お出かけ…ううん、そうじゃなくっても一緒にいるだけで里緒菜ちゃんの新たな、今まで知らなかった一面を知ったりして、そのたびにますます彼女のことが好きになっていく。
でも…知りたいな、って思ってもなかなか知ることのできないこともある。
「里緒菜ちゃん、お疲れさまっ。今日の学校、どうだった?」
「別に…いつもと変わりませんよ?」
学校のあった日、その日のことをたずねてもいつもそう返ってきて、学校でどんなことあったのかとか全然話してくれないの。
「う〜、まさかとは思うけど、いじめられたりとか、してないよね? もしそんなことがあったら、絶対許せないし、私が力になるよっ?」
「もう、センパイは心配性ですね…そんなことありませんから、気にしないでください」
そう言われて微笑まれると大丈夫だよね、って思うしかないわけだけど、でもやっぱり気になっちゃう。
里緒菜ちゃんの学校での様子…どんなのなんだろ?
最近は夏梛ちゃんや麻美ちゃんとも仲良くなってきたみたいだけど、でもそれも本当に最近のことで、私とだってまずは私が積極的に関わっていったわけで…これ、里緒菜ちゃんって麻美ちゃんに負けないくらい人見知りなんじゃ、とも見えちゃう。
そう思うと学校でちゃんとやってるのかますます不安になってくるし、そもそも授業をちゃんと受けてるのかな…寝たりしてないか、こっちも不安になる。
うぅ〜、やっぱりとっても気になっちゃう…何とかして様子を見られたりしたらいいんだけどな。
あっ、そうだ、変装してあの子の学校の生徒に成りすまして入り込んでみる、とか…ううん、そんな悪いことしちゃダメだよ。
う〜ん、ここはやっぱり気にしないでおくしかないのかな…。
「うふふっ、すみれちゃんは好きな子のことを何でも知りたい、って思っちゃう時期なのね」
そんな私のことを、美亜さんが微笑ましげに見守って…はっ!
「ご、ごめんなさい、お仕事中にぼ〜っとしたりして…!」
「あら、気にしなくってもいいのよ? 好きな子のことを考えて悶々とする姿を見ているのも、またいいものだもの」
うっ、そんな風に言われるとものすごく恥ずかしい…考えてることも完全に見透かされちゃってるし。
とにかく、美亜さんはあんなこと言ってるけど、今はお仕事中なんだししっかりしなきゃ!
気合を入れたところで時計を見ると、あの子の学校が放課後を迎えてちょっとした頃か…もうそろそろきてくれてもいいかも。
ちょっと胸が高鳴ったそのとき、喫茶店の扉が開いた。
「あっ、いらっしゃいませ」
まさかあの子…って思っちゃうけど、入ってきたのは同じ制服な、でも別の子。
思わずがっくりしそうになるけど…いけないいけない、ちゃんとしなきゃ。
やってきたお客さんを席へ案内する…と。
「夏休みが終わったのはさみしいけど、こうやってまたすみれさんに会えるのは嬉しいです」
「…へ、そ、そう? いや、そこまで言ってもらえるほどかなぁ…あ、ありがと」
席についたその子の言葉にちょっと戸惑っちゃう。
「ほどですってば。すみれさん、うちのクラスとかでも結構人気なんですから」
「そ、そうなんだ…あはは」
ときどきこんなこと言われることもあるんだよね…美亜さんにも私目当てでくる子がいる、なんて言われるんだけど本当なのかなぁ?
「あっ、すみれさん、こんにちは」「今日はお会いできて、嬉しい」
「うん、いらっしゃいませ」
私が人気なのかはとにかくとして、それからもやってくるお客さんは私の名前をすっかり覚えてたりして。
「そういえばすみれさん、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
と、そんな中、注文されたものを運んだところでそのテーブルのお客さんに声をかけられた。
そのお客さんもやっぱりあの子と同じ学校の制服姿…というより、今お店にいるお客さんはみんなそう。
「ん、どうかしたの?」
他のお客さんの注文はみんな取り終えてるし、ちょっとは大丈夫だよね。
「はい…すみれさん、片桐さんとはお知り合いなんですか?」
「…へ?」
あまりに意外というか、予期せぬ質問に固まっちゃった…今の、聞き間違いとかじゃない、よね?
「え〜と、それって里緒菜ちゃんのこと? どうしてそんなこと聞くの?」
私が戸惑いながらもたずね返してみると、その子だけじゃなくって店内にいる子たちみんなが私に注目してきた?
「え、え〜と、本当にどうしたの?」
「わ、私、すみれさんと片桐さんが一緒に歩いてるとこを見たんです」「あ、私はここで話してるのを何度か…」「そうそう、私も見かけて気になっていました」
わっ、何だか次々にたずねられちゃったけど、まぁここでも里緒菜ちゃんとはよくしゃべったりしてるし、見られてて当然か…って、ん?
「あれっ、みんな、里緒菜ちゃんのこと知ってるの?」
「はい、もちろんです」「私、クラスメイトですし」
あ、そうだよね、同じ学校に通ってるわけだし、おかしくない。
同じクラスの子までここにきてたのか…これはちょっと、いい機会かも。
「じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど、里緒菜ちゃんって学校ではどんな子なの?」
ずっと気になってたこと…それを聞けるってことで、ちょっとどきどきしてきた。
「片桐さんは…とってもクールでかっこいい人、ですよね」「うんうん、私たちみたいな凡人じゃ近づけない雰囲気なんです」「ですから声はかけられませんけど、見ているだけで…」
う、う〜ん、何だか遠い目をする子まで出てきちゃったんだけど、今のみんなの言葉を総合してみると…。
「え〜と、ちょっとアイドルか何かを見てるみたいに感じられるんだけど…」
「あっ、まさにそんな感じです」「クールでかっこよくって、憧れちゃいます」
クールでかっこいい、か…私はかわいいって感じるんだけど、でも見た感じはそう言われるとそんな印象も受けるし、もしかしてやる気のなさげなところもかえってそう見させるの、かも?
でも、アイドルだなんて、確かにあの子はそう言われてもおかしくないくらいのかわいらしさだけど、もしかして…。
「お昼とか姿が消えちゃうんですよね…」「でも、そういう何をしているのか解らないミステリアスさもまた魅力です」
…声優してることみんな知ってるんじゃ、って思ったんだけど、それはなかったみたい。
そしてやっぱりっていうか、里緒菜ちゃんは他の子とあんまり接してないみたいだけど、それはいじめられてるとかそういうのじゃなくって、高嶺の花で近づけない、って感じのものみたい。
う〜ん、里緒菜ちゃんが素敵、っていうところはみんな解っててくれてるから嬉しい気もするけど、何か複雑な気持ち…。
「それで、すみれさんと片桐さんはどういうご関係なんです?」「里緒菜ちゃん、とか呼んでますし親しそう…とっても気になります」
あ、話が戻っちゃったけど、どうしよ…みんな里緒菜ちゃんに憧れてるみたいだし、本当のこと言っていいのかな?
「え〜と、私は里緒菜ちゃんの…」
とにかく何か言おうとしたそのとき、入口の扉が開く音…いけない、お客さんだ。
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