですね…センパイにお任せします」
 あの子へ歩み寄って小声でたずねてみると、丸投げされちゃった。
 う〜ん、任されたからには私の思うとおりにしていいわけで、そしてここにいる子たちはどうも私にも里緒菜ちゃんにも好意を持ってくれてるみたい…なら、大丈夫かな。
「ん〜、こほんっ。私と里緒菜ちゃんの関係だけど…恋人同士なんだ」
「は、はっきり言うんですね…まぁ、隠す必要もありませんしいいんですけど」
 はっきり関係を公言した私にあの子は顔を赤くしちゃう。
「…わぁ、やっぱりっ」「そうだとは思っていたんですけど…とってもお似合いですっ」「お二人のこと、応援しちゃいます」
 で、みんなは歓声を上げてくるけど…あれっ、この反応、ある程度関係を予想されてた?
 でも、後ろで満足そうに微笑んでる美亜さんはともかく、こうやって他の子も祝福してくれるなんて嬉しいな。
「うん、ありがとっ。みんな、私の大好きな里緒菜ちゃんと仲良くしてあげてねっ」
「ちょっと、センパイ…」
 あの子はちょっと抗議の声を上げようとしたけど、みんなはうなずいてくれて…うんうん、かっこいいって思われるのもいいけど、里緒菜ちゃんにはもっと友人関係も含めて学校生活を楽しんでほしい。
 まぁ、あんまり仲良くなりすぎると、私もやきもちやいちゃわないとも限らない…けど。
「それに、里緒菜ちゃんも…私が誰よりも、一番大好きなのは里緒菜ちゃんに決まってるんだから、あんまりやきもちとかやかないでね?」
「そ、そんなこと…解ってます」
「ん、よかった」
「私だって…誰よりもセンパイのことが、好きなんですからね?」
 そんなこと言われながら見つめられると、気持ちが抑えられなくって…みんなの歓声の中、口づけを交わしちゃった。


    (第4章・完/第5章へ)

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