「もう、我慢できなかったとか、センパイはやっぱりかわいいですね」
「う、うぅ〜、そんなことないし…と、とにかく、背中流してあげるねっ」
 次の機会、なんてものをじっと待ってるってことができなくって…結局、そんなことになっちゃった。
 一糸まとわぬ姿のあの子になでなでされたりしてとっても恥ずかしい…とってもどきどきして、でも幸せいっぱい。
「里緒菜ちゃんの髪、とってもきれいだよね」
「そうでしょうか…あんまり意識したことありませんけど」
 お風呂から上がったらあの子の長い黒髪を乾かしてあげたり。
「さて…と、それじゃ、センパイのアルバムを見せてもらえますか?」
「うん、高校のしか持ってきてなかったけど、これだよ」
 すぐ身が触れ合いそうな距離で座った私たち…私は棚から出しておいた高校の卒業アルバムを机の上へ広げてあげる。
 こういうことになるとは思ってなかったから、それ以外のものは実家に置いたままなの…いずれ機会があったら見てもらいたいな。
「まずは集合写真…あっ、こんなとこにいますね。センパイの制服姿なんてちょっと新鮮ですけど…」
「けど…どうしたの?」
「いえ、この頃からセンパイって見た目はずいぶんきれいでかっこいいって表現の似合いそうな人だったんですね、って思いまして」
「…え、えぇっ? いやいや、そんなこと…」
「ないっていうんですか? バイト先であんなに人気だったりしますのに」
「それは…う、う〜ん」
 あれ、私がかっこよかったり、ってことなのかなぁ…よく解んないよ。
「この様子だと、学生時代も人気あったんじゃないですか?」
「いや、そんなことは…」
 って、里緒菜ちゃんから感じる視線がちょっと痛いけど、これって…。
「…んっふふ、大丈夫だよ、私にとって恋愛対象になったのは昔も今も里緒菜ちゃんだけだから」
「…これからも、ですか?」
「ん、そんなのもちろんだよ」
 やきもちやいちゃったりして、里緒菜ちゃんったらかわいいんだから。
「あっ、そういえばセンパイって演劇部だったんでしたね。どういう感じだったのか、ちょっと見てみたかったかもしれません」
「いやいや、声優としてならともかく、演劇のほうはそんな大したものじゃないよ? 入部したのだってちょっと遅かったし」
 部活動紹介のページでもあの子が私の写ってる写真を見つけてそんな会話。
「入部が遅かった、って…どのくらいで入ったんです?」
「ん〜と、確か一年のときの、夏休み明けかな?」
「なら一学期は何してたんです? センパイの場合、私みたいに帰宅部ってことはない気がするんですけど」
 そんなこと言う帰宅部の里緒菜ちゃんも何か部活すればいいのに…いや、声優としての活動もあるし、あんまり無理しちゃいけないよね。
「うん、それまでは他の部活の助っ人してたよ。あ、演劇部に入った後もそれは続けてたけど」
「助っ人、って…まぁ、何だかセンパイらしいといえばらしいですけど」
「ん〜、そうかな?」
「はい、センパイはずいぶんおせっかいな人ですから。私とはじめて会ったときだって…」
 おせっかい、かぁ…一応、部活の助っ人はお願いされたときだけしてたんだけどなぁ。
 それはともかく、里緒菜ちゃんとはじめて会ったときっていうと…。
「あれは誰だって放っとけないって思うんだけどな」
「そんなことありません、あれは完全にセンパイのおせっかいです」
「…あぅ、そ、そう?」
「はい、しかもその後もことあるごとに私におせっかいやいてきて…」
「…あぅあぅ、もしかして迷惑だった?」
 私としては力になってあげたいな、って気持ちだったんだけど…。
「そうですね、はじめのうちはちょっと」
 なのにそんなお返事がきちゃって、ちょっとしゅんとしちゃう。
 そんな私のこと見た里緒菜ちゃん…微笑むと、私に身を預けてきた?
「…わっ、里緒菜ちゃん?」
「でも、不思議ですよね…いつの間にかそうしてもらえることが嬉しいって感じる様になってて、センパイのこと好きになってたんですから」
「そっか…うん、ありがと」
 しゅんってなってた気持ちが一転、とってもあったかくなる。
「もう、何のお礼です、それ」
「ん、里緒菜ちゃんが私のこと好きになってくれたこと、かな」
 改めて思ってもとっても嬉しいことで、もったいないくらい幸せなこと…あの子のことやさしくなでなでしながらそう感じるの。

 二人寄り添ってアルバム見ながら私の学生時代の思い出なんか話してると、もうずいぶん夜も更けてきちゃった。
「ん〜…里緒菜ちゃん、今日はそろそろお休みする?」
「そう、ですね…センパイの生活リズムをあまり壊すのも悪いですし、そうしますか」
 軽く伸びをする私の言葉にあんなこと言われちゃったり…まぁ、いつもの私なら確かにもう寝てる時間なんだけど。
「よしっ、それじゃ、ベッドはちょっと小さいけど、里緒菜ちゃんは…」
「…まさかセンパイ、別々に寝るとか言い出しませんよね?」
 お互いゆっくり立ち上がるけど、ちょっと冷たい視線向けられちゃった。
「もう、そんなこと言うわけないじゃない。ただ、ベッドは狭いけど大丈夫かな、って聞こうとしただけ」
「ならよかったです…そんな心配、しなくっても大丈夫ですよ?」
 うんうん、せっかく恋人がお泊りにきてくれたのに別々に休んじゃうとか、そんなのさみしいよね。
「ん、よかった、じゃ…」
「…って、センパイ? どうしてエアコン切るんですか…」
 自然な流れでエアコン切って窓を開けようとする私にそんな声がかかってきた。
「えっ、どうして、って…休むときはエアコン切るでしょ? 大丈夫、暑かったら扇風機あるし」
「えぇ〜、そんなこと当然の様に言われても…まだまだ暑いですし、エアコンかけときましょうよ」
 こんなとこに見解の違いがあったなんて…そういえば、彼女の部屋でお泊りしたときは休むときもエアコンかけっぱなしになってた気がする。
「う〜ん、でも身体に悪い気が…」
「暑い中我慢して寝るほうがよっぽど悪いって思いますよ? それに、いくら二階っていっても、女の子の部屋の窓を開けっ放しにしておくのは物騒な気もしますし。センパイなら何かあっても大丈夫そうなイメージありますけど、でも女の子に違いないんですからもう少し気をつけてください」
 里緒菜ちゃん、私のこと心配してくれて…それに、今ここには彼女もいるんだし、返す言葉がなくなっちゃった。
「…あ、もしかして電気代が心配ですか?」
 ちなみにあの子の学生寮は電気代とかはみんな学校が出してくれるそう。
「ううん、そんなことないよ。じゃ、今日はエアコンかけたままお休みしよっか」
 普段そうしてる彼女がゆっくりお休みできなくなってもいけないものね…エアコンをかけなおしとく。
「…よかったです、これで安心ですね」
「もう、そんなほっとしたりして、大げさなんだから」
「そんなことありません。だって、暑いままだったらセンパイとぎゅってしたりするなんて、とてもじゃないですけどできませんし」
「…あ」
 確かに暑い中だとそれはきつい…そのとおりなんだけど、ああはっきりと言われちゃうとちょっと恥ずかしくなっちゃう。

「ん〜、やっぱりこうして一緒のお布団入ると幸せ…ぎゅっ」
「もう、センパイったら…でも、私も幸せです」
 灯りを消して、同じベッドへ入る私たち…狭いから自然と身体が触れるけど、そのままあの子を抱きしめちゃう。
「こうやって一緒にお休みするの、ちょっと久しぶりだね」
「もう学生寮のほうじゃお泊りは難しいですからね…」
「うん、だからこれからも遠慮しないでここにきて大丈夫だからね?」
「はい、お言葉に甘えさせてもらいますね」
 うんうん、里緒菜ちゃんなら大歓迎…お泊りなんていわず、ずっと一緒に暮らしたいくらいだもん。
「…里緒菜ちゃん、学校卒業したら…」
「…うふふっ、そうですね、一緒に暮らせるといいですね」
 すぐ目の前で微笑む彼女…同じこと思ってたみたい。
「ん…これからも、こうしてたいな」
 大好きな人のぬくもり、それに想い…全部受け止めたいし、私のも感じてほしいよ。
 想いがあふれて…ぎゅって抱きしめあった私たち、あつい口づけを交わしたの。


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